アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第90話 最強の人類

先に飛び出して行ったはずのエナが箱の前で立ち往生していた。私たちが近づくと、エナは困ったような顔でこちらを振り返り

「上がってきた時みたいに動かないの……」

と呟く。

私はエルサイスを伺った。この箱もきっと錬金術の一種だろう。専門の彼なら何か分かるかもしれない。

「ちょっと失礼します。」

エルサイスはエナを押しのけて箱に入ると中を入念に見て回る。何に使うのかわからないレバーを左右に動かしたり、ボタンを押したりするエルサイスを、私はドキドキしながら見ていた。

未知のものに対して度胸は、私よりエルサイス方がある。エルサイスは知的好奇心が旺盛だ。新しいもの、見た事のない機械、本、細工、そういうものに臆することなく近づいていく。彼は人よりもそういうものに対しての興味関心の方が高かった。

「うーん、壊れてはいないようですね。多分これを動かすためのエネルギー源がなくなったから動かないんだと思います。」

箱から出てきたエルサイスが口に手をあて考えながら言う。

「エネルギー源って?」

「さぁ?そこまではわからないよ。」

私の質問にエルサイスは肩を竦める。彼だってなんでも知っている訳ではないのだ。知らないからこそ、興味があるのかもしれない。

「でも、さっきも言ったように壊れた訳では無いから、誰かが意図的にエネルギー源の供給を切ったって考えるのが妥当かな。」

一体誰が?の答えはすぐわかった。

「おや、あなた方はどちらかでお会いしましたね。」

声の方を振り返れば、祈りの教団幹部で魔王のロッツが物陰から現れたところだった。

「てめぇ……。」

「クロ。」

悪態をつく私の肩をエルサイスはギュッと掴んで制止してくる。エネルギー源を断ったのはこいつの仕業だろうと推測する。私たちを足止めして、今更何を話すことがあるのだろうか。

教団は滅びの村の地下工場で、人の命を使って万能薬を作っていた。私はそのことも、その施設の責任者であったロッツのことも許していない。何度だって全力で否定し続ける気でいた。

「ロイはどこ?ね、白いドラゴンは!?」

私とロッツの間に割り込むように、エナが詰め寄る。

「まぁ、そう焦らないで。皆さん、もう巫女様へのご訪問はお済みで?」

涼しい顔でそう聞いてくるロッツに対して

「済んだわよ!」

とエナが食い気味に返す。

悪役なら悪役らしく悪い顔をしてればまだマシだった。しかし、このロッツというやつは、涼しげな優しい笑みを浮かべながら、当たり前のような顔で、おぞましいことをやってのけるやつなのだ。それがすごく腹立たしい。自分たちが何より正しいと思い込んでる悪こそ、1番タチが悪い。

エナが腹立たしそうにロッツに詰め寄る気持ちはわからなくはない。ただ、そうやったところで相手の思う壷だ。ロッツはわざとこちらの神経を逆なでし、乱れた隙を突いてくる。エルサイスはそれがわかっているのだろう。だから、私の感情を抑えてくれているのだ。

相手の術中のはハマりたくない。だけど私1人で自分の感情を制御するのは難しかった。私は元々直情的な性格なのだ。この教団のやり方とはすこぶる相性が良くない。冷静なエルサイスが居てくれて助かった。

「では、ご案内しましょう。こちらへどうぞ。」

ロッツはそういうと、塔内部へと私たちを招き入れた。

 

 

 

教団の研究室といわれる場所に連れてこられた私は、ゆっくりと辺りを見回す。

机が並び、その上には実験器具のようなものが乱雑に置かれ、床には書類が散乱してた。「ぎゃー」という鳴き声に振り向けば、部屋の隅に置かれた檻の中に得体の知れない生き物が閉じ込められている。部屋を行き交う人は少なくないのに、気持ちの悪いほど静かだった。

「ここは我ら教団の研究室。ここで我らは最強の人類を作っているのです。」

「最強の人類?」

私とエナは、顔を見合わせて首を傾げる。エルサイスだけが、ロッツを見つめその口から話される言葉の真意を汲み取ろうとしていた。

「我ら人類は太古の昔から凶暴な魔物たちに常に生活圏を脅かされてきました。考えてもみてください。この世界は、産業も発展し、一見希望に溢れていますが得体も知れない、神の存在によってその発展が妨げられている。」

「妨げられてるって、魔物?」

話の流れからいけばそうであろう。でも、ロッツは首を横に振る。

「違いますよ。煙です。煙を使わないという教え、それが人間の力を奪っているのです。」

何を言っているのかさっぱりわからない。私はエルサイスを見上げ、知恵を求める。ロッツの言葉に考え込んでいたエルサイスは私の目線に気が付くと、目を合わせほんの少しだけ肩を竦めた。

「よくわからないよ。でも、連邦の教会のルーラさんが、火を使ってはダメって言ってたでしょ?あれと関連はありそうかなって……。」

彼はそうごにょごにょと呟く様に言うと、口に手を当てたまま思考の渦へと沈んでいく。

教会では、煙を起こすことは禁忌とされており、どうしても火を使う場所には護符を置くというルールがあった。私も修道士の証を手に入れるため、その護符を連邦の住民に配ったことがある。

それがどういう原理で、人間の力を奪って発展を妨げているのか、私には皆目見当がつかない話だった。

ただ、私は神が力を奪っているのではなく、私たち人間がまだ理解が出来ない領域なのではないかと思うのだ。エルサイスのような錬金術師は、私よりもその領域が少し広い。神が作った法則を自分で発見できる力がある。でもそれは神が作った箱庭の中で、小さな花の1つに正しい名前をつけているようなものだ。

全て知っている神が、なぜ人間にそれを開示しないのか、そういう苛立ちのようなものを、ロッツや教団は神に抱いているのかもしれない。

「……まぁ、冒険者にはわからないでしょう。」

ロッツが諦めたように言う。こんな狂った奴らの話なんてわかりたくもないと、私は思考を遥か彼方に投げ飛ばす。エルサイスだけが、石にかじりつくように眉間のシワを深くしながら考え込んでいた。

「では、話をかえて。ひとつ質問します。魔物の存在についてどう思いますか?」

「どうって……?」

あまりにも抽象的過ぎて、何とも答えられない。そんな私たちを見かねて

「人間にとって魔物は敵。あっていますよね。」

とロッツが断定的に言う。

そうとも限らないというのが私の見解だが、多くの人間はそう思ってるのかもしれない。連邦のやり方を見れば、一目瞭然、今は魔物を断つのが正義という風潮だ。

「多くの人にとっては、そうかもしれませんね。」

エルサイスがボヤけた返しをする。彼は本当にこういうのが上手い。主語を曖昧にしたり、省略したり、あとからどっちとも取れるような言い方をしたり。それに助けられることもあるが、口論の際私がボコボコに言い負かされるのは癪だった。口が上手いやつは本当に苦手だ。

「同じく、魔物にとっても人間は敵。実は、新人類たる魔物に世代交代せんと、人類は滅亡に向かっていると考えられませんか?」

人間と魔物は敵同士で、種の保存のためお互いを潰し合っている。そして魔物は人間より力があって、しかも不死だ。圧倒的に人間側が不利であり、滅亡の可能性がある。

「錬金術の知恵と神の恩恵を受け、生き延びてきた我々ですが、それでも衰退の一途を辿るばかり。私は、魔物の存在によって滅亡へ向かう人類の未来を、変えたいと願ってきました。そこで考え出したのが、最強の人類です!」

如何にも危険そうなその響きに、私は眉を寄せる。無邪気な子供のように笑うロッツが、私の不安をさらに駆り立てた。これは年端のいかない小さな子供がノートに落書きしている話ではない。大の大人が真剣に大真面目にやっているのだ。ここまで本気だと嘲笑すら出来ない。

「いえ、人類すら超える最強の生き物です。新たな世界に君臨する、魔物でも人でもない、知性も力も最高の存在。ここはそういうものを生み出す研究室なのです。」

ロッツはそう言って、自慢げに笑った。

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