アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第17話 眠りにつく前に

「はー疲れたー。」

クローバーは部屋に入るなりそう言うと、目の前のベットに倒れ込んだ。

「そっち僕のベットじゃないの?」

魔物退治に行く前、クローバーは窓側のベットに寝ていたので、そっちを使うと思っていた。

「どっちだっていいじゃーん。気にするくらい潔癖でもないでしょ。」

クローバーはそう言うと、デモンブレイド=アビスを床にほおり投げた。

「もっと大事に扱いなよ。」

僕はそれを拾うと、壁に立てかける。

狭い通路を通って、窓側のベットに腰掛けると、髪をかきあげながら、深いため息をついた。

さすがに疲れた。

クローバーに倣って、仰向けにベットに寝転ぶ。

ばふんという音と共に、ホコリが舞い上がったが、意外にも、布団からはお日様の匂いがして、気持ちがよかった。

「はーー。」

隣から、クローバーのため息が聞こえてくる。

「なんとも言えない事件だったね。」

「うん。」

救済者が起こす奇跡とは、人を魔物化することだった。魔物化すると、不老不死になれる。その代わり、定期的に肉を食べなければ、人間の姿を失い、本物の魔物になる。

そんなことよく思いつくなと感心してしまう。

「エルはどう思う?この村のこと。」

僕がクローバーにそう聞こうと思っていたのに、先に聞かれてしまった。

「うーーん。」

クローバーはベットに座り直すと、もぞもぞしながら狩人の外套を脱いでいる。

「この村の今のことだけを考えれば、そりゃいいんじゃない。人々が喜ぶ、村も潤う。万々歳だね。」

この不老不死の村にとって救済者は希望だ。少しずつ衰退していく村を救う正に救世主。

ただそれは、嘘と偽りと欺瞞で歪んだ上での希望だ。

「まぁ長く持つとは思えないよ。」

歪みはいずれ、どこかで決壊する。その決壊が、この村だけの問題で収まるとは到底思えない。

これは世界規模の、生命に対する冒涜なのだ。

「エル、私はね、ここにはここの正しさがあるのはわかってるよ。」

クローバーはそう言いながら、ロウポニーの髪を解き、頭を振った。伸ばしている襟足の髪がふわふわと部屋に舞う。

「でも、私がそれに従う義理はない。人の口に戸は建てられないよ。」

「不老不死の秘密を公表するのかい?」

「さぁどうだろう?公表したところで、信じないやつはいるだろうし、奇跡を受けるやつも減らないかもしれない。この奇跡そのものを止めさせない限り、魔物化する人は増え続けるよ。」

「じゃぁ?魔物化するのを止めさせるかい?」

そんなことができるだろうか?

もし止めさせるとなれば、この村と、新興宗教団体を敵に回すことになるだろう。

「そんなことはできないさ。」

クローバーはそう言うと苦笑いした。

「この村のやり方は私は気に食わない。でも、だからといって、私にはこの構造をぶっ壊す力も、権利もない。自分が正しいと思うことを押し通すには、勇気と、それなりの力がいる。あと、責任もね。」

クローバーはつまらなそうにため息をつく。

「どうせこんな祭りはいずれ終わる。終わった時に新たに出てくる問題に向き合うのは、私たちじゃない。愚かにも永遠の命を持ったやつらだ。」

「それだけで済めばいいけど。」

僕の考えている被害規模は、クローバーの考えより幾分広い。

「済まないなら、済まないで、その時戦うさ。まぁ本当なら予防的な意味で、芽は今のうちに詰んでおきたいとこだけど……。」

「放っておいたら、取り返しがつかなくなりそうって気はするけどさ。僕としては、もうとっくに取り返しがつかなくなってるような気もするね。」

「無力だね。」

「人はみんな無力だよ。」

「まぁ無力を自覚してるだけましだろ。」

クローバーはそう言うと、深呼吸した。僕と同じで、お日様の香りを楽しんでいるのかもしれない。

「クロ、僕はね、最近よく『正しい』ってなんだろう?って考えるんだ。」

「随分哲学的な話だな。」

クローバーは寝転がったまま、足を使ってブーツを脱いでいる。行儀が悪い。

「正しさなんてさ、あってないようなものなのかもね。」

クローバーがブランケットにくるまりながら言う。

「そうかもね。考えても、考えても、答えはでない。」

正しいことが、正しいと評価されたり、感謝されるとは限らない。その『正しいこと』は、人の立場や、時代や、場所によって変わってくるからだ。なんと不安定なものだろうか。

「僕はさ、正しいことをして、感謝されたいとは思わないし、自分の正しさを、証明しようとも思わない。」

結局、そこに問題が起きるのだ。考え方の違いで済ませない人が、自分の正しさを相手に押し付けて、相手を攻撃したり、悪者にしたりする。

国同士の戦争なんかが、いい例だ。あれもお互いの正しさや、正義を証明するためにやるものだ。

「そうだね。私もそうだ。私は私の主張を好き勝手にするけど、それが支持されなくたって別に構わない。エナがいい例だ。私は彼女のやってることに納得できないし、めちゃくちゃだと思うから、多少口出しするけど、それで彼女が変わらないからと言って、私がどうこうできることでもない。」

「まぁ彼女は変わらないだろうね。」

「それでも構わないさ。気に食わないけど、まぁ、それだけの話だね。」

クローバーがあくびを噛み殺し損ないながら続ける。

「私はね、自分の主張はするけど、他人の正しさの主張は否定しないよ。それと同時にね、誰かの正しさを証明するために、私が思う正しさを否定されたり、侵害されたら、そいつと戦うよ。」

「言論で?」

「時には物理で。」

クローバーは眠そうな声で「ふふっ」と笑った。

「物騒だね。」

僕もそう言うと笑った。

「クロが戦う時は、僕も一緒に戦うよ。」

「そりゃ心強いね……。」

クローバーは夢見心地でそう言うと、枕に顔を押し付けて、すやすやと寝息をたてはじめた。

僕は立ち上がって、窓の外を見る。

向かいのフジの家は、まだ灯りがついていた。

2人は、どんな結論を出すのだろうか?

「はーー」

ため息をついて、ベットに倒れ込む。

考えても、考えても、栓のないことばかりだ。

僕は、僕が思う正しいことを、信じてやっていくしかないのだ。

部屋のランタンの灯りをしぼる。夜が一気に部屋を満たした。

「おやすみ、クロ。」

もう隣で夢の中にいるパートナーにそう声をかけると、僕は目を閉じた。

眠りはすぐやってきて、僕の意識を暗くて深い穴の中にずるりと引きずりこんでいった。

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