アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
「リーヤンさんは……いないね。魔王を見て逃げ出したのかな……?」
「あの女……見つけたらぶっ殺す……。」
「クロ、気持ちはわかるけど、殺すのはやり過ぎだよ。」
地上はまだ雨が降っていた。僕たちは近くにあったテントの下に入って、雨宿りする。
クローバーの怒りは、まだ収まっていなかった。腕を組み、イライラしたようにつま先をカツカツと踏み鳴らしている。
僕はというと、もうすでに気持ちを切り替えていた。終わったことをとやかく言っても仕方がない。
今回のことは、僕らではどうにもならなかった。100%悪くないとは言えないが、だからといって、責任の全てを取れる立場でもない。
後悔も執着の1つだ。
僕は何かに興味を持ったり、執着したりするのが怖い。
興味を持って手を出せば、今回のように壊してしまったり、執着した結果、結局全て失ってしまったり、そんなことになるのを、ずっと恐れているのだ。
だから、僕はこの世界の色々なものから、距離を置いてしまう。最初から近づかなければ、傷つくこともない。僕はそうやって、いつも逃げている臆病者だ。
「とりあえず、話を整理しようか。」
僕はそういと、人差し指を立てた。
「1つ。リーヤンさんがペンダントを盗まれたというのは嘘だった。」
グレンが盗賊ではなく、本物の兵士だったこと、僕らのあとをつけていたこと、この2つ要素からその可能性が高い。
「1つ。リーヤンさんは宝箱の中身が魔物だと知らなかった。」
リーヤンは宝箱の中身が魔物だとわかると逃げていった。つまり、魔物を解放するためにあの宝箱を開けたかったわけではない。
「まとめ。リーヤンさんは僕らを騙して利用して、あの兵士を出し抜き、宝箱の中身を手に入れるつもりだった。しかし、宝箱の中身は思ったものと違っていた。それで逃げた。」
「なーんか嫌な予感はあったんだ。」
僕の考察を黙って聞いていたクローバーが、口を開いた。
「直感的には、わかってたんだけど……その違和感だけじゃ判断できなかった。」
昨日酒場で話していたことを思い出す。あの時は解像度が足りなくて、気づけなかったが、今はリーヤンの悪意が、はっきり輪郭を持ってわかる。
「仕方ないよ。僕だってわからなかったし。」
僕らは、ため息をついた。
「最悪の気分だよ。」
クローバーはそう吐き捨てると、うなだれた。
クローバーのそんな姿を見るのは、中々辛いものがあった。
「とりあえず酒場で何か食べよう。」
暖かいものを食べれば、また気分が変わるかもしれない。
クローバーは力なく頷くと、僕の後ろをトボトボついて歩いた。
なんてタイミングだろうか。最悪なのか、最高なのか、判断に困る。
酒場に入ると、入口すぐ前のカウンターで、リーヤンと、見たことのない大柄の男が言い争いをしていた。
「ちょっとどーゆーこと!?あなた、すごいお宝があるって言ったじゃない!錬金術で永遠の命を得ることができる、命の結晶を国王が隠してるとかなんとか」
「で?なかったのか?」
大柄の怪しい男は、リーヤンの剣幕にビクともしていない。冷静な様子でそう聞く。
「なかったどころじゃないわよ!ヘンな魔物が出てきたのよ!?もう少しで私も巻き込まれるところだったわ!」
リーヤンが狙っていたのは、命の結晶というお宝だったらしい。散々僕らを巻き込んでおいて、自分が巻き込まれそうになったことの怒りを訴えているリーヤンに呆れる。自分勝手にも程がある。
僕は、今にもリーヤンに切りかかりそうなクローバーの腰に手を回し、制止する。肩を掴むくらいではとても抑えられそうにない勢いだ。
気持ちはわかるが、ここで問題を起こすのは得策ではない。
「なんだ、ガセだったのか。残念だったな。まぁご苦労さん。それじゃぁな。」
怪しい男はそういうと、立ち去る素振りを見せた。
「待ちなさいよ!こっちはそれなりに動いてるのよ。報酬出しなさいよ!」
リーヤンがその背中を怒鳴りつける。
「バカ言っちゃいけねぇな。モノがねぇのに、俺が何を出すって?」
怪しい男がリーヤンを蔑むように言う。
「俺はその命の結晶ってのが本当にあるなら、大枚はたいてでも買い取ってやろうと思った。が、ないなら、払うもんは何もねぇ。それだけの話だろう。」
この男もずるいなと思う。
この男はリーヤンに命の結晶を取ってこいといいながら、本当に望んでいたのは、命の結晶が本当にあるかどうか確認することだったのだ。
隠したり騙したり、そんな汚い化かしあいに、僕らはたまたま巻き込まれてしまったようだった。
「オニ!クズ!ろくでなし!」
立ち去る男の背中に、リーヤンが罵声を浴びせる。
「ハハハ、言われすぎててな、痛くも痒くもねぇ。そんなこたぁわかってんだろ?お嬢さんも同類なんだからさ。」
男はそう言って去っていった。男の姿を追い、振り向いたリーヤンは、やっと僕らの存在に気付き、驚いた顔をした。
「どうも、リーヤンさん。」
僕は、クローバーを抑えながら、いつもの笑顔を貼り付ける。
「お前…覚悟はできてるだろう?」
クローバーはそう言いながら、剣を抜こうとする。怒りで目が燃えている。
「クロ、ここで暴れたら危ないよ。お店の迷惑になるし。」
僕がたしなめる。
「じゃぁ出たところで殺る。」
クローバーは何かと物騒だ。
「騙した私を恨んでる?そうね、でも私も騙されてたのよ。私を恨むなら恨めばいい。でも、あなたたちも恨まれてるのよ。あの兵士に。」
リーヤンはそう言って、得意そうに笑った。やっと本性を表したという感じだろう。
僕に言わせれば、その笑顔は、リーヤン自身の汚さ凝縮したような、醜い顔だ。
「勝手なことを!お前が私たちを巻き込まなきゃ、こんなことにはならなかったはずだ!」
クローバーが怒鳴る。
「良かれと思ってやったことでも、裏目に出るなんてことはよくあること。人間なんて多かれ少なかれ誰かを騙してる。その気がなくても、自分の利益になるよう、相手を利用してるのよ。あなたも同じ。」
「あなたのような人と、一緒にしないでほしいですね。」
僕は笑顔の表情を崩さず言う。
僕は構わないが、クローバーがこんなゴミと一緒だと言われるのは我慢ならない。
「まぁそういう恨まれる覚悟があれば、案外、なんだってできちゃうものよ」
リーヤンはそういうと、甘いマスクでニコっと笑った。この顔に、騙された男は何人いるのだろうか?ますます不快だ。
「その覚悟ができないなら、何者にもなれず、くすぶるしかないでしょうね。」
リーヤンのその言葉を聞いたクローバーは、僕の腕を乱暴に振り払った。
「(あ、リーヤンさん死んだかも。)」
抑えがなくなったクローバーは危険だ。再び、押さえつけようと手を伸ばした瞬間
「エル!」
と、クローバーが叫んだ。僕は思わず止まってしまった。幸い、クローバーはリーヤンに切りかからなかった。そのままリーヤンを睨みつけ
「ネズミはどうして嫌われると思う?」
と聞いてきた。
急に何を言い出すんだと思ったが、僕はここで余計な口は挟まない。
これは長い間彼女と旅をして身につけた、ライフハックの様なものだ。クローバーは、話の途中で疑問を挟んだり、聞き返したりすると、その先を話せなくなってしまうのだ。
最初は話すのが面倒になっているだけだと思っていたが、よくよく聞くと、話したい気持ちはあるが、話の道筋を説明するのが苦手なだけのようだった。
疑問や戸惑いを感じても、遮らず話させてあげる。それがベストな対応なのだ。
「うーーん…。まぁ単純に汚いからじゃないかな?不衛生っていうのは、それだけで病気や伝染病の原因になるからね。」
と冷静に答える。
「それなら、自分の悪事を認めず、人間はみんなやってるなんて主語を大きくして、責任逃れしてるこいつと、どっちが汚い?」
クローバーの言葉に、僕は微笑んだ。答えは一目瞭然だった。
リーヤンはたじろぎ、後ずさる。
「何者にもなれないだぁ?舐めたこと言ってんじゃねーよ。お前みたいにネズミ以下になるくらいなら、何者にもならない方が1000倍ましだ!」
クローバーがそう怒鳴る。
「2度と私の前に姿を現すな!」
クローバーがそう言うと、リーヤンは走って逃げていった。
去ってくリーヤンの背中を見つめる。どうせ彼女もきっと変わらない。またどこかで誰かを騙して、ずっと生きていくのだろう。みんなやっていると言い訳しながら。
クローバーは肩で息をしていた。怒りでかなり体力を消費したらしい。顔を抑えて、フラついている。
僕はその肩を支えながら、酒場のマスター、ルネッタに、いくつか料理を頼んでテイクアウトした。
「部屋で食べよう。早く休んだ方がいい。」
僕がそういうとクローバー
「あぁ。」
と、どこかうわの空で返事をした。