アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
久々に連邦地方のエリアボス、コノミグランマを周回した。
ドロップ品のマテリアルAを集めて、エルサイスが愛用している杖、ファントムロッドIを、もう1本合成するためだ。
合成が完成したら、錬成施設にいって、鍛冶屋のスミナに限界突破してもらい、さらに強化する予定だ。
「あれ?合成に必要なマテリアルって99個だっけ?」
「90個だよ。」
私が聞くと、エルサイスがすぐ答えてくれる。
「じゃ、もうあるわ。今93個。」
「アクアウッドロッドは?」
「今持ってないな。プレジャーBOXから出るかな?」
「プレジャーBOXは何個ある?」
「132個……。」
私はメニュー画面を見ながら、頭を抱える。
今からここで132個ものプレジャーBOXを1つずつ開封していくのかと思うと、吐き気がする。
「明日でいいんじゃない?」
エルサイスが疲れた様子で言った。
もう午後も遅い時間だ。今は、透き通る青い空を、風が気持ちよく吹き抜けているが、あと1時間もすれば、空は茜色に染まり始め、黄昏が訪れるだろう。
朝から周回を始め、お昼休憩もそこそこに、ずっと狩り通しだったため、さすがの私も、疲れを覚えていた。
「そうしようか。」
私はそう言うと、メニュー画面を閉じた。
2人で城塞都市への道をとぼとぼ歩いていく。
「お腹すいたなー。ビールが飲みたいよ。」
エルサイスがそう漏らす。
「私は早くシャワーが浴びたーい。」
城塞都市の宿には、各部屋に小さなバスルームが付いているのだ。私はそれが毎回楽しみで、わざわざそのために、連邦まで牛車できて、泊まることもある。
アルブ連邦の都、城塞都市に入るには、通行許可証が要る。許可証は『義務を果たした者』つまり、この城塞都市に貢献した者のみに与えられるのだ。
私たちは随分前に、フクログマを討伐した見返りに、それを手に入れることができた。
しかし、私たちのように、義務を果たせるよそ者は意外に少ない。
義務は果たせないが、引き下がることもできない。そんな者達が、城塞都市の門の前にテントを張り、居座っている。
私たちは、そのスラムのようなテントの前を通り過ぎ、門へと向かう。
この街は、ほぼ全ての建物が頑丈な石造りでできており、城塞都市という名にふさわしい見た目だ。そして、その石造りの城が、見事な景観を生み出している。ここは強くて美しい都だ。
だからこそ、義務がどうとか言う前に、門の前のテントを、どうにかした方がいいと思う。
とりあえず中に入れて、生活保証してから労働させるなり、強制撤去で無理やり追い出すなり、好きな手を使えばいい。
テントがある限り、城塞都市の強くて美しい景観を、台無しにし続けるだろう。
「先にご飯にするか?」
「そうだね。何食べようかなぁー。」
「肉が食べたい。肉が。」
「僕はビール。」
「ビールはご飯じゃない。」
「僕にとってはご飯の一部だよ。」
そんなたわいもない話を、エルサイスとしながら、街の奥にある酒場への道を歩いていた。
すると、急に誰かがぶつかってきた。
「わっと…!」
思いがけないタックルに、私はよろけて尻もちを付きそうになる。
「おっと…!」
エルサイスが、私の腕を掴んで、転ぶの阻止してくれた。
「大丈夫?」
フラフラしている私を、エルサイスが心配そうに覗き込む。
「大丈夫。」
そう言いながら、ぶつかられた左手をさする。
「クロは軽いからすぐ飛ばされちゃうんだよ。」
「いきなりだったから踏ん張れなかっただけだ。」
そう答えながら、ぶつかってきたやつを探す。
「あぁ、困ったわ、困った……。」
ぶつかってきた女は、謝りもせず、そう呟きながら、その辺をウロウロしている。
「おい、お前…!」
私がイライラしながら声をかけると、女はやっとこっちを見た。
ブロンドの内巻きカールの髪に、猫耳のカチューシャ、黒の連邦服からは、か細い足が伸びている。
「あ、あなた様方は、もしかして旅の冒険者様ですか?」
高い声には幼さが残り、どこか甘ったるさを感じた。
「はじめまして、私はリーヤン。この街に住む、か弱くしがない町娘。」
「はじめまして、リーヤンさん。」
エルサイスが、いつもの営業スマイルを顔に貼り付けて挨拶する。本当にこいつは外面がいい。エルサイスの社交性が役に立つ時も多いが、私は嘘にまみれたこの笑顔が、あまり好きではない。
「まず、ぶつかったことを謝れよ。」
私はお構い無しにリーヤンを睨みつけた。エルサイスが私の肩に手を置いてなだめてくる。
「すみません…。困り事で頭がいっぱいで…。」
リーヤンはそう言うと目を伏せた。
「実は私、盗賊に命の次に大事なペンダントを、盗まれてしまったんです。」
「それは大変ですね…。」
エルサイスが、そう返す。顔には同情の色を浮かべているが、心の中ではどう思っているのか全くわからない。
嘘がうまいやつというのは、見ていて感心するが、同時に恐れも感じる。何でも直接言う私よりも、どれが本当かわからないエルサイスの方が100倍恐い。
「兵士の格好をした盗賊は、この街の地下洞窟に逃げ込んだみたいで……。」
リーヤンは、無反応な私に話すより、エルサイスに話した方がいいと思ったのだろう。私には一切目もくれず、エルサイスの方だけ見つめて話している。
「兵士?」
「そう、兵士。兵士の格好をしていたのは、多分、元々兵士だったからでしょう。兵士崩れの盗賊は意外と多いのです。過去の地位を利用して、人を陥れる……。」
リーヤンは目を潤ませ、悲しそうな顔をする。
その姿を見て、私はもっと違うものを感じた。リーヤンがエルサイスばかりに訴えるのは、エルサイスが聞いてくれそうというよりも、もっと単純に、エルサイスが男だからかもしれないと思った。
「それで、できましたら、ペンダントを取り返したいのです。」
大きなタレ目に、小さな口、幼さが残る甘ったるい声。こういうのが好きな男は多いだろうなと思う。
「中は魔物がウロウロ、私では盗賊ともまともに立ち会えるはずもなくて……悲嘆に暮れてたところ、あなた様方のお姿をお見かけし……。」
「僕たち?」
「そうです 、そのたくましいお姿!あなた様ならきっとやってくれるはず。盗賊を見つけてたら倒してほしいのです。」
なんとも都合がいい話だ。
「いえ、そこまですることはないですね。ペンダントを取り返してもらえれば。」
「一体何様なんだか…。」
あまりの図々しさに、私は思わずそう漏らしていた。それが聞こえたか、聞こえてないかわからないが
「タダとは言いません。お金はありませんが、私に出来ることなら何でもします。それくらい大切なものなのです。」
と、リーヤンが交渉してきた。
こんな弱そうな小娘が、私たちのために出来ることなど、皆無だろう。
「金が無いなら、話にならないよ。」
私が冷たく突き放す。
「それなら、道中、もし見かけたら、で構いません。私のペンダントを、取り戻す機会があったら、お願い出来ませんでしょうか。どうか……どうかお願いします!」
リーヤンが、エルサイスに縋るように言う。見ていて気分が悪い。
「じゃぁ、約束はできませんが、見つかったら、届ける、ってことでいいですか?」
エルサイスがにこやかな笑みで答える。それも見ていて気分が悪い。
こんな茶番さっさと終わらせて、早く酒場でプロシェットにかぶりつきたい。
「はい。それで構いません!よろしくお願いします!」
リーヤンはそう言いながら、体をくねらせた。
吐き気がしそうなほど、甘ったるい動きだった。