アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
「ストーカー?」
クローバーとユイゼは、ネコに魚を与えながら、例のストーカーについて話していた。
「うーん……。ストーカーかな?」
「はっきりしないな。何か嫌なことされたの?」
ユイゼはクローバーに、公国で手助けした冒険者のことを話した。
「珍しいな。ユイちゃん人見知りなのに。初心者のお手伝いなんて。」
ユイゼは引っ込み思案の上、かなりの人見知りなのだ。クローバーとも、会った当初は、セリクの後ろにずっと隠れていて、まともに会話ができなかった。
今は随分打ち解けて、こうしてクローバーのことを姉御のように慕っているが、ここまでくるのは、中々大変で、長い時間がかかった。
「そうですね……。自分でもびっくりです。」
ユイゼはそういうと笑った。
「なんだか、助けたくなっちゃったんです。私も、冒険者になる前、セリクにいっぱい助けられて嬉しかったから……。」
公国の酒場の前で、大事な白い薔薇のコサージュを落としたユイゼは、セリクに声をかけられた。ユイゼは人見知りなので、ろくに返事もできなかったが、セリクは一緒にコサージュを探し、一緒に冒険者の登録にも行き、その後も色々とユイゼを助け、今もずっと一緒に冒険をしている。
ユイゼはそのことに、感謝しているのだ。
ユイゼは、セリクのそれを、無償の奉仕だと思っているので、一方的に与えられるものに、負い目を感じていた。
実際セリクは、恋愛感情にまみれた下心が大いにあるので、それは一方的なものではないのだが、ユイゼは、まだそれがわからない。
「セリクには全然何も返せないから、せめて誰かに恩を返したいって思って。」
「私には理解できない発想だ……。」
クローバーは首を傾げる。
クローバーはもらったら、もらいっぱなしだ。返すとか返さないとか、どっちが多いとか少ないとか、まったく気にしない。
「それで助けたら、付きまとわれるようになったってこと?」
「うーん……。付きまといっていうか、大量のメッセージが届くようになってしまって……。流石に怖くなって、今は無視してるんですけど、まだ届いてて……。」
「それを世間は付きまといって言うんだよ。」
クローバーはユイゼの危機感の無さに、ため息をついた。
優しいということは、一般的に良いことだが、こういった場面では、それが仇になる。ユイゼの優しさが、大事な判断を鈍らせてしまう。
「絶対2人きりで会っちゃダメだよ。」
クローバーの念押しに、ユイゼは申し訳なさそうな顔をする。
「それが……。会っちゃったんです。」
「え?」
クローバーの目が、一瞬点になる。
「だ、大丈夫だったの!?何されたの?そいつすぐ殺しに行くから!名前教えて!」
「ちょ、ちょっと!落ち着いて下さい!」
ものすごい剣幕でユイゼの肩を掴むクローバーに、ユイゼは面食らう。
「な、何にもされませんでしたよ!」
「嘘!でも、デリケートなことだからね、無理に話さなくてもいいけど……。」
クローバーはユイゼが襲われたと思っているのだ。襲われたというのは、いわゆる性的なものを含んでる最悪なもののことだ。
「本当に!ちょっと腕を掴まれただけで、すぐ逃げてきたんです!」
数日ほど前、今日のように魚をネコにあげようと、ネコアレルギーのセリクを酒場に置いて、ユイゼ1人でマーケット前に行ったら、例のストーカーとばったり鉢合わせしてしまったらしい。
たまたまなのか、待ち伏せされていたのかは、判断ができなかったが、とにかく会ってしまった。
「腕を掴まれて、ずっと会いたかったとか、好きだとかいわれたんですけど……私すごく恐くて。」
クローバーが「うんうん」と頷く。
「「もうやめて下さい!」ってはっきり言って、振り払って逃げたんです。」
「ちゃんと言えたね!頑張った!」
クローバーは女の子には優しい。
「それから会ってはないんですが、メッセージはまだ届くんです……。」
「懲りねぇ野郎だな。」
ユイゼはため息をついた。
「そのことがあってから、セリクはますます心配性になって、ずっと私から離れられないし、私もどこかビクビクしてて、なんていうか……疲れるんです。冒険が全然楽しめない……。」
「辛いよね……。」
クローバーはそう言いながら、ユイゼの頭を撫でる。
「なので、何かいい解決方法がないか、くーちゃんに相談したくて……。」
そう言われたクローバーは、ユイゼをじっとのぞき込む。ユイゼはその様子にたじろく。
「あ、あの……な、何……?」
「ユイちゃんはさ、好きな人はいる?」
まごまごしているユイゼに、クローバーが聞く。
「好きな人……?」
「うんうん。ユイちゃんには、もう既に好きな人がいるって、ストーカーに言っちゃえばいいんだよ。そしたら諦めもつくっしょ。」
「私の……好きな……人……?」
考え込むユイゼの肩を、見知らぬ男が急に掴んだ。
「ユイゼさん!」
「きゃぁ!」
悲鳴をあげるユイゼ。
クローバーは咄嗟に男にタックルすると、ユイゼから男を引き剥がした。
思わぬ不意打ちにあった男は、派手に後ろに吹っ飛んでいった。
「レディに気安く触るとは、どういう了見だ?躾がなってねーなぁ。」
クローバーはそう言うと、ユイゼの肩を抱き、男の前に立ちはだかる。
「セーロスさん!」
セーロスと呼ばれた男は、クローバーを睨みつける。
ラベンダー色の髪が、右目を覆い隠すように垂れ下がっている。見える方の灰色の左目は腫れぼったく、陰気な感じだ。
「なんだお前は……。俺はユイゼさんに用があるんだ。」
セーロスはそう言いながら立ち上がると、クローバーに向けて、ファントムクローを構えた。
拳武器を使う冒険者は希少だ。拳武器を必要とする拳闘士のスキルは、熟練の冒険者であれば、高いダメージを叩き出せるが、初心者には扱いが難しいのだ。
「なんだ?やるのか?」
クローバーも剣を構える。
「あぁ!くーちゃんやめて!」
ユイゼはクローバーを止めようと、その腕に縋ったが、クローバーはビクともしない。
「クロ!」
騒ぎを聞きつけて、エルサイスとセリクが走ってきた。エルサイスは武器を構えているクローバーを見つけると、肩を掴む。
「ちょっと!何すんだよ!?」
「あのね、クロ、世の中には、戦って解決できることなんて、それほどないんだよ。」
エルサイスはそう言いながら、クローバーを後ろに下がらせる。
下がったクローバーの代わりに、セーロスとユイゼの間に、セリクが立ちはだかる。
「セリク!アレルギーが!」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。」
「いったい何なんだ!俺はただユイゼさんと話がしたいだけなのに!」
セーロスが、イライラしたように言う。
「俺はユイゼさんが好きなんだ!ユイゼさんが拳闘士に憧れてるって言ったから、転職もしたし、ユイゼさんのために毎日メッセージを送ったし、ユイゼさんに会いたくて、毎日ネコの前で待ってたし……」
クローバーはドン引きして震え上がっている。気持ち悪い以外の感想が出ない。
「セーロスさんごめんなさい!私にはもう……好きな人がいるんです!」
ユイゼの叫びに、セーロスは驚愕を浮かべる。セリクが一瞬後ろを振り返り、何か期待した目で、ユイゼを見る。
「私は……私は!くーちゃんが好きなんです!」
エルサイスが爆笑した。セーロスとセリクはあまりのことに驚いて固まってしまった。
ユイゼの指名を受けたクローバーは、剣を下ろし、頭を抱えている。
「ユイちゃん……気持ちは嬉しいが、そうじゃない……そうじゃないんだよ……。」
「えっ?え……?」
混乱したユイゼは、助けを求めてクローバーとセリクを交互に見たが、どちらも援護できそうな精神状態ではなかった。
ユイゼは盛大にズレている。どうしてこうなってしまったのか、誰もわからない。
「さぁどうします?セリクさん。このままで本当にいいんですか?」
エルサイスが面白がって笑いながら言う。
「(他人事だと思いやがって…。)」
セリクがそう、心の中で毒づく。
セリクは、エルサイスもクローバーも、どっちも苦手だ。この2人と自分は、相性が悪いと思っている。とにかく波長が合わないのだ。
乱暴者ですぐ手が出るクローバーと、何を考えているのか全くわからないエルサイス。どっちもセリクには理解できない。
「セリク……。」
ユイゼが縋るような目でセリクを見る。
「ここで引いたら男がすたるぞ。」
クローバーがけしかけてくる。
「(本当に、うるさいやつらだ。)」
セリクはため息をつくと、顔を上げ、決意を込めた目で、セーロスを睨んだ。
注意
話に出てくる『セーロス』は架空の人物で、実在するプレイヤーではありません。同じ名前、容姿の方が居ても、この小説の設定とは一切関係のないことをお知らせ致します。
小ネタとして、セーロスという名前は、スペイン語で『嫉妬』という意味で採用しました。