アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
酒場は相変わらずホコリっぽかった。
しかし、前来た時よりは片付いていて、奥の物置みたいだったテーブルたちにも、クロスがかけられ、それなりに使用している様子が伺える。
私とエルサイスは、手前のカウンターに腰を下ろすと、ロックからミルクの入ったマグカップを受け取った。とりあえず一息ついて落ち着く。
「クロ、傷はもう大丈夫?」
「うん。もう治った。」
戦闘が終われば、受けた傷はみるみるうちに治っていく。これも冒険者が受ける神の加護の1つだ。
私はマグカップに口をつけると、1口飲んだ。ほのかに甘い。なんだかほっとする。
「まさか、じいさんが魔物だったなんてね」
あとから入ってきたエナが、ショックを隠しきれない様子でそう言った。
元はと言えば、フジを魔物にした一因は、エナだ。そうなると知らかったとはいえ、救済者のリスクを鑑みることなく、安易にフジに奇跡を受けるよう迫った。
その結果がこれなのだ。
エナはこれで、あの時のことを後悔してくれるだろうか?間違ったと認めてくれるだろうか?
そんな期待が心を過ぎったが、すぐ押しつぶす。
きっとエナはそのままだ。これまでもそうだったように、これからもそうだろう。
私はこの友人とも呼べない隣人に、早々に見切りをつけた。
「じいさんは野菜とイモしか食ってなかったからな。たまに肉も食わなきゃ、ああなっちまうってことさ。」
ロックはそう言って、ため息をついた。
「この件は、くれぐれも口外はしないように頼めるか?」
ロックの頼みに
「そんなことできるわけないでしょ!危ないじゃない!」
とエナが反論する。
「まぁそりゃ公表したくなるよな。こんな重大なこと秘密にするのはフェアじゃない。」
私もその案にのる。
「そりゃ困ったな……」
ロックはそう言うと、考え込むような仕草を見せた。
「何が対価なのかはずっと気になっていたんだが、まさか肉を食べることとは意外だったよ。」
「え?村長さんも知らないで奇跡を受けてたんですか?」
エルサイスが信じられないと言うような声を出した。
ロックはコクン頷いた。
「人間を魔物化し、永遠の命を得る。対価は、ほかの生きとし生けるものの魂。人間ってのは勝手でな。生きるために動物の肉を喰らう。奇跡を使うと、その魂も共に喰らうようになるだけのことさ。悪いことなど何もない。」
そう開き直るロックに、違和感を覚える。
「それは結局結果論ですよね。」
エルサイスが厳しい声を出す。
「もし対価が、ほかの人間を食べなければいけないというものだったら、どうするつもりだったんですか?そのリスクはあったはずです。あなた方は、誰一人対価が何なのかわからずに奇跡を受けた。その危険性がわかりますか?」
リスクを隠すことで、別のリスクが生まれる。
もっとひどいことになっていたかもしれないのだ。
「異常だと思わないの?」
エナが責めるようにロックに詰め寄る。
「エナ、責めるのはいいけど、あなたもそっち側だよ。リスクを見てなかったんだから。」
そう言ってはみたものの、エナには暖簾に腕押しだった。私の話を聞いてはない。
エルサイスが「もうほっときなよ」と言うように、私の肩に手を置いて、制止する。
小さなため息をついて、気持ちを切り替える。
「思わないな。救済者がここに滞在し、その力を求める人間が押し寄せる限り、村には利益がもたらされる。」
ロックは自信たっぷりに言う。
「ならば、それは正しきことだ。」
「それがこの村の正義か。」
私は肯定も否定もしない。
「それ、ちょっと勝手すぎじゃない?そうやって人間を魔物にし続けて、何が生まれるの?」
エナが食い下がる。
「世界から見て間違っていることをしていたとしてもここは狭い村だ。村の中で正しければ、そこに暮らすものにとっての全てなんだよ。」
ロックの言っていることは一理ある。しかし、それは理論として破錠していないと言うだけで、それを容認できるかどうかとはまた別の問題だ。
「このことを知っているのは、私だけじゃない。じいさんも、ばあさんもみんな知ってるさ。」
沈黙が過ぎた。
エナは何も言い返せないようだ。そのまま不満げな表情で、乱暴にドアを閉めると、酒場から出ていった。
私もそれなりに子供っぽいところはあるが、エナも大概だ。相手にしてられない。
「報酬はこれでいいか?」
ロックはそう言うと、いくらばかりかお金をくれた。そこまでお金には困ってないが、仕事に対する賃金として受け取っておく。
「まぁ今日のところはゆっくり休むといい。」
ロックの言葉に甘えることにしよう。
色々ありすぎて、今日は疲れた。
私は眠い目を擦りながら、宿への階段を登っていった。