アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
現在連載中のストーリーとは、前後の繋がりが一切ありませんのであしからず
話の中の、『テイル』さんとそのYOME『ソラ』ちゃんの設定等は、テイルさん本人への取材を元に構成しています。
テイルさんご協力ありがとうございました・:*+.\(( °ω° ))/.:+
「お前は馬鹿か?」
クローバーの暴言に、目の前の男は、眉をピクっとさせる。
ハーフロングのコバルトブルーの髪からはみ出た、白い犬の耳。エアロコロッセウムベストの下に履いたエアロソーサラーローブからも、白い犬の尻尾が飛び出ていて、イラついたようにピクピク揺れていた。
「クーロ、口が悪いよ。すみません、テイルさん。」
エルサイスが、クローバーを注意しながら、男に謝る。
テイルと呼ばれた男は
「相変わらず、口が悪いな。」
と言いながら、眉間のシワを深くした。黒縁メガネの奥の、黒い目は、不愉快そうに歪んでいる。
テイルは、クローバーが所属するボンド『シルフィード』のメンバーの1人だ。
ここは公国の酒場の2階。1階は多くの冒険者で賑わっているが、わざわざ2階に上がってくる者は少なく、今はクローバー、エルサイス、テイルの3人しかいない。
テイルのパートナー、ソラは、1階で他のシルフィードのメンバーと楽しそうに談笑している。
金髪のショートカットが似合う、真面目そうな女の子だ。困ったような下がり眉がかわいらしい。
3人はその様子を眺めながら、暗がりの中、立ち話をしていた。
「頼みがあるから至急公国までこい。」テイルにそうメッセージを貰ったクローバーとエルサイスの2人は、連邦から牛車に乗って急いで駆けつけた。
しかし、テイルから告げられたのは
「ソラちゃんのお使いを見守ってくれ。」
という、なんとも奇妙な依頼だった。
それに対するクローバーの答えが「馬鹿か?」なのだ。
「くだらねぇ…牛車代200ゼル返せよ…。」
クローバーは呆れ返ったままそう呟いた。
「まぁまぁ…ちゃんと最後まで聞こうよ。」
エルサイスが不機嫌そうなクローバーをなだめた。
「こないだから、ソラちゃんが、1度1人で旅をしたいって言っててな。」
「とうとう愛想つかされたか?」
クローバーが余計な合いの手を入れる。
「お前うるさい。」
「クロ、少し黙ってて。」
テイルとエルサイス2人に責められて、クローバーは面白くない顔をする。何か言い返そうとしたが、エルサイスの顔を見てやめた。テイルはわからないが、エルサイスを怒らせると面倒だと知っていたからだ。
クローバーは1階を見下ろすのをやめ、ターンすると、反対側の窓辺に腰掛けた。少し離れているが、話は聞こえる距離だ。
「さて、どうぞ。」
邪魔者は居なくなったというように、エルサイスが先を促す。
「ソラちゃんは1人で外を歩いたことがまだない。」
「意外な話ですね。随分旅慣れてるように見えますけど…。」
「旅はずっとしてるからな。俺よりも長く。ただ、ずっと誰かと一緒にだ。」
テイルはそう言いながら、1階にいるソラを慈しむように見つめた。
「最初は親父と、次は俺と、ずっと一緒だった。だから、慣れてきたここらで、1度1人で何か達成したいんだと…。」
テイルはそう言うと、ため息をついてうなだれた。そういう経験は必要だと思いながらも、心配で仕方ない。そんな葛藤があるようだ。
「なるほど。」
エルサイスはそういうと「どうする?」というような目で、クローバーを見た。しかし、クローバーは不貞腐れた様な顔をするだけで、何も言わなかった。
「(まったく、子供なんだから。)」
その様子に、エルサイスはため息をついた。
「話はだいたいわかりました。1人で行かせてあげたい気持ちはあるけど、ソラさんが心配だから、僕らに見守ってほしい。ということですね?」
テイルは
「おう」
と頷く。エルサイスは少し考えると
「気持ちはわかります。でも、ソラさんは幼く見えますが、もう立派な大人です。ここは彼女の気持ちを尊重して、本当に1人で行かせてあげるのが、いいんじゃないんでしょうか?」
と言った。
「過保護なんだよ。」
クローバーは言いたいことだけ言う。
「1人で行かせて、野盗にでも襲われたらどうするんだ!」
テイルが怒り出す。
「元野盗のお前が言うな。」
クローバーの突っ込みに、テイルは明らかな動揺を見せる。
「ど、どど…どうして……そそ、それを……?」
「ソラちゃんから聞いた。」
クローバーはソラと、ひょんなことからパートナーとの出会いの話になり、テイルが元野盗で、ソラとその父親を襲い失敗した話や、その父親がテイルに慈悲を授けて、子供として引き取った話を聞いていた。
その父親はソラとも血が繋がっておらず、3人とも血縁関係はなかったが、家族という関係を保つのに、そんなものは必要なかったようだ。
テイルとソラの絆は、血縁関係なんて薄っぺらいものより、ずっと厚くて固い。
その上での、この過保護なのだ。
「俺が野盗だったのは、今関係ねぇだろ!」
テイルがそうに吐き捨てる。バツが悪いようだ。クローバーはその様子を愉快そうに見ている。テイルを動揺させたことに満足していた。
「(性格悪いな…。)」
エルサイスはやれやれと頭を振る。
「そんなに心配なら、自分で見守ればいいじゃんか。」
「そんなの見つかったら怒られるだろ!ちっとは考えろよ。」
テイルは自分の依頼にさっさと「うん」と言わない2人イラついていた。落ち着かない様子で手すりを爪でトントン叩いている。
「僕らだって、見つかったら怒られますよ。」
エルサイスが反論する。
「そこは見つからないようにやれよ!」
「その言葉、そっくりそのままバットで打ち返すわ。」
クローバーが呆れ返って言う。もう一度「お前は、馬鹿か?」と言いそうな顔だ。
このままでは埒が明かない。
「この俺が恥を忍んで頼んでるんだぞ?」
テイルが低い声で凄む。
「それが人に頼む態度か?」
クローバーがテイルを睨む。
テイルもクローバーを睨み返す。
沈黙。
先に折れたのは、テイルだった。
「わかった。わかったよもう…。ソラちゃんのためなんだ…。頼む…。」
テイルはそう懇願すると、眉を下げ、困ったような顔をした。これが彼の精一杯のようだ。
エルサイスとクローバーは顔を見合わせる。
「どうする…?」
クローバーがエルサイスにしか聞こえない様な、小さな声で言った。エルサイスは肩をすくめると
「クロの好きにしなよ。」
と、判断を丸投げにする。
クローバーは深いため息をついた。
本当はこんなくだらない話、蹴って当然だと思っている。でも、普段絶対に頭を下げない男が懇願する話なのだ。
「(まぁ今だって頭は下げてないが…。)」
しかし、彼なりの誠意は伝わってくる。
1人の少女が、大人の階段を登る。その大事なイベントの手伝いをする。それは1つ先にいる大人の女性として、やるべき事の1つかもしれないと、クローバーは思い始めていた。
「わかった。やってやるよ。」
クローバーが呟くように言う。
「ただし、報酬はもらうからな。」
「報酬くらい、なんでもこい。」
テイルがニヤリと笑う。ずるそうな笑顔だ。
「言っとくけど、お前のためじゃないからな。あくまで、ソラちゃんのためだ。」
そう言うクローバーに、エルサイスは笑った。
「相変わらず、素直じゃないなー。」
「うるせぇ。」
3人は1階にいるソラを見下ろす。
大の大人3人があれこれ揉めながら、自分のことを話ているとは、露にも思っていないソラは、まだあどけない顔で、楽しそうに笑っていた。