アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第13話 真夜中の襲撃者

僕は壁に寄りかかり腕くみをしながら、噴水のある広場を見下ろし、外の様子を伺っていた。

クローバーは、両手を頭の後ろで組み、片膝を立ててベットに寝転び、天井を仰いでいる。その目は開かれていて、眠そうなどころか、獲物を探すような鋭い光を放っていた。

部屋のランタンの灯が、ジリジリと燃える音だけが聞こえる。

静かな夜だ。

 

 

 

数時間前に、不老不死の村を訪れた僕とクローバーは、救済者のテントの前で、この村の酒場のマスター、ロックに会った。

「おや、あんたら久しぶりだな。」

ロックは、酒場のマスターには似つかわしくない、筋骨隆々の体格をしている。特に腕は丸太のように太く、素手で熊を倒せそうな見た目だ。

僕は思わず自分の腕と見比べる。

腕相撲をしたら、多分僕の腕は、折られてしまうだろうなと思う。

「最近夜になると、魔物が出るようなんだ。」

「魔物?」

クローバーが聞き返す。

「それも、人間が襲われるんだと」

ここら辺の魔物はどれも穏やかな方で、畑や作物を荒らすくらいのことはするが、積極的に人を襲う種は少ないはずだ。

「それは変だなぁ…」

そういうクローバーに、僕は

「救済者や不老不死と何か関連があるのかも…。」

と小さく耳打ちする。

ロックに聞かれてしまわないよう気をつけた。

「まぁ、夜は外に出ず、うちの宿にでも泊まっておくこった。」

そう言って去ろうとしたロックだったが、何か思いついたように、立ち止まった。

「ん!そうだ!お前、腕は確かか?」

僕とクローバーは顔を見合わせる。

「救済者のおかげで、うちの村人は誰1人として死んではいないんだが、観光客が死ぬとなると、村としても非常に困る。できたら、その魔物を退治してほしいんだが……」

僕は「どうする?」と言うように、クローバーを見る。

クローバーは口元に手を当て、考えている。

僕らは不老不死のリスクについて調べにきただけで、魔物退治にきたわけではない。

しかしながら、この魔物が、不老不死と一切関係ないとも言いきれない。

悩むクローバーに、ロックは

「観光客が増えたおかげで、村は比較的財政も安定しててな、礼もある程度は用意できるぞ。」

と続けた。

失礼だが、こんな貧相な村が用意する礼など、クローバーにとっては、はした金にしかならない。

伊達にエリアボスを鬼のように狩ってはいない。討伐報酬で少なくないお金を稼いだし、定期的にドロップアイテムをマーケットに流して、それなりに儲かっている。

クローバーが悩んでいるのはそこではない。

「おい!あんた!未来ある若者を、前の用心棒のように捨て駒とする気か!?」

そう言って会話に割り込んできたのは、あの不老不死になったフジだった。

「ああ……あれは俺が選択を間違ったんだ。この2人なら、冒険者だから死ぬことはないさ。」

そうフジに返すロックに、違和感を覚える。

クローバーも、僕にだけにしか聞こえない小さな声で

「なんか嫌な感じだな。」

と呟いた。

「死ぬことがないというだけなら、村人の我らが退治すべきじゃろう。安易によそ者に頼むとは……浅はかな!」

フジは怒鳴ってばっかりで口うるさく感じるが、言っていることは中々正論だ。

「ああ!気分が悪くなった!ワシは帰る!」

フジはそう言って、大げさに足を踏み鳴らし、不愉快を表現しながら去っていった。

「あのじいさん、奇跡を受けてからすっかり元気になってな。今じゃすっかり力をもて余してるみたいで、ますます口うるさくなりやがった。」

それは大変だなと思う。

「あれ以上うるさくなれることがあるの?元気になったんだから、さっさと旅にでも出ればいいのに。」

クローバーが呆れ返ってたように言う。

「フニエさんの元気がなくてな。」

「あれからあまり良くなってないんですか?」

僕の問いかけに、ロックはうなずく。

「フジのじいさんは食事をしに、たびたびこの酒場に来るんだが……。」

フニエは酒場に行く元気もないらしい。

「魔物を退治してくれるなら夜まで待ってくれ。それまでうちの酒場の2階を使うといい。宿になってるから。」

僕はもう一度、「どうする?」と言うようにクローバーを見る。

クローバーは何も言わず、決意を込めた表情で、ただまっすぐ前を見ていた。

 

 

 

静かな夜は続いていた。

僕はずっと窓の外を見ていたが、特に人通りもなく、動くものはいない。

酒場の上にある宿は、狭くて、少しホコリっぽい。部屋の大部分を2つのシングルベットが占領していて、床が見えるのは、出入口付近と、僕が今立っている窓辺だけだった。

クローバーは僕のすぐ傍のベットに寝そべっていた。

狭いので、距離が近く感じる。ひょいっと手を伸ばせば、その柔らかな肌に触れそうだ。

僕は邪念を振り払うように、ファントムロッドを握り直す。

何かあった時のため、いつでも戦える準備はしてある。

クローバーは相変わらず、ベットに寝そべっていて、今は目を閉じているが、寝ていると言うより、耳をすましているようだった。

部屋の出入口には、クローバーが愛用している青色の大剣、デモンブレイド=アビスが立てかけられてる。禍々しい意匠の大剣は、伝承にある深海の神の再降臨を願うものらしい。柄元には、目玉の様なものが刻まれていて、ギョロリとこちらを睨んでいるようにも見える。

「キャーっ!」

静かな夜を引き裂くような悲鳴。

「何か声が聞こえた?」

そう僕が確認する前に、クローバーは素早く起き上がると、大剣を担ぎ、あっという間に外へと飛び出して行った。

僕も急いでその後を追う。

「魔物がでやがったぞ。」

階段を駆け下り、外に飛び出すと、ロックがいた。

「すでにひとり、やられちまったようだ。魔物は入口の方に向かったぜ!」

その話を聞いているのか、聞いていないのかわからないが、クローバーは村の入口へと走り出していた。

「エル!人が倒れてる!」

暗がりの向こうで、クローバーが叫ぶ。

駆け寄ると、男が1人倒れていた。

「この男は……?ああ、そうだ、昼間、奇跡を授けてもらうって言ってたヤツだ。あいつがどうしてここに……。」

ロックがそう呟く。

「クソっ!魔物はどこに行った!?」

「ぐるるぅぅ……」

静かな夜にこだまするロックの声に混じって、魔物の呻き声がする。

クローバーはその声を頼りに走り出す。

「クロ!1人で行くと危ないよ!」

僕の制止をまったく聞くことなく、クローバーは走っていく。

速い。

僕はその背中を追いかけるのがやっとだ。どんどん離されていく。

クローバーは猫だ。

そのしなやかさと速さは、獲物をハントする猫そのもの。

「(あと、かわいさも。)」

そう思いながら1人で笑う。

まだまだ余裕だ。

村の入口へ続く、坂をかけ登っていた時だった。

前を走るクローバーが叫んだ。

「敵視認、距離20m、単体パターン!」

戦闘に必要な情報だけを、淡々と伝えるクローバー。

「人間だな!血を……血をよこせ!肉を食わせろ!」

僕から姿は見えないが、魔物がそう叫ぶ声がする。

「攻撃開始。」

クローバーはそう短く言うと、自分の身長よりある大剣を振りかざし、月夜に舞った。

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