アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
雨の日というのは、それだけで憂鬱だ。
宿屋の窓から、街を見下ろす。
人通りはまばらで、みんなどこか早足で必要最低限の用事を済ませている。
エルサイスはベットの上にあぐらをかいて、プレジャーBOXの開封作業をしている。
私はついさっき起きたばかりで、眠い目を擦りながら、彼がが合成してくれた、クロムッシュを食べていた。
「あと何個?」
「あとねー…64個。半分くらい開けたね。」
「水杖は?」
「アクアウッドロッドはまだ出てないよ。今のとこ火片手2、風両手1、土短剣1。」
ほしいものは中々出ないものだ。
ガチャだってそうだ。「とりあえず回しとくか」で回すといいのが出る。「これ絶対ほしい」で回すと出ない。あと、周りの人がみんな「UR上下揃った」と喜んでいるからといって、「自分も回せば出る」と思っていると、絶対出ない。
世の中には、そういう目には見えない法則がいっぱいある。
「オーブばっかりだよ。あと時々僕の強化素材。」
エルサイスがつまらなそうに言う。
「おーおー。強化素材飲んどいてよ。強くなれ、強くなれ。」
私の投げやりな言い方を、エルサイスは
「はいはい」
と言って受け流した。
城塞都市は、今日は珍しく雨天だ。大粒の雨が降り注ぎ、石畳の道を黒くしている。
雨の日は、余程のことが無ければ、冒険には出掛けず、街の中で過ごすことが多い。
私が雨が嫌いなのもあるが、雨の日の戦闘というのは、そうではない日よりもずっと難しいからだ。
視界は悪いし、足元はぬかるみで不安定だし、声が通りにくいし、思わぬアクシデントが起こりやすい。
そういうアクシデントがあると、消耗が激しく、やりたいことがあっても、結局達成出来ずに終わることが多い。
それなら最初から出掛けない方がいい。
「あ、出た出た。アクアウッドロッド。」
エルサイスが淡々と言う。
「おー、じゃぁ合成しといて。」
「とりあえず、これあげる。」
エルサイスはそう言うと、合成したばかりの紅茶をくれた。私はそれに口をつけると、また窓の外を見た。
雨は止みそうな気配はない。空は黒い重そうな雲でいっぱいだ。
「あ、クロ。」
「んー?」
「鉄鉱石足りないや。」
「え?」
「素材足りなくて合成できない。」
「えー……。」
これだから、雨の日は嫌いだ。
炎の洞窟は、ほんのり暖かく、カラッとしていて、雨の外より気持ちがいい。
ファントムロッドIを合成するのに、鉄鉱石が20個必要だったが、15個しか持っていなかったらしい。
鉄鉱石なんて、その辺でよく拾うので、個数なんて気にもしなかった。
酒場にいた他の冒険者から、この街の地下洞窟『炎の洞窟』に採取ポイントがあると教わり、取りに来たのだ。
ここは地下だから、雨に濡れる心配も無いし、ずっと宿屋でダラダラ過ごすよりましだろう。
私は退屈は苦手なのだ。
「5個くらいすぐ拾えるだろ。」
「そうだね。」
次々エリア移動しながら、リポップした鉄鉱石を拾う。中々わかないときは、暇つぶしにその辺にいるコノミや、べネッシーを狩る。
リポップ時間が長く、結構な時間がかかったが、それでも午前中には終えることができた。
「帰るか。」
暇つぶしの戦闘でほどよい汗をかいていたが、まだまだウォーミングアップというところだ。しかし、今日はもうすることはない。いいトレーニングだと思うことにする。
「そうしようか。」
そう言ったエルサイスに続いて、出口に向かう。この炎の洞窟の最初のエリアは、連邦の地下牢として利用されている。
地下牢は炎の洞窟内部に比べて、ひんやりしていた。火照った体に丁度いい温度だ。
「あ。」
エルサイスが何か見つけたような声を出す。
「ん?」
そちらを見ると、兵士の格好をした長身の男がいた。フードを被っていたので、顔は見えない。
「あれ、昨日リーヤンさんが言ってたペンダントを盗んだ盗賊かな?」
「なんだあんた。俺がペンダントを盗んだ?何を言ってるんだ?」
男は中々耳ざとい。エルサイスの声に反応し、こちらに出てきた。
「俺はグレン。アルブ連邦の兵士だ。ここは我ら連邦兵士が警備をとされた場所。あんたらこそ、ここに近づくな。」
そう言った男は、赤茶色の髪の間から、黄色い腫れぼったい目を覗かせた。なんとなく陰気臭い。
エルサイスが「どうする?」と目配せしてくる。
リーヤンのことはどうでもよかったが、この兵士なのか、盗賊なのかわからない男には、少し興味がある。
「本当に兵士なの?」
私の質問に、グレンは眉をひそめ、顔を歪めた。不快感を示したのか、正体がバレそうで焦っているのか、まだ判断はつかない。
「疑っているなら、証明書をみるか?」
グレンはそう言うと、ポケットを探る。
「……ない、だと……?どこへ行った……?まさか落としたのか……?」
そう焦る様子のグレン。
「何か怪しいね。」
エルサイスが私に耳打ちする。
ペンダントはどうでもよかったが、こいつが盗賊なら盗賊で、捕まえるのは悪くない。連邦に恩を売っておくことに、損はないだろう。
ただ、こいつが本当の兵士だった場合、大変面倒なことになる。
「どうだろうね?」
「あんたが俺を疑っても、俺がアルブ連邦の兵士であることは揺るぎがない事実だ。」
グレンはそう言ってこちらを睨む。
グレンは名前を名乗った。盗賊自分の名前を自ら名乗るだろうか?しかし、グレンは兵士の証明書を持っていないようだった。そんな大事なものを、まともな兵士が無くすだろうか?
「エルはどう思う?」
「うーん。まぁ怪しいよね。僕の感想はそれだけかな。」
下手に手を出さない方がいいかもしれない。私がそう思った時、グレンの後ろに宝箱があるのを発見した。
「あの宝箱は?」
そう言うと、グレンは明らかに挙動不審になった。目を泳がせ、落ち着きなく腕を何回も組み替えている。
怪しい。そしてそれとは別に、宝箱の中身が気になる。
「俺はこの牢屋に近づこうとする者を、排除するよう陛下から申し使っている。」
グレンはそう言うと、腰から剣を抜いて構えた。
「あんたが立ち去らないなら、俺は命令に従ってあんたをこの場から排除する。」
何とも急で、乱暴な話だ。
でも、悪くない。私の中の、戦いの血が騒ぐ。ウォーミングアップは既に済んでいた。
「多勢に無勢じゃ卑怯だ。エル、手出すなよ。」
エルサイスは、何も言わず、数歩後ろに下がって身を引いた。エルサイスはいつだって私の意思を尊重してくれる。いいパートナーだ。
もう私は、グレンが兵士だろうと、盗賊だろうと、どうでもよくなっていた。戦えて、それが楽しければそれでいい。
後悔先に立たず。
私はデモンブレイド=アビスを構えた。