アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
グレンと剣を合わせてすぐ、これは不利だなと気がついた。
この狭い地下牢で、デモンブレイド=アビスを振るうのは、中々骨が折れる。
私の背丈より大きいこの大剣は、振り回す度に、壁や床や天井に引っかかりそうになり、思うように動けない。
頭を狙って剣を打ち下ろすスカルティガーは、十分に剣を掲げられず、不発に終わった。
その隙を見逃さず、グレンが私の脇腹を狙って飛び込んでくる。いい動きだ。私は体を捻ってそれを避けつつ、剣を盾がわりにしてガードした。
金属と金属の擦れる音がする。
ガードしたグレンの剣を外側に弾き返し、そのまま薙ぎ払い、セイクリッドサークルを放つ。剣先が壁に擦れて、嫌な振動が手に伝わってくる。
戦いにくい。
大振りの私に対して、グレンは片手剣で小回りが効いている。1つ1つ丁寧な剣さばきで、迫ってくる。
正に、訓練された優秀な兵士のそれだ。
開始から、私は防戦を強いられていた。グレンから次々繰り出される剣戟を、時にはかわし、時には弾き、時には身を翻しガードする。
大きな剣が私の足枷となり、かなり押されていた。
エルサイスは少し離れたところで、私たちの戦いをただ見ていた。心配しているのか、呆れているのか、その表情を確認することは出来ない。
グレンが、左から右へと剣を振るう。私はそれをバックステップでかわしながら、グレンが空をかいた剣に、左手を添えるのを見ていた。
グレンは次、右上から左下へ振り下ろす。
そう先読みして、私はそれを下から上に弾き返す。タイミングぴったり。不意打ちに驚いたグレンは、バランスを崩し、両手をあげたまま無防備な格好になった。
私はそれを見逃さなかった。鋭い突きの一撃、破甲衝を叩き込む。グレンの鎧にヒビが入り、防御力が低下する。
「(このまま一気に畳み掛ける。)」
その焦りが、ミスに繋がった。
突きで前に踏み出した体勢のまま、無理やり体を捻って、下から上に向かってファイアスラッシュを放とうとしたその瞬間、剣が床に引っかかり、バランスを崩してしまった。
「やっべ…。」
思わずそう漏らす。
それを見逃してくれるグレンではなかった。私の剣柄めがけて、強烈な一撃が飛んでくる。なんとか重心をずらして、体への直撃は避けたが、手が間に合わない。
私は仕方なくデモンブレイド=アビスを手放す。
甲高い金属音と共に、私の大剣は後方へ吹っ飛んでいった。
「クロ!」
「エル!手出したら許さねぇからな。」
エルサイスの呼びかけに、私はそう怒鳴り返す。
これは私の戦いだ。邪魔は絶対に許さない。
私は丸腰のまま、グレンに突っ込んでいく。
グレンは既に勝ちを確信したような余裕の表情で、剣を振り回す。その剣戟を、私は仰向けにスライディングしながら避ける。剣先が顔のすぐ上を通っていった。すれ違いざま、体を捻りながら手を伸ばし、グレンの腰にあったもう1本の剣を抜き払い、盗む。
「は?!お前!」
予想外のことに、グレンはイラついた声をあげた。
盗んだ剣は、グレンが今振るっている連邦支給の剣に劣る、サブ用のスチールソードだ。武器としての性能はデモンブレイド=アビスに遠く及ばないが、そこは私の技術でカバーすればいい。
「これで少しはマシになる。」
私はそう言って笑った。
私は戦うのが好きだ。自分に何ができて、何ができないか、限界を知りながら、自分が持っている限られたカードで、最大の力を発揮する。
ここは、私の自己表現の場なのだ。
「くっそ!」
そう毒づいたグレンに、ファイアスラッシュをお見舞する。
もう防戦一方を強いられることはない。リーチを気にせず、私は自由自在に剣を振るう。
脳天を狙った一撃、スカルティガー。
円を描くように攻撃する、セイクリッドサークル。
上下左右ありとあらゆる体勢から、剣戟を繰り出し、グレンを翻弄する。
剣と剣がぶつかり合う度、火花が散った。
グレンは剣を構え直すとまっすぐこちらへ突っ込んでくる。私はそれを正面で受け止める。
交えた剣越しに、グレンと目が合う。真剣な顔のグレンに、私は不敵な笑みを返す。
力は男のグレンの方が上だ。押し切られてしまう。
弾かれて2,3歩下がったところに、グレンが剣を振り下ろしてきた。そのタイミングに合わせて、さらにその上から剣を振り下ろす。
武器破壊だ。
グレンの剣は柄元から折れ、剣先は後ろへと飛んでいき、床に突き刺さった。
グレンは折れた剣を見つめ、驚愕を浮かべると、膝をついた。
その姿に、私は持っていた剣を投げ捨て、グレンに返した。
もう勝負はついた。
体が熱い。肩で息をしていた。
「お疲れ様。」
エルサイスがそう言いながら、デモンブレイド=アビスを拾ってくれた。私は
「ありがとう。」
かすれ声で返事をしながら、それを受け取る。
「久々にヒヤヒヤしたよ。」
エルサイスは笑っていた。なんとなく、怒られると思っていたから、少しほっとした。
「さぁ?勝ったけどどうする?」
エルサイスにそう聞かれて、私は戸惑う。
私は戦いたかっただけで、その先どうしたいかなんて、考えもしなかった。
悩んでいるところに、宝箱が目に飛び込んで来た。
「あれ開けようかな。とりあえず。」
グレンが動揺した宝箱だ。何か重大な秘密が隠されているかもしれない。
「ペンダントが入ってるかもね。」
エルサイスはそう言いながら、宝箱に手をかけた。