アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第3話 真相を追う者達

「あら、あなたも神の奇跡を賜りたいのですか?」

そう僕らに話しかけた救済者様と言われる女は、女性と言うよりも、少女と言った方がいい様な顔立ちだった。

「(若いな)」

それが僕の最初の感想だ。

しかし、彼女の目の奥に広がる虚無の光は、見た目の若さでは表現出来ないような、暗さを持っている気がした。

クローバーの様子を少し伺う。

燃える夕焼けの様な黄金色の瞳で、女を睨みつけていた。何が真実か見極めてやるという、強い意思を感じる。

「(心配するだけ無駄だな。)」

クローバーの意思の強さを舐めてはいけない。公国の酒場のマスター、チップの石頭よりは固いはずだ。

僕はクスクス笑いを押し殺す。

クローバーのことを考えるのは本当に楽しい。

「奇跡を受けると、永遠の命を手に入れることが出来ます」

クローバーのことは一旦頭の隅に追いやって、僕は救済者の言葉に耳を傾ける。

「しかし、それは神への誓いとの等価交換によるもの」

「等価交換?不老不死になる代わりに、何か差し出すことになるの?」

クローバーが口を挟む。

永遠の命の代償とは如何なるものなのだろうか?

「そうです、与えられた生は、神のため、世界のために尽くすことになります」

クローバーも、僕も眉間のシワを深くする。

何とも曖昧な代償だ。神または世界の奴隷になるということを言ってるように聞こえるが、それがどういうことで、どれほどの代償なのか、さっぱりわからない。

「あなたに、その覚悟はありますか?」

口を開きかけたクローバーの肩に手を置き、発言を制止する。

どうせ反射的に「ねーよ。」と言おうとしたのだろう。

制止されたクローバーは、僕をギロりと音がしそうな不満の目で睨みつけてきた。

「(かわいいなー)」

まさに暖簾に腕押し、糠に釘、クローバーの如何なる感情も、僕にとってはかわいいのだ。

本人はかわいいと思われることが大嫌いの様だが、そう思っていることすらかわいい。

「冒険者の僕らでも出来ますか?」

ここで儀式を完全に拒否すれば、情報を引き出す先を失ってしまう。ここは、儀式を受ける可能性を残しつつ、最終的には受けないというのがベターな手だろう。

「あなたは既に神の加護をお持ちでしたか。神の奇跡を頂戴するのは、旅が終わり、加護が終わった後でも遅くはないでしょう。救いを求める人はたくさんいるのです。人々を、ひとりでも多く救うのが、神が私に与えてくださった宿命なのです。」

彼女はそういうと、儀式を受けるために待っている人々の中に消えていった。

「私は忙しいから、冷やかしは帰れ。ってことかな。」

僕がそう呟くと、クローバーが苛立ったように大きな舌打ちをした。

「こーら、品がないよ。」

そう注意しても、何処吹く風だ。

クローバーはとにかく直接的だ。自分の気持ちを隠したり、誤魔化したりしない。思ったことをすぐに口に出す。

交渉や駆け引きには、めっぽう向かない性格なのだ。

そこは僕がカバーしなくてはと思う。

「あら、おふたりさん。いいところで会ったわね。」

そう声をかけて来たのは、僕達と同じ冒険者のエナ。

僕らより少し先に冒険に出た先輩冒険者で、まだ僕達が冒険に出たばかりの頃は、色々教えてもらったりもしたが、今はもう対等に張り合える位の仲だ。

「あいつらの話聞いた?なんかうさんくさくない?」

「うさんくささしかないね。」

クローバーがそう返す。

この村に来てから、クローバーは何度「うさんくさい」と言っただろうか?

「くさいくさいって、匂いすぎて鼻が曲がらないか心配だよ。」

僕の皮肉に、クローバーが睨み返してきた。目だけで「黙れ」と言っている。

あまりのプレッシャーに、流石にまずいと感じて、僕は黙ることを選択した。

「あいつは、新興宗教の勧誘員」

「新興宗教か。私が言った通りだ。」

クローバーが得意げな顔をする。少し機嫌が直ったようで安心する。

「(単純っていいな)」

思うだけで口には出さない。

「死ななくなる術を、人々に施してるんだっていうけど、本当の目的がまったくわからないの。今は、村の外からも施術してもらいに来る人がいるらしいけど……。」

「まぁまぁ人気があるってことか……。」

クローバーが呆れたように言う。

宗教とは、心の拠り所だ。この世界は冷たく、辛く、苦しみに満ちてる。そんな、あらゆる理不尽を抱えて生きていくためには、神様と言われる、全てを超越した存在が必要な人もいる。

幸か不幸かわからないが、僕には、そしてクローバーにも、今までに、神の存在が必要になったことはない。

つまり、僕もクローバーも、こんな馬鹿げた宗教に集まる人の気持ちが、まったくもって理解できないのだ。

エナは、救済者が使う術は、僕達冒険者が受けている神の加護とも違うと続けた。

「待って、そもそも神様って複数いるの?」

クローバーが急にとんちんかんなことを言い出す。

「信仰の違いの分だけ、神様はいるんだよ。ある国ではね、八百万の神って言ってね……」

「800万なんて覚えきれないだろ。」

「全てのものに神様が宿るって考え方のことだよ。」

話が大分逸れてきた。

「とにかく、僕らが受けている神の加護と、さっきの救済者がやっている不老不死の術は、まったく違うものなんですよね?」

話を戻すため、そうエナに確認する。

「そう、神の加護のフリをしているけど、彼らは自分たちの手で作った技術で、人々を死なない体にしてるようなの」

「そもそも神様じゃ無いのか!」

クローバーは、冒険者の加護と、不老不死の術は性質的には一緒で、信仰する神様が違うから、違うものと言っているだけと思ったらしい。

面白い考え方をするものだと、感心してしまった。でも、そういう種なら話は早いし、危険も少なそうだ。

しかし、現実はもっと複雑らしい。

「そうやって人々を不老不死して、宗教の操り人形を作ってるとか……?とにかく、嫌な予感がするのよね……」

エナがそう続ける。

さっきの救済者が言った等価交換の代償「神のために尽くす」というのが、エナが言っているような、宗教団体の操り人形になるということなら、それなりの納得がいく。

「嫌な予感しかしないな。」

クローバーがそう呟きながら、眉をしかめる。

「予感で済めばいいんだけど……」

僕は先に広がる毒の沼を見据えるような気持ちで、そう返した。

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