アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第15話 不老不死の対価 その1

バックステップして、魔物と距離をとる。

エルサイスが私の位置まで走ってきて

「大丈夫?」

と声をかける。

私はまだ塞ぎきらない傷から血を拭いながら

「大丈夫。」

と答えた。

魔物は苦しそうに顔を抑えながら

「ぐうぅうう」

と弱々しく呻いている。

その声に、私は嫌なもの感じた。言葉に表すにはまだ不明瞭な、予感なようなものだ。

「クロ、とどめを。」

エルサイスが杖を構えながら言う。

でも、私は動けなかった。頭の中で警告音が鳴っている。

警告音の中で、事実が回り回って、1つの結論を出す。パズルのピースがハマるような感覚だ。しかし、そこにひらめきの快感はない。むしろ、絶望の扉を開いてしまったような苦痛があった。

「どうしたの?」

訝しげに私を見つめるエルサイス。

私は剣を構えることもできず、ただ立ち尽くしていた。

「逃げた……!あっちにはフジさんの家が!急がないと!」

エルサイスがそう言うのが早いか、魔物は村の奥へと逃げていった。

気持ちが悪い。私はその場に膝をついて、こみ上げる吐き気を我慢した。

エルサイスが屈んで、私の背中をさすってくれる。

「クロ?大丈夫?」

とどめを刺さなかったことを、エルサイスは責めなかった。ただただ、私の様子を、戸惑いながらも心配してくれている。

「ごめ……ん。」

なんとか、そう絞り出す。

「いいよ。どうしたの?」

戦いの高揚感はきれいさっぱり消えていた。アドレナリンも切れて、傷の痛みを思い出していた。

「あぁエルの言った通りだよ…。」

すっかり冷めきった思いでそう漏らす。戦いはあんなに楽しかったのに、本当に台無しの気分だ。

この魔物の話を聞いた時、エルサイスは「救済者や不老不死と関係があるかもしれない」と言った。

その関係に、私は気づいてしまった。

「どういうこと?」

「それを今から、確かめに行こう。」

魔物のあとを追って、階段を下り、村の奥へと足を進める。

走りはしない。早歩きくらいの速度で向かう。

エルサイスは何も言わずに、黙ってついてくる。

エルサイスは、私を問い詰めたり、疑問を挟んだりしない。

私はそれが嬉しかった。私のことをちゃんとわかってくれてる。

私が出したこの結論を、私の口から説明できる自信はない。

フジの家の前には、ロックが立っていた。

「お前が欲しいのはこれか!」

ロックはそう言うと、肉を焼いた料理を魔物に差し出した。

「ぐるぅううぅ」

魔物は声にならない叫びをあげばがら、ロックから料理を奪うと、貪るように食べ始めた。

「あぶない!」

どこからともなく、急にエナが現れて、ロックと魔物の間に立ち塞がり、魔物にとどめを刺そうとした。

「待ってくれ!」

「エナ!待って!」

私とロックが止めに入る。

その刹那、魔物を紫色の邪悪な霧が包んだかと思うと、魔物の姿は消え、フジがそこに立っていた。

「そういうことか。」

エルサイスは納得したように呟いた。私の行動の意味が理解できたようだ。

「……じいさんに、とどめを刺すのは、やめてくれないか。」

ロックがエナに言う。

「魔物の声を聞いた時から、なーんか嫌な予感がしたんだよ。どっかで聞いたことある声だったから。」

私は受け入れ難い事実に、顔を歪めながら言った。

「……どういうこと?」

エナはそう戸惑いながら、剣を鞘に収める。

「すべては等価交換で成り立っている。無限の命を保つためには、命を食らう必要があるのさ。」

ロックはそう言うと、フラフラしているフジの体を支えた。

「ワシは、なにをやっていたんじゃ?」

いつもの威勢はどこへやら、フジが弱々しくロックに尋ねた。

「なあに、ちょっと肉が不足しただけさ。ただな……」

「何をしたのかは、皆まで言うな」

フジはそう言うと、うなだれた。

魔物になった時の記憶は、ちゃんとあるのだろうか?無かったとしても、感覚として残っているのかもしれない。

ボコボコに切りつけたことを、少し後悔するが、不可抗力だ。仕方ない。

「ばあさん?」

ロックの声に、みんなそちらを見た。

家の前に、フニエが怯えた様子で佇んでいた。

「ああ、村長さん……魔物は、どうなりました?」

そう聞いたフニエから、私は目を逸らした。

とてもじゃないが、私の口からそれをフニエに報告することはできない。エルサイスも、黙っていた。

「無事でよかった。まぁフニエさんは気にしないでいい。」

村長と呼ばれたロックは、そう言って、フジをフニエに引き渡した。

ロックの適当過ぎるごまかしが、フニエに効くとは思えない。2人は今夜中に、むしろ家に入った瞬間に、この異常な自体に気づくだろう。

「どうするつもりなんだろうね。」

エルサイスが、私にしか聞こえない小さな声で言った。

「どうにもならんさ。」

私は気のない返事をした。

世の中どうにもできないものばかりなのだ。その先を考えるのは、フジとフニエであって、私たちが予想したところで、意味はない。

「あとは、この村の問題だ。気になることがあるなら酒場で聞こう。」

不老不死の村の村長ロックは、そう言うと酒場へ帰っていった。

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