アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第93話 ドラゴン戦その2

クローバーが空高く飛び上がる。空を描く直線と曲線の軌跡は正確な角度と質量で、ドラゴンに確実なダメージを与える。

僕はそう確信していた。

クローバーが放ったカレッジブレードはキンっ甲高い金属音とともに弾かれる。

「っ!?」

「クロ!落ち着いて。」

予想外のことに目を見開く彼女に僕はそう声をかけながら、僕自身の心も落ち着かせた。戦闘にイレギュラーは付き物だ。確実に仕留められると思っていてもそうはいかないことだってある。

とは言え、僕だってこれで決まると信じきっていたわけで、あてが外れて多少なりと動揺したのは確かだった。

「攻撃が効かない。」

クローバーの報告のあと、エナがドラゴンに突進していって、風迅剣を当てる。クローバーの時と同じく弾かれてしまう。

「クロ、一旦下がって回復しよう。」

僕がそう声をかけても、クローバーは聞く耳持たず通常通りの攻撃を繰り返していた。苛立っているのが手に取るようにわかる。冷静さを欠いたクローバーは何をしでかすかわからない。ただでさえイレギュラーなのに、ここで更なる問題を抱えるのは危険だ。

アルカナを唱えて全員を回復しながら、僕は全体の状況を確認する。

最初ドラゴンには全ての攻撃が通っていた。その後何らかの作用で攻撃が通らなくなった。何がスイッチになったはずだ。それがなんなのか解き明かす必要があった。

杖をかざし、呼吸を深くする。落ち着け、よく見ればわかるはずだ。

ドラゴン、クローバー、エナ、ロッツ、それぞれの位置を確認しながら、1つ1つの可能性を考えていく。残りのHPか、特定の属性攻撃か、1回の攻撃のダメージ量か、可能性を思い浮かべては状況を照らし合わせ、合わないもの切り捨てていく。中々時間のかかる作業だ。

ドラゴンは激しく咆哮するとクローバーに噛み付く。

「ぐっ!!」

右肩をズブリと噛まれたクローバーは痛みに呻いた。グジュっという嫌な音ともに赤黒い血が吹き出す。

「クロ!」

焦ってはいけない。あのくらい攻撃を食らってもクローバーなら倒れることは無いだろう。しかし、放っておいていい状況でもない。

「ちっ……くしょ……。」

ボタボタと血をこぼしながらクローバーが毒づく。剣も盾も構えたまま、戦意をまったく失っていない。それが彼女の強さだった。

「エル!わかったか!?」

「まだ分析中。」

物理も魔法も効かない、デバフも効果なし、まったくの無敵。時間経過でそれが解除される気配もない。

「クロ、あと少し時間ちょうだい。」

「どれくらい?」

「30秒。」

「わがままめ。」

クローバーはそう揶揄しながらも楽しそうに笑った。

痛みが、死にそうになる戦いこそが、彼女の生を燃え上がらせる。クローバーは死にたいわけでない。むしろ人一倍生きることに貪欲だろう。でも死に近づかなければ生きていることを感じられない。生きるために死にいく。そんな矛盾を抱えて彼女は戦っていた。

クローバーは目を閉じ、体の前で剣を真っ直ぐ立てる。それが彼女の奥の手の合図だった。

クローバーのHPは残り3分の1ほど、一撃を食らえば倒れてしまうだろう。

「行くぞ。」

そう言って、目を開けたクローバーの金色の瞳が、ドラゴンを捉える。

戦闘中熱くなり過ぎてなりふり構わず暴れ回るクローバーが赤い火の玉なら、今のクローバーは青い火の玉だ。恐ろしく落ち着いていて、でも赤い時と同じくらい感覚が冴え渡っている。

先に動いたのはドラゴンだ。トゲを持った尻尾でクローバーを凪払おうとしたその瞬間、クローバーは目にも留まらぬ速さで、振り下ろされた尻尾をくぐり抜けるようにかわし、その後ろからカウンターを入れる。

回避、avoidだ。それがクローバー特有の技だった。

それを初めて見たのは、僕がクローバーと冒険を始めて間もない頃、塔の外でカタキグマに会った時だった。その頃の僕達は今のように装備もスキルもなく、かなり不利な状況でギリギリの線で戦っていた。あと2,3回攻撃すれば倒せる。でも、こちらはあと一太刀でやられてしまう。そんな状況の時に、クローバーはその技を使った。

「0.2秒の軌道を読む」とクローバーは僕に説明した。よくよく話を聞くと、敵の動きがコマ撮りのように0.2刻みで2秒先まで見えるらしいのだ。それはあくまで僕がクローバーの説明を聞いた話をなんとなくまとめただけで、実際にクローバーにはどう見えているかわからない。でも彼女は実際にそうやって敵の動きを先読みし、攻撃をかわしカウンターを入れている。

しかし、その攻撃はドラゴンの尻尾にも効果が無かった。

「ドラゴンに攻撃が入らなくなったのは、その尻尾が出てきてからだ。」

僕はウォールでクローバーのHPを回復させながら呟く。風印が付いていないので、回復量は雀の涙ほどしかない。焼け石に水だ。

「尻尾が何か関係してるのは確かなんだけど……。」

ドラゴンが羽ばたき激しい風を巻き起こした。クローバーはそれも回避すると、カウンターを食らわせようとドラゴン目掛けて剣を振りかざす。

目の端で、つぼんでいた尻尾の先が花のように開くのが見えた。僕の頭に閃きの神が舞い降りる。

「クロ!今だ!尻尾を狙って!」

僕の叫びに、クローバーは驚きながらも華麗に体勢を変え、尻尾目掛けて剣を振り下ろす。一撃だった。尻尾はユラユラと左右に揺れたかと思うと、パタリと倒れ、黒い霧になった。

「入った!」

「こっちも?」

エナがドラゴンに向かって流水剣を放つと、ドラゴンが悲鳴をあげる。

「やっぱりスイッチはあの尻尾だったんだ。」

「でも、尻尾だって最初は無敵だった。」

「先がつぼんでるときは、固くて攻撃が通らないけど、先が開いてるときはダメージを与えられる。」

「なるほど。」

アルカナでクローバーを回復する。もう奥の手を使ってもらわなくても大丈夫だった。

「クロ、もう大丈夫。通常通り行こう。」

クローバーの奥の手は、早々簡単に何回も使えるものでは無い。それは集中力と精神力が大きく削られるし、消耗すれば読み間違いのミスも増える。あまり頼りすぎてはいけない力だ。

放っておけば、延々と力を使いすぎてしまうクローバーにブレーキをかけるのは僕の仕事だった。クローバーが2秒先を読むなら、僕は10秒先の流れを読む。

「行くぞ。」

クローバーは静かにそう言うと、反撃を始めた。

勝利は目前だ。最強の人類を倒したその先に何があるのか、僕らはまだ知らない。僕らはただ、目の前に立ちはだかる壁を乗り越えるだけだった。

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