アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

31 / 145
番外編~ユイゼのストーカー 中編~

「ストーカー?」

クローバーとユイゼは、ネコに魚を与えながら、例のストーカーについて話していた。

「うーん……。ストーカーかな?」

「はっきりしないな。何か嫌なことされたの?」

ユイゼはクローバーに、公国で手助けした冒険者のことを話した。

「珍しいな。ユイちゃん人見知りなのに。初心者のお手伝いなんて。」

ユイゼは引っ込み思案の上、かなりの人見知りなのだ。クローバーとも、会った当初は、セリクの後ろにずっと隠れていて、まともに会話ができなかった。

今は随分打ち解けて、こうしてクローバーのことを姉御のように慕っているが、ここまでくるのは、中々大変で、長い時間がかかった。

「そうですね……。自分でもびっくりです。」

ユイゼはそういうと笑った。

「なんだか、助けたくなっちゃったんです。私も、冒険者になる前、セリクにいっぱい助けられて嬉しかったから……。」

公国の酒場の前で、大事な白い薔薇のコサージュを落としたユイゼは、セリクに声をかけられた。ユイゼは人見知りなので、ろくに返事もできなかったが、セリクは一緒にコサージュを探し、一緒に冒険者の登録にも行き、その後も色々とユイゼを助け、今もずっと一緒に冒険をしている。

ユイゼはそのことに、感謝しているのだ。

ユイゼは、セリクのそれを、無償の奉仕だと思っているので、一方的に与えられるものに、負い目を感じていた。

実際セリクは、恋愛感情にまみれた下心が大いにあるので、それは一方的なものではないのだが、ユイゼは、まだそれがわからない。

「セリクには全然何も返せないから、せめて誰かに恩を返したいって思って。」

「私には理解できない発想だ……。」

クローバーは首を傾げる。

クローバーはもらったら、もらいっぱなしだ。返すとか返さないとか、どっちが多いとか少ないとか、まったく気にしない。

「それで助けたら、付きまとわれるようになったってこと?」

「うーん……。付きまといっていうか、大量のメッセージが届くようになってしまって……。流石に怖くなって、今は無視してるんですけど、まだ届いてて……。」

「それを世間は付きまといって言うんだよ。」

クローバーはユイゼの危機感の無さに、ため息をついた。

優しいということは、一般的に良いことだが、こういった場面では、それが仇になる。ユイゼの優しさが、大事な判断を鈍らせてしまう。

「絶対2人きりで会っちゃダメだよ。」

クローバーの念押しに、ユイゼは申し訳なさそうな顔をする。

「それが……。会っちゃったんです。」

「え?」

クローバーの目が、一瞬点になる。

「だ、大丈夫だったの!?何されたの?そいつすぐ殺しに行くから!名前教えて!」

「ちょ、ちょっと!落ち着いて下さい!」

ものすごい剣幕でユイゼの肩を掴むクローバーに、ユイゼは面食らう。

「な、何にもされませんでしたよ!」

「嘘!でも、デリケートなことだからね、無理に話さなくてもいいけど……。」

クローバーはユイゼが襲われたと思っているのだ。襲われたというのは、いわゆる性的なものを含んでる最悪なもののことだ。

「本当に!ちょっと腕を掴まれただけで、すぐ逃げてきたんです!」

数日ほど前、今日のように魚をネコにあげようと、ネコアレルギーのセリクを酒場に置いて、ユイゼ1人でマーケット前に行ったら、例のストーカーとばったり鉢合わせしてしまったらしい。

たまたまなのか、待ち伏せされていたのかは、判断ができなかったが、とにかく会ってしまった。

「腕を掴まれて、ずっと会いたかったとか、好きだとかいわれたんですけど……私すごく恐くて。」

クローバーが「うんうん」と頷く。

「「もうやめて下さい!」ってはっきり言って、振り払って逃げたんです。」

「ちゃんと言えたね!頑張った!」

クローバーは女の子には優しい。

「それから会ってはないんですが、メッセージはまだ届くんです……。」

「懲りねぇ野郎だな。」

ユイゼはため息をついた。

「そのことがあってから、セリクはますます心配性になって、ずっと私から離れられないし、私もどこかビクビクしてて、なんていうか……疲れるんです。冒険が全然楽しめない……。」

「辛いよね……。」

クローバーはそう言いながら、ユイゼの頭を撫でる。

「なので、何かいい解決方法がないか、くーちゃんに相談したくて……。」

そう言われたクローバーは、ユイゼをじっとのぞき込む。ユイゼはその様子にたじろく。

「あ、あの……な、何……?」

「ユイちゃんはさ、好きな人はいる?」

まごまごしているユイゼに、クローバーが聞く。

「好きな人……?」

「うんうん。ユイちゃんには、もう既に好きな人がいるって、ストーカーに言っちゃえばいいんだよ。そしたら諦めもつくっしょ。」

「私の……好きな……人……?」

考え込むユイゼの肩を、見知らぬ男が急に掴んだ。

「ユイゼさん!」

「きゃぁ!」

悲鳴をあげるユイゼ。

クローバーは咄嗟に男にタックルすると、ユイゼから男を引き剥がした。

思わぬ不意打ちにあった男は、派手に後ろに吹っ飛んでいった。

「レディに気安く触るとは、どういう了見だ?躾がなってねーなぁ。」

クローバーはそう言うと、ユイゼの肩を抱き、男の前に立ちはだかる。

「セーロスさん!」

セーロスと呼ばれた男は、クローバーを睨みつける。

ラベンダー色の髪が、右目を覆い隠すように垂れ下がっている。見える方の灰色の左目は腫れぼったく、陰気な感じだ。

「なんだお前は……。俺はユイゼさんに用があるんだ。」

セーロスはそう言いながら立ち上がると、クローバーに向けて、ファントムクローを構えた。

拳武器を使う冒険者は希少だ。拳武器を必要とする拳闘士のスキルは、熟練の冒険者であれば、高いダメージを叩き出せるが、初心者には扱いが難しいのだ。

「なんだ?やるのか?」

クローバーも剣を構える。

「あぁ!くーちゃんやめて!」

ユイゼはクローバーを止めようと、その腕に縋ったが、クローバーはビクともしない。

「クロ!」

騒ぎを聞きつけて、エルサイスとセリクが走ってきた。エルサイスは武器を構えているクローバーを見つけると、肩を掴む。

「ちょっと!何すんだよ!?」

「あのね、クロ、世の中には、戦って解決できることなんて、それほどないんだよ。」

エルサイスはそう言いながら、クローバーを後ろに下がらせる。

下がったクローバーの代わりに、セーロスとユイゼの間に、セリクが立ちはだかる。

「セリク!アレルギーが!」

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。」

「いったい何なんだ!俺はただユイゼさんと話がしたいだけなのに!」

セーロスが、イライラしたように言う。

「俺はユイゼさんが好きなんだ!ユイゼさんが拳闘士に憧れてるって言ったから、転職もしたし、ユイゼさんのために毎日メッセージを送ったし、ユイゼさんに会いたくて、毎日ネコの前で待ってたし……」

クローバーはドン引きして震え上がっている。気持ち悪い以外の感想が出ない。

「セーロスさんごめんなさい!私にはもう……好きな人がいるんです!」

ユイゼの叫びに、セーロスは驚愕を浮かべる。セリクが一瞬後ろを振り返り、何か期待した目で、ユイゼを見る。

「私は……私は!くーちゃんが好きなんです!」

エルサイスが爆笑した。セーロスとセリクはあまりのことに驚いて固まってしまった。

ユイゼの指名を受けたクローバーは、剣を下ろし、頭を抱えている。

「ユイちゃん……気持ちは嬉しいが、そうじゃない……そうじゃないんだよ……。」

「えっ?え……?」

混乱したユイゼは、助けを求めてクローバーとセリクを交互に見たが、どちらも援護できそうな精神状態ではなかった。

ユイゼは盛大にズレている。どうしてこうなってしまったのか、誰もわからない。

「さぁどうします?セリクさん。このままで本当にいいんですか?」

エルサイスが面白がって笑いながら言う。

「(他人事だと思いやがって…。)」

セリクがそう、心の中で毒づく。

セリクは、エルサイスもクローバーも、どっちも苦手だ。この2人と自分は、相性が悪いと思っている。とにかく波長が合わないのだ。

乱暴者ですぐ手が出るクローバーと、何を考えているのか全くわからないエルサイス。どっちもセリクには理解できない。

「セリク……。」

ユイゼが縋るような目でセリクを見る。

「ここで引いたら男がすたるぞ。」

クローバーがけしかけてくる。

「(本当に、うるさいやつらだ。)」

セリクはため息をつくと、顔を上げ、決意を込めた目で、セーロスを睨んだ。




注意
話に出てくる『セーロス』は架空の人物で、実在するプレイヤーではありません。同じ名前、容姿の方が居ても、この小説の設定とは一切関係のないことをお知らせ致します。
小ネタとして、セーロスという名前は、スペイン語で『嫉妬』という意味で採用しました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。