アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
宝箱を開けると、中から魔物が現れた。
反射的に、僕とクローバーは武器を構える。
「よくぞ、このような狭いところに閉じ込めてくれたね!人間どもめ!」
魔物は怒りに体を膨らませながら、そう怒鳴った。
大きめの猫の様な出で立ちだ。しかし、後頭部にはフサフサしたたてがみがあり、額には大きな角、手には鋭い爪がある。猫よりは強そうだ。
「ま、魔物…!なぜ…!?」
さっきまでいなかった人の声が、急に割り込んできてたので、僕はそちらを見た。
「リーヤンさん!どうしてこんなところに?」
顔を青くしているリーヤンと目が合う。
僕もクローバーも戸惑っていた。魔物の出現も、リーヤンの出現も、まったくの予想外だ。
「魔物ではないわ!我は魔王!かつて名も知れぬ冒険者に、この宝箱の中に閉じ込められたの!」
情報量が多すぎる。色々なことが一度に起こりすぎだ。
クローバーは既に思考を停止し、きっと魔王と戦うことしか考えてないだろう。
僕は必死で今の状況を整理する。
宝箱の中身は、ペンダントでも、財宝でもなく、封印されていた魔王だった。
リーヤンがここにいるのは、おそらく僕らのあとをつけてきたからだ。
なぜあとをつけてきたのか?
「さぁ、我が敵はどいつ!?お前?それとそっちの女?」
魔王は血気盛んで、今にも襲いかかってきそうだ。
「キャアア!」
リーヤンはそう悲鳴をあげると、走り去って言った。
居なくなったら居なくなったでいい。今は考えるキャパが足りない。退出したリーヤンのことは後回しにする。
「お前……騙されたな…。宝箱の中に財宝があるとでも教えられたか…」
グレンが立ち上がりながら言う。
「そうは言ってなかったですよ。でも、あなたに大事なものを取られたと言うような話は聞きました。」
僕はそう言いうと、クローバーをチラリと見る。悔しさと怒りに顔を歪ませながらも、魔王を睨みつけている。騙されたとういワードに相当腹が立っているようだ。
「やつは、かつて世界を混乱に陥れた魔王…。俺の責務は魔王が封じられたこの宝箱を守ること…。そして、復活されたら命がけで封印する。それが俺の仕事だ!」
グレンはそう言うと、雄叫びをあげながら魔王に向かって行った。剣はクローバーに折られてしまったので、丸腰だ。
魔王は向かってきたグレンにパンチを繰り出した。
「ぐわぁっ!」
グレンは簡単に後ろに吹っ飛ばされていった。先にクローバーと戦った時のダメージが残っていたのだろう。命がけの割には、あっけない戦いだった。
「弱いな、次はお前か?」
魔王が僕らに照準を定める。
「エル、下がってろ。」
「クロ、ダメだよ。まださっきのダメージが残ってる。」
グレンがそうだったように、クローバーにだって、先の戦いでのダメージはそれなりに残っている。1人で戦わせることはできない。
それに今のクローバーは、バーサーカー状態だ。騙されたとういう怒りで我を忘れている。そんな精神状態で上手く立ち回れるわけがない。
「ゆくぞ!」
魔王はそう言うと、クローバーめがけて先制パンチをお見舞いした。グレンが受けたものと同じやつだ。
クローバーはそれを軽々かわすと、魔王の懐に飛び込み、ファイアスラッシュを放つ。そのまま無理に体勢を変えながら、スカルティガーをねじ込む。
動きが普通ではない。怒りに身を任せ、力でねじ伏せている感じだ。
「(八つ当たりされる魔王もたまったもんじゃないな。)」
そう思いながら、僕は詠唱を始める。
怒りで無理やり体を動かす戦いは、そう長くは続かない。それは使える体力を前借りして、普段できない動きをしている状態なのだ。適正な体力配分ができないので、消耗が激しく、戦闘が長引けば致命的になる。
僕は援護を捨て、攻撃支援に徹する決断をする。さっさと終わらせてしまった方がいい。
ハイオーラで、物理攻撃力と魔法攻撃力を上昇させる。
クローバーの破甲衝で、魔王が仰け反ったその瞬間、僕はセラフィムウィングを唱えた。三対六翼の羽搏きが、魔王を貫く。
軽い。そう思った時には既に、魔王は地面に倒れていた。
思ったよりも、ずっとあっけなかった。魔王という割には、弱い。
「くっ……またしても人間ごときに……だが……これで終わりと思うなよ……」
魔王はそう言うと、黒い霧となり消えていった。
「くっそ……。」
クローバーはそう言うと、膝をついた。相当疲れが溜まっている様だ。グレンとの戦闘のあと、休みなく激しい戦闘をしたのだ。無理もない。
「クロ、大丈夫?」
僕はクローバーに肩を貸すと、立たせた。紙のように軽い体だった。
「不覚……。」
僕らの後ろで、グレンがそう言いながら、よろよろと立ち上がった。
「魔王を倒したところで、奴らが滅びるわけではない。魔王は倒してもどこかで蘇る。」
だから、封印していたのだ。悪さをしないように。それを僕らが解いてしまった。
「あんたは誰かに俺が盗賊だと吹き込まれたな。そして、あの宝箱を開けろと」
「まぁだいたいそんな感じだが、別に盗んだものを取り返そうとは思ってなかった。宝箱は何となく気になって開けただけ。」
クローバーが後悔を滲ませながら言う。
「それでも、盗賊だという情報がなければ、きっと気にもとめませんでしたよ。僕達は。」
僕はそうクローバーを弁護する。それは自己弁護でもあった。
「間違った情報とはいえ、お前にも正義感はあったのだろう。」
グレンは僕たちに理解を示し、責めなかった。
僕たちはそれほど正義感があったわけではない。ただ、何となく、手を出してしまった。そんな感じだ。
あの時僕が「ペンダントを盗んだ盗賊かな?」なんて言わなければ、こんなことにはならなかったはずだ。
僕が変な興味を持ったから、余計なことをしたから、そんな後悔が頭の中をぐるぐる回る。
「もう2度とここへ来るな。俺の前には姿を現さないでくれ。」
グレンはそういうと、うなだれた。
「すまない…。」
「申し訳ありません。」
これ以上ここに居て、グレンに謝罪の言葉を浴びせたところで、グレンの気持ちは晴れないだろう。
僕らは言葉少なめに、炎の洞窟をあとにした。