アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第25話 ネズミ

「リーヤンさんは……いないね。魔王を見て逃げ出したのかな……?」

「あの女……見つけたらぶっ殺す……。」

「クロ、気持ちはわかるけど、殺すのはやり過ぎだよ。」

地上はまだ雨が降っていた。僕たちは近くにあったテントの下に入って、雨宿りする。

クローバーの怒りは、まだ収まっていなかった。腕を組み、イライラしたようにつま先をカツカツと踏み鳴らしている。

僕はというと、もうすでに気持ちを切り替えていた。終わったことをとやかく言っても仕方がない。

今回のことは、僕らではどうにもならなかった。100%悪くないとは言えないが、だからといって、責任の全てを取れる立場でもない。

後悔も執着の1つだ。

僕は何かに興味を持ったり、執着したりするのが怖い。

興味を持って手を出せば、今回のように壊してしまったり、執着した結果、結局全て失ってしまったり、そんなことになるのを、ずっと恐れているのだ。

だから、僕はこの世界の色々なものから、距離を置いてしまう。最初から近づかなければ、傷つくこともない。僕はそうやって、いつも逃げている臆病者だ。

「とりあえず、話を整理しようか。」

僕はそういと、人差し指を立てた。

「1つ。リーヤンさんがペンダントを盗まれたというのは嘘だった。」

グレンが盗賊ではなく、本物の兵士だったこと、僕らのあとをつけていたこと、この2つ要素からその可能性が高い。

「1つ。リーヤンさんは宝箱の中身が魔物だと知らなかった。」

リーヤンは宝箱の中身が魔物だとわかると逃げていった。つまり、魔物を解放するためにあの宝箱を開けたかったわけではない。

「まとめ。リーヤンさんは僕らを騙して利用して、あの兵士を出し抜き、宝箱の中身を手に入れるつもりだった。しかし、宝箱の中身は思ったものと違っていた。それで逃げた。」

「なーんか嫌な予感はあったんだ。」

僕の考察を黙って聞いていたクローバーが、口を開いた。

「直感的には、わかってたんだけど……その違和感だけじゃ判断できなかった。」

昨日酒場で話していたことを思い出す。あの時は解像度が足りなくて、気づけなかったが、今はリーヤンの悪意が、はっきり輪郭を持ってわかる。

「仕方ないよ。僕だってわからなかったし。」

僕らは、ため息をついた。

「最悪の気分だよ。」

クローバーはそう吐き捨てると、うなだれた。

クローバーのそんな姿を見るのは、中々辛いものがあった。

「とりあえず酒場で何か食べよう。」

暖かいものを食べれば、また気分が変わるかもしれない。

クローバーは力なく頷くと、僕の後ろをトボトボついて歩いた。

 

 

 

なんてタイミングだろうか。最悪なのか、最高なのか、判断に困る。

酒場に入ると、入口すぐ前のカウンターで、リーヤンと、見たことのない大柄の男が言い争いをしていた。

「ちょっとどーゆーこと!?あなた、すごいお宝があるって言ったじゃない!錬金術で永遠の命を得ることができる、命の結晶を国王が隠してるとかなんとか」

「で?なかったのか?」

大柄の怪しい男は、リーヤンの剣幕にビクともしていない。冷静な様子でそう聞く。

「なかったどころじゃないわよ!ヘンな魔物が出てきたのよ!?もう少しで私も巻き込まれるところだったわ!」

リーヤンが狙っていたのは、命の結晶というお宝だったらしい。散々僕らを巻き込んでおいて、自分が巻き込まれそうになったことの怒りを訴えているリーヤンに呆れる。自分勝手にも程がある。

僕は、今にもリーヤンに切りかかりそうなクローバーの腰に手を回し、制止する。肩を掴むくらいではとても抑えられそうにない勢いだ。

気持ちはわかるが、ここで問題を起こすのは得策ではない。

「なんだ、ガセだったのか。残念だったな。まぁご苦労さん。それじゃぁな。」

怪しい男はそういうと、立ち去る素振りを見せた。

「待ちなさいよ!こっちはそれなりに動いてるのよ。報酬出しなさいよ!」

リーヤンがその背中を怒鳴りつける。

「バカ言っちゃいけねぇな。モノがねぇのに、俺が何を出すって?」

怪しい男がリーヤンを蔑むように言う。

「俺はその命の結晶ってのが本当にあるなら、大枚はたいてでも買い取ってやろうと思った。が、ないなら、払うもんは何もねぇ。それだけの話だろう。」

この男もずるいなと思う。

この男はリーヤンに命の結晶を取ってこいといいながら、本当に望んでいたのは、命の結晶が本当にあるかどうか確認することだったのだ。

隠したり騙したり、そんな汚い化かしあいに、僕らはたまたま巻き込まれてしまったようだった。

「オニ!クズ!ろくでなし!」

立ち去る男の背中に、リーヤンが罵声を浴びせる。

「ハハハ、言われすぎててな、痛くも痒くもねぇ。そんなこたぁわかってんだろ?お嬢さんも同類なんだからさ。」

男はそう言って去っていった。男の姿を追い、振り向いたリーヤンは、やっと僕らの存在に気付き、驚いた顔をした。

「どうも、リーヤンさん。」

僕は、クローバーを抑えながら、いつもの笑顔を貼り付ける。

「お前…覚悟はできてるだろう?」

クローバーはそう言いながら、剣を抜こうとする。怒りで目が燃えている。

「クロ、ここで暴れたら危ないよ。お店の迷惑になるし。」

僕がたしなめる。

「じゃぁ出たところで殺る。」

クローバーは何かと物騒だ。

「騙した私を恨んでる?そうね、でも私も騙されてたのよ。私を恨むなら恨めばいい。でも、あなたたちも恨まれてるのよ。あの兵士に。」

リーヤンはそう言って、得意そうに笑った。やっと本性を表したという感じだろう。

僕に言わせれば、その笑顔は、リーヤン自身の汚さ凝縮したような、醜い顔だ。

「勝手なことを!お前が私たちを巻き込まなきゃ、こんなことにはならなかったはずだ!」

クローバーが怒鳴る。

「良かれと思ってやったことでも、裏目に出るなんてことはよくあること。人間なんて多かれ少なかれ誰かを騙してる。その気がなくても、自分の利益になるよう、相手を利用してるのよ。あなたも同じ。」

「あなたのような人と、一緒にしないでほしいですね。」

僕は笑顔の表情を崩さず言う。

僕は構わないが、クローバーがこんなゴミと一緒だと言われるのは我慢ならない。

「まぁそういう恨まれる覚悟があれば、案外、なんだってできちゃうものよ」

リーヤンはそういうと、甘いマスクでニコっと笑った。この顔に、騙された男は何人いるのだろうか?ますます不快だ。

「その覚悟ができないなら、何者にもなれず、くすぶるしかないでしょうね。」

リーヤンのその言葉を聞いたクローバーは、僕の腕を乱暴に振り払った。

「(あ、リーヤンさん死んだかも。)」

抑えがなくなったクローバーは危険だ。再び、押さえつけようと手を伸ばした瞬間

「エル!」

と、クローバーが叫んだ。僕は思わず止まってしまった。幸い、クローバーはリーヤンに切りかからなかった。そのままリーヤンを睨みつけ

「ネズミはどうして嫌われると思う?」

と聞いてきた。

急に何を言い出すんだと思ったが、僕はここで余計な口は挟まない。

これは長い間彼女と旅をして身につけた、ライフハックの様なものだ。クローバーは、話の途中で疑問を挟んだり、聞き返したりすると、その先を話せなくなってしまうのだ。

最初は話すのが面倒になっているだけだと思っていたが、よくよく聞くと、話したい気持ちはあるが、話の道筋を説明するのが苦手なだけのようだった。

疑問や戸惑いを感じても、遮らず話させてあげる。それがベストな対応なのだ。

「うーーん…。まぁ単純に汚いからじゃないかな?不衛生っていうのは、それだけで病気や伝染病の原因になるからね。」

と冷静に答える。

「それなら、自分の悪事を認めず、人間はみんなやってるなんて主語を大きくして、責任逃れしてるこいつと、どっちが汚い?」

クローバーの言葉に、僕は微笑んだ。答えは一目瞭然だった。

リーヤンはたじろぎ、後ずさる。

「何者にもなれないだぁ?舐めたこと言ってんじゃねーよ。お前みたいにネズミ以下になるくらいなら、何者にもならない方が1000倍ましだ!」

クローバーがそう怒鳴る。

「2度と私の前に姿を現すな!」

クローバーがそう言うと、リーヤンは走って逃げていった。

去ってくリーヤンの背中を見つめる。どうせ彼女もきっと変わらない。またどこかで誰かを騙して、ずっと生きていくのだろう。みんなやっていると言い訳しながら。

クローバーは肩で息をしていた。怒りでかなり体力を消費したらしい。顔を抑えて、フラついている。

僕はその肩を支えながら、酒場のマスター、ルネッタに、いくつか料理を頼んでテイクアウトした。

「部屋で食べよう。早く休んだ方がいい。」

僕がそういうとクローバー

「あぁ。」

と、どこかうわの空で返事をした。

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