アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第18話 旅立つ者達

気持ちのいい朝というものを、私はまだ体験したことがない。

「クーロ。そろそろ起きてー。」

「うーーん……。」

ベットから動けないでいる私とは対照的に、エルサイスは既に着替えも終え、朝ごはんのサンドイッチを食べている。

「朝ごはんは?」

「いらない……。」

「ちゃんと食べないと、元気でないよ!」

「お前は私の母親か……。」

そう呟きながら、ぼーっと天井を見ていた。

体は怠く、重い。思考は正常に回らず、頭は考えることを拒否している。

とにかく休みたい。

今日という日が、特段嫌なわけではない。毎朝こうなのだ。朝起き抜けが、1日の中で最も辛い。

「クーロ!ほら!起きて!」

エルサイスが、私の両腕を引っ張って、無理やりベットから起こそうとする。

「うううううぅうう……」

私は呻きながら、全体重をかけて、起き上がるのを拒否する。

「もう!」

本当にエルサイスは母親みたいだ。

エルサイスが諦めて手を離したので、私はもう一眠りしようと、ブランケットにくるまる。

「寝るなら僕も添い寝しちゃおうかなー。」

エルサイスが聞こえよがしに言う。脅しだろう。

別にいい、来るなら来い、そんなことより私は寝ていたいんだ。そんな気持ちで、私は横向きに寝返りを打つと、目を閉じた。

暖かくて気持ちがいい、ふわふわした感覚が私を満たしていく。

そこにふと、異質なものが割り込む。

背中側に人の気配を感じた。エルサイスだ。本気で添い寝するつもりだろうか?

私はエルサイスの気配を必死で外に追いやって、ふわふわした感覚に縋りつく。

ブランケットの上から、エルサイスが私を包み込むように、ギュッと抱きついてくる。

無視する。

寝たい。今はそれしか考えたくない。

ブランケットの中にエルサイスの手が入ってきた。その手が、私のお腹に触れるか、触れないかの瞬間、私は素早く起き上がり、ブランケットを跳ね除けると、壁に立てかけてあるデモンブレイド=アビスを掴み、その剣先をエルサイスの喉元に向けた。

エルサイスは両手をあげて降参のポーズをとっているが、顔は笑っている。

「起きた?」

「このクソ野郎……。」

そう毒づく私をものともせず。エルサイスは

「瞳孔、開いてるよ。」

と、どうでもいい指摘をしてきた。

「さ、起きたなら顔洗っておいで、紅茶を合成してあげるから、朝ごはん食べながら飲みなよ。」

エルサイスは何事も無かったように、合成を始める。

「ちくしょう……。」

私は悪態をつきながら、頭をかく。いつにも増して、酷い目覚めだ。

本当にこいつは、油断も隙もない。

眠気はすっかり飛んでいたが、体の怠さは残っていた。重い体をなんとか動かしながら、朝の準備をする。

私が朝食を食べ終わる頃には、外はすっかり日も上り、人々が活発に行き交っていた。

「これからどうする?」

「うーーん?とりあえず村を出ようか?」

私はサンドイッチを口に押し込みながら答える。

不老不死の種がわかれば、この村にもう用はない。むしろ秘密を知っている私達は、この村にとって邪魔な存在だろう。

「救済者は?放っておく?」

「まぁ話くらいは聞きに行ってはいいかもね。」

私はそう言いながら、口に残ったサンドイッチを紅茶で押し流した。

 

 

不老不死の村は、相変わらずのどかだ。

この平和な日常の中で、おぞましい儀式が続けられているとは、誰も考えつかないだろう。

「……信じる者に祝福を。あぁ、すみません。奇跡を受けにきたわけではないのですね。」

救済者ケイトも、相変わらずだな思う。

「あなたは…そう…ええ。そろそろ来る頃かと思っていました。」

ケイトはそう言うと、不老不死の秘密を自ら暴露していく。

内容は昨日推測した通り、奇跡は人を魔物化すること、肉を食べないと凶暴化することなどが、語られた。

「しかし、今すぐ救わなければ、助けられない人もいます。不完全な技術でも、求めている人はたくさんいるのです。」

「善人ぶりやがって。不完全な技術と知っていれば、諦める人もいたはずだ。お前は情報を隠すことで、その人たちから選択の自由を奪っているんだ。」

私が核心をつくが

「この奇跡でこの村に迷惑をかけるのは私の本意ではありません。」

とかわされてしまった。

「私はこの村から去りましょう。」

勝手にしろと思った。どうせここから去っても、他の場所で同じようなことを繰り返す気だろう。イタチごっこだ。

「ちょっと待ってくれ。あなたが出ていくことはない。」

そこにロックが割り込んできた。

「立ち去るのはあんたらの方だ。彼女はこの村に必要な存在なんだ。」

「僕らは用済みってことですか?」

エルサイスが飄々と頬笑みながら言う。ロックの戸惑う様子を楽しんでいるようだ。私よりタチが悪い。

「長らくこの村はうつうつとした空気に満ちていた。」

ロックは村長としてこの村の衰退を、ひしひしと感じていたようだ。しかし、そこに『救済者』が現れ、衰退を止めるだけではなく、新たな黄金期を築きはじめている。

「この奇跡は我らの希望だ。『救済者』様は我らの救い主なのだ。」

ロックの答えに、私は

「こんな得体の知れない力に縋りついて、重大な欠陥を隠して、他人を欺き続ける村に、未来なんかあるか!」

と怒鳴り返す。

こいつらはずるい。自分たちが生き残るためなら、他者の権利を奪ってもいいと思っている。むしろ、奪っているとすら思っていない。悪いことなど何もしていないと、開き直っているのだ。

怒りで頭が熱い。エルサイスが私の肩を置き、ヒートアップするのを抑えてくれる。

ロックはただ悲しい顔をするだけだった。理解できない私を、哀れに思っているのかもしれない。

「冒険者さんよ、ワシらは旅に出る。これで許してはくれないか」

急に現れたフジが、割り込んできた。

「さぁ、勧誘員さん。ばあさんも同じく施術してはくれんかの?いいな?フニエ。」

「いいんですか?本当に?1度受ければもう戻れませんよ。」

エルサイスが言う。そこには責める様子も、心配する様子もない。ただただ確認をしたいような声色だった。

「どうせ話し相手がいないと、退屈で困るんだろ?一緒についていくさ。永遠にね。」

「フニエさん……。」

ロックが寂しそうに漏らす。

「本当にそれでいいの?こんな……こんな……」

私は言葉が続けることができない。この2人の大いなる決断を、誰が止めることができるだろうか?

「ああ当然さ。だから、ロックさん。世話になった冒険者さんたちを、差別するような真似はしないでくれるかい?」

この夫婦は、私たちが思っていたより、ずっと聡明で、ずっと偉大な人のようだ。全てを受け入れる覚悟がある。

私はその意思に敬意を払い、この場から身を引く決意をした。

「では、冒険者さんや。またどこかで会おう。」

私は、フジの言葉に頷いた。

「では、救済の儀式を行います……」

ケイトがそう言いながら、奇跡の施術を始める。

「僕らは先に行こうか?」

エルサイスの声に救われた。もう、この奇跡を見るのは、嫌だったから。

私はフジとフニエを見送る前に、不老不死の村をあとにした。

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