アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第2話 救済者

「この村には劇場もあれば、のどかな自然もある。愛くるしい動物もいる。もっとも、それはどこの農村にもある風景。」

吟遊詩人を名乗るトミーという男は、そう語りながら、右目を隠すように垂れ下がったクリーム色の前髪を、大げさにかきあげた。

あくまで私個人の主観だが、吟遊詩人というやつは、どいつもこいつもキザったらしくて、ロマンチストで、ナルシストだと思う。

どれをとっても私の嫌いなタイプだった。

「この村がほかと違うのは……」

そこでたっぷり間をとるトミーに、イラッとする。

「そう。人を不老不死にするという、不思議な術を使う『救済者』様がいることだ」

自信たっぷり感情を込めた吟遊詩人の全力に、私は

「へー。」

と適当な返事を返す。

後ろでエルサイスが笑いを堪えてるのがわかる。

肩透かしを食らった当の本人のトミーは私のぞんざいな様子をものともせず、救済者の偉業を語り継ぐのが自分の使命だと言うようなことを、勝手にベラベラ話していた。

トミーはひとしきり話して満足したのか

「ま、いろいろ見ていっておくれ」

というと、優雅なターンを決めるて去っていった。

「うさんくせーな。」

つい本音が漏れる。

「クロ 、口が悪いよ。」

エルサイスはそう注意しながらも笑っている。

「不老不死とかなりたいか?」

「なりたい人はいるんじゃない。まぁ僕らだって、半分不老不死みたいなもんじゃん?」

冒険者は神の加護を受けることにより、冒険の途中で倒れても、教会で復活することができる。

「それとこれとは別でしょ。」

神の加護は、冒険者のみに与えられ 、冒険を終えればなくなる。永遠のものではない。

元々私は、不死の冒険者になるのにも、あまり気が進まなかったのだ。

でも、彼が、エルサイスがいたから、一緒に冒険をするという条件付きで渋々了承したのだ。

「まぁ僕らは不老不死になるためにここに来たわけじゃないし、真相が見えればそれでいいんじゃない?」

それもそうだ。

死なない人を意図的に作り出すことが、本当に出来るとすれば、それは世界の摂理や真理を覆す。

世界のパワーバランスを崩す可能性がある。

「まぁ真相がわかったところで、何が出来るわけじゃないんだけど…。」

私たちは無力だ。目の前で起こっている世界の流れを止めることは出来ない。

でも、だからといって、無関心ではいられない。

野次馬でも、何でもいい。無知のまま朽ち果てていくくらいなら、知るために行動したい。

例えそれが己の死を招こうとも。

 

「救済者様!!」

広場から聞こえてくる声を頼りに、救済者様とやらを探す。

広場にはられた大きなテントのそばには、不老不死になりたい人たちが集まっている。

「これは…宗教だな…。」

思わずそう呟いた。

老若男女、様々な事情を抱えている人が、一様に救済者を求めている。その目には、不老不死への憧れと渇望が宿っていた。

「狂気って、こういうことを言うんだろうね。」

エルサイスが飄々とした雰囲気で、どこか他人事のように呟いた。

一人の男がテントのすぐ横にいる女性の前に進みでる。

白い布地に青い紋章の入ったローブ、まるで聖職者のような女は、優しげな笑みで男を迎え入れる。

男はその白衣装の女の前で跪くと、祈りを捧げた。

白衣装の女はその祈りに応えるように、手を高く掲げた。

「…零は無でなし、無は零でなし…。汝が命脈は、混沌と特異点で、やがて永遠とならん……」

男の体を一瞬黒い靄のようなものが包む。

それは、よく目を凝らしてなければ見えないものだが、なんだか不吉なものを感じた。

「我らの神のお導きにより、あなたの天命は運命のくびきより解放されました。あなたはこれより死を恐れる必要はありません。」

私とエルサイスは顔を見合わせた。

「まだ実感はないでしょうが、あなたには神の祝福が宿ったのです。」

男の様子に、変化はみられない。

あんな簡単なことで、本当に不老不死になれるのだろうか?

エルサイスも、同じ疑問を抱いてるようだ。

驚きというより、訝しげな顔をしている。

「うさんくせー。」

エルサイスにしか聞こえない声で、そう呟いた。

この村は、何が真実なのかさっぱりわからない。

次々与えられる情報のどれもが怪しく、うさんくさい。

しかし、真実だという証拠がないように、嘘という証拠もない。

なんだかモヤモヤするのだ。

「クロ、どれが真実かなんて、些細なことだよ。世界はね、嘘と本当が混ざりあってできてるんだよ。」

「わかったような口を聞くな。私はそんな優等生の答えは求めてねーんだよ。」

白か黒かに分けられるものばかりではないのは、百も承知だ。しかし、その真理の上に胡座をかいて、考えることを放棄できるほど、私はお利口さんではないのだ。

私の返しを最後に、彼は押し黙ってしまった。

少し言いすぎたかと思い、目だけ動かして、気づかれないようその表情を伺おうとしたのに、なぜかバッチリ目が合った。

驚いて、目が合ったまま固まってしまう。そして、すぐに気まずくなって、大げさに顔ごと目を逸らす。

「心配してくれたの?ありがとう!」

エルサイスが嬉しそうにニッコリ笑う。

だからこいつは嫌いなんだ。

熱くなる顔を振り払うように、私は救済者の前に進み出た。

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