アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
「ユイゼは、僕の大事なパートナーです。君に渡す訳にはいきません。どうしてもと言うなら……」
セリクはそう言いながら、ファントムソードAを構える。
「セリク!」
ユイゼが心配そうな声をあげる。エルサイスがそんなユイゼの肩に手を置き、下がらせる。
「男の戦いだ。手や口を出すのは、野暮ってもんだよ。」
クローバーはそう言いながら、口元に笑みを浮かべている。この状況を楽しんでいるようだ。
「お前……ずっと気に入らなかったんだ。いつもいつもユイゼさんの近くにいて、俺の邪魔ばっかりしやがって。」
セーロスは灰色の目を光らせると、セリクに向かって拳をまっすぐ打ち付ける。拳闘士のスキル、正破だ。
セリクはそれをシールドオブシリウスで受け流すと、反撃にファイアスラッシュをセーロスの脇腹にお見舞する。
セリクの攻撃をまともに食らったセーロスは
「うぐっ……。」
と呻き声を漏らしたが、倒れはしない。
「思ったよりも根性あるな。」
クローバーは完全に他人事だ。腕組みしながら2人の戦いを見ている。
「ユイゼさん、2人ともあなたのために戦ってるんですから、ちゃんと見てないとダメですよ。」
エルサイスが、オロオロしているユイゼに、声をかけた。
「で、でも……!」
ユイゼはこんな展開は望んでいないのだ。勝手に物事が進んで行く状況に、ユイゼは恐怖と、何もできないもどかしさを感じていた。
セーロスが、轟音を響かせながら、轟雷を放つ。セリクは音に顔を歪めながら、盾でガードする。
「あーあれ、次、嵐の多段攻撃くるよ。」
クローバーがそう先読みする。
「多段攻撃?」
「拳闘士のスキルは特殊なんだ。正しい順番でスキルを発動させてバフをつけると、最後に多段攻撃で高ダメージが出せる。」
「そんな!セリクが危ない!」
「大丈夫、嵐がくる前に殺ればいいんだよ。」
「これで、終わりです!」
セリクがそう言って、ペネトレイトを放とうとした瞬間、大きなくしゃみが連続で出た。
「あぁ!!こんなときにネコアレルギーが!」
ユイゼが泣きそうな声を出す。
セーロスは、セリクの隙を見逃さなかった。セリクの剣を拳で弾くと、嵐を連続で叩き込むため、腕を振り上げる。
その時
「ダメ!」
エルサイスの手をすり抜けたユイゼが、セリクの前に飛び出し、庇った。
セーロスは、慌てて拳を引っ込める。
「やめて下さい!セリクは……セリクは、私の……」
全員が、ユイゼの次の言葉を待っていた。
「私の……大事な人です!」
ユイゼがそう叫ぶ。
一瞬の沈黙の中、セリクのくしゃみが響く。
クローバーとエルサイスが爆笑する。
「え?えええ?」
ユイゼはなぜ笑われたのか、わかっていない。
「中々難しいもんだね。」
クローバーが目の端の涙を拭いながら言う。
「いやー、本当、若いね。」
ユイゼは自分の中の『好き』の意味に気がついていないのだ。それが『大事な人』という言い方に表れている。
「セリクさんも苦労するよ。」
セリクはくしゃみが止まらず、ユイゼの介抱を受けていた。
「ユイゼさん……僕は……。」
セーロスが、悲しい顔でユイゼを見る。
「答えはわかるだろ。ユイちゃんはセリクを庇って、お前は庇わなかった。」
クローバーの言葉に、セーロスは拳を下ろすと、うなだれた。
「ごめんなさい……。私はセーロスさんのことは……。」
「いや、もういいよ。すまなかった……。」
セーロスはそう言うと、くしゃみが止まらないセリクを見た。
「俺は、お前になりたかったよ。」
恋に破れたセーロスは、悲しそうに背中を丸めると、静かに去っていった。
「ユイゼちゃん、くしゅん!だ、大丈夫?くしゅん!」
「私はなんともないけど、今はセリクの方が心配!」
ユイゼはそう言いながら、セリクの口元にハンカチを当てる。
「とりあえず酒場に避難しようか。」
クローバーの声にみんな頷くと、4人は酒場に移動した。
酒場に入ると、邪魔にならないよう奥の席に座った。
ユイゼから素材を受け取ったエルサイスは、合成したネコアレルギー用の薬を、セリクに渡す。
「ありが……くしゅん!とうございます…くしゅん!」
セリクはくしゃみをしながら、水でなんとか薬を喉の奥に流し込む。
「あー、ほら、蕁麻疹まで出てるじゃない!」
ユイゼがセリクの背中をまくりあげながら言う。
「ダセェな。」
クローバーはそう言いながら、ウェイトレスを呼び止めると、適当な料理と飲み物を注文する。セリクがどうなろうとお構い無しだ。
「あー、僕ビールくださーい。」
エルサイスが追加注文する。
自由な2人だ。
「ちっくしゅん!仕方ないじゃ……くしゅん!ないですか!……くしゅん!」
セリクはアレルギー反応のせいで、会話するのも困難な様子だ。
「無理ばっかりして!アレルギーは恐いんだよ!酷いと死んじゃうんだから!」
ユイゼはそう言いながら、怒ったように頬を膨らませる。
「まぁまぁ、ユイゼさん、セリクさんもあなたを守ろうとしたんですから、そう怒らないであげてください。」
エルサイスがユイゼをなだめる。
「それで逆に守られてるんだから、世話ねーな。」
クローバーがウェイトレスが持ってきたクロケットを口に放り込みながら揶揄する。
セリクは言い返すことも出来ずに、うなだれた。
「セリク、セリクの気持ちはすごい嬉しいの。でもね、セリクが私を心配するように、私もセリクが心配なの……。」
ユイゼはそう言うと、薬が効いてくしゃみの止まったセリクの手を握る。
「ユイゼちゃん…… 。僕はユイゼちゃんをあいつに取られたくなかったんだ。」
ユイゼはわかってると言うように「うんうん」と頷く。
「ユイゼちゃん、僕は!僕はユイゼが……」
「セリクは私の大事な人だもの。どこにも行かないよ!」
フラグクラッシャー選手権があれば、きっとユイゼが優勝するだろう。
クローバーとエルサイスは、顔を見合わせると笑った。
「ユイゼちゃん……。」
セリクは一瞬悲しい顔をしたが、すぐに
「ユイゼちゃんらしいよ。」
と言って微笑んだ。
それから4人は、少し早めの夕飯を一緒に食べた。
「セリクさんビールはいかが?」
エルサイスがセリクにジョッキを勧める。
「バーカ、セリクもユイゼも未成年だよ。」
クローバーはそう言いながらプロシェットにかぶりつく。
「やけ酒もできないなんて可哀想だね。」
エルサイスは仕方なく、セリクに勧めたジョッキを自ら飲み干した。
「さっき見たら、セーロスさんフレンド解除になってました。」
ユイゼが安心したような、そしてどこか悲しいような顔で報告する。
とりあえず一件落着というところだろう。
恋とは難しいものだ。自分の1番好きな人が、自分を1番好きになってくれる。言葉にすれば簡単に思えるが、それが叶うのは、本当に奇跡なのだ。
「ユイゼちゃん、服にシミが!」
パスタのソースを服に跳ねさせたユイゼの胸元を、セリクが布巾で叩いて拭き取る。
「ありがとう。セリク。」
ユイゼも平気な顔でそれを受け入れている。
「(あー胸触ってるー。そういうことは普通にやるんだ。若いっていいなー。)」
エルサイスが目を細めながらその様子を見ていた。
ユイゼとセリクのように、お互いが1番とわかっていても、中々叶わないことだってある。
「セリク、これからもずっと一緒に旅しようね!」
「うん、ずっと一緒さ。」
ユイゼとセリクはそう微笑み合った。
今は叶わなくても、若いユイゼとセリクの旅路は、まだまだ長い。その先で、いつか2人が幸せに結ばれることを、エルサイスは密かに願った。