アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
久々に不老不死の村にきた。
フジとフニエのことがあってから、避けていたのだが、料理の錬金素材にどうしても牛乳が必要で、採取しにきたのだ。
採取ポイントがあるこの家畜小屋の前で、少女に声をかけられた。
「あ、こんにちわ!」
「こんにちわ。」
「どうも。」
僕とクローバーが挨拶を返す。
「君、この村の人じゃないわよね?外からきたの?」
「そうですよ。僕たちは冒険者ですから。」
僕が少女と話している間、クローバーは我関せずで、家畜小屋の奥に回り込み、牛乳を採取していた。
クローバーは自分が興味を持てることしかしない。それは本当に徹底していて、感心してしまう。
「私はレイカ!この小屋をお父さんとお母さんから引き継いで、切り盛りしてるの。」
少し日焼けした健康的な肌に、頬にはそばかす。乾いた金髪の髪を、ポニーテールにしてまとめている。レイカと名乗った少女は、まだあどけない顔で笑った。
「(15,6歳かな?まだまだ幼いな。)」
若くして仕事を持つのは大変だろうなと思う。
僕らは彼女より随分年上だが、こうして自由に旅ができている。それはそれで恵まれているのかもしれない。
「両親は何年か前に死んじゃってね…。でも、全然大丈夫!村の人たちもいるし、ここで飼う家畜は、私の家族でもあるの!」
村の外からきた人が珍しいのだろう。レイカは饒舌だ。救済者のおかげで訪問客が増えているとはいえ、ここはまだまだ田舎だ。僕たちのような旅人が訪れる回数は少ないようだ。
「今はこのカッツが私の家族。この子がいれば全然寂しくないのよ!」
「家畜に名前をつけるなんて、珍しいな。」
牛乳採取から戻ってきたクローバーが言った。
「いずれ食肉になる家畜は、ペットとは違う。情がわかないよう、名前をつけないって昔本で読んだが…。」
「レイカさんにとっては、家族だからじゃない?」
僕の返答に、クローバーは
「そんなものか。」
と呟くように言うと、帰り支度を始める。元よりレイカにも、豚のカッツにも、あまり興味がなさそうだ。
「カッツ?おいしいお肉になって、みんなの栄養になろうねぇ。」
レイカがそうカッツに語りかける。
家族と言いながら、それを食べる想定をすることに、何となく違和感がある。
しかしながら、生きていく上で、特にこの不老不死の村の人間は、食肉が欠かせない。
家族のように大事に育てて、最後は食べる。それが畜産業の運命なのだ。
「カッツ……?」
僕らが立ち去ろうとしたとき、レイカが心配そうな声を上げる。
僕もクローバーも、その声に思わず立ち止まって振り返った。
「どうしたんですか?」
とりあえず聞いてみる。
「何日か前から調子が悪くて、ぐったりしてるの。鳴くことも少なくなっちゃったし……」
レイカはそう言いながら、不安そうに眉を下げる。今にも泣き出しそうな表情だ。
「カッツが話せたら、原因もわかるかもしれないのになぁ。」
その言葉を聞いたクローバーは呆れ返った顔をした。
「豚がしゃべるわけないだろ。そんな怪奇現象勘弁してほしいね。」
動物が話すなんて、おとぎ話の世界だ。滑稽で馬鹿らしい。いや、実際本当に動物が話出したら、きっと面倒だ。滑稽なんて笑っていられる事態ではないかもしれない。
「カッツ……どうしちゃったの?ねぇ、私に教えてよ……?」
レイカは不安そうにカッツを見つめていた。
「はい、できたよ。」
「お、きたきた!」
採取した牛乳を使って、ドフィノワーズを合成してあげた。クローバーはそれを嬉しそうに受け取ると、満面の笑みで1口食べた。
「あっふい!」
ドフィノワーズの熱さにハフハフしているクローバーを見るのは、これで2回目だ。何度見てもかわいらしい。
ここは公国の酒場。ドフィノワーズは連邦の郷土料理なので、公国にはないメニューだ。それなのに、クローバーがどうしても食べたいと言い出し、わざわざ牛乳まで取りに行って、僕が合成して作ったのだった。
かなり面倒だったが、クローバーのこの顔を見れたのだから、文句はない。
「体があったまるねー。」
クローバーはそう言いながら、1口、2口と、スプーンを運ぶ。
「よう、久しぶりだな。」
そう声をかけてきたのは、フェンダークだ。
フェンダークとは、中々長い付き合いだ。初めて会ったのは、僕とクローバーが冒険を始めて間もない頃で、隙を見せて魔物の追撃にあいそうになったところを、助けてもらったのだ。
その時から彼は、僕らの前に度々現れては、助言や、手助けをしてくれる。
フラフラその辺を渡り歩いているようだが、冒険者っていうわけでもなさそうで、謎の多い人物だ。
「最近なにかおもしろいことはなかったか?」
フェンダークが、クローバーの隣に腰を下ろしながらいう。
「別に何も無いよ。」
「つまんねーな。」
フェンダークはそう言いながら、ウェイトレスを呼び止め、ビールと料理をいくつか注文する。
「あーそうだ、フェンダーク。動物がしゃべるようになる方法ってある?」
クローバーが思いついたように聞く。
「無いわけじゃないが、何か必要なのか?」
僕はレイカとカッツの話をフェンダークに説明しながら、合成したばかりのドフィノワーズに口をつける。熱くて美味しいが、ボリュームが足りない。ウェイトレスにプロシェットを注文しておく。
「なるほど…。たしかに愛着あるモノが死ぬのはかわいそうかもしれねぇな。」
「愛着っていうか、収入源だよね。」
ドフィノワーズを食べ終わったクローバーが、口の周りを拭きながら言う 。
「病気になった獣を助けたいなら、方法はなくもないんだぜ。魔物の力を使えばいいんだよ。」
僕もクローバーも、眉を寄せる。話の雲行きが怪しくなってきた。
「そうすれば、話が出来るようになって、何が悪いかわかるかもしれない。治療もできる。」
魔物の力は中々万能だ。人を不老不死にしたり、動物を話せるようにしたり、すごい力を持っている。だからこそ使い方を気をつけなければならないと思う。
「便利なもんだな。」
クローバーが食後の紅茶を飲みながら言う。
「やるのか?」
フェンダーク届いたビールに口をつけると、一気に煽った。
「さぁどうでしょう?」
別にはぐらかしたかったわけではない。本当にどうするかわからないのだ。僕はレイカにも、カッツにも、あまり興味はない。クローバーだって大概だろう。ただ何となく聞いただけに過ぎない。
「人のやることに口を出すってことは、相手の人生を左右することなんだぞ。」
ビールの泡を手の甲で拭いながら、フェンダークが言う。
「大げさな。」
クローバーはそう言って、フェンダークを笑い飛ばした。フェンダークは少しムッとした顔をする。
「俺は人を罵倒する。悔しさっていうのは時として、人生の障害を乗り越える大きな力になるもんでな。そのあと、そいつは障害に立ち向かうたびに思い出すんだよ。俺に罵倒された、ってな。」
そう自信たっぷりに笑うフェンダーク。
中々の悪趣味だ。
僕には、フェンダークの気持ちが理解できない。僕は誰かの心にな残りたいなんて、思ったことが1度もないからだ。残ったところで何になるのかさっぱりわからない。
「それが痛快で、人の人生に介入するのをやめられねぇんだ。」
「お前、思った以上に最低なやつだな。」
クローバーが冷たい目を返す。フェンダークは肩をすくめるだけで、何も言い返さない。自分でも、最低だってわかってやっているのかもしれない。
「障害を乗り越えるのに失敗したらどうするんですか?」
「そんときは、なに、自分のことじゃねぇんだ。気にせず『見て見ぬ振り』しろ。そうしないと、失敗を恐れて、何も動けなくなっちまう。」
随分無責任にも聞こえるが、一理あるように思える。
「今回のことでいうなら……。家畜はなんのために生きている?第3者が手を出していい話題か、よく考えて動くんだな。」
フェンダークをそう言い残すと、席を立ち、去って行った。
「どうする?」
僕がクローバーに聞く。
「別にどうもしないよ。興味ないし。」
そう言うだろうと思っていた。
「私はフェンダークの気持ちがわからんよ。他人の口出しで、自分の心が動いた経験がないからね。誰がなんと言おうと、私の人生に介入できるのは、私だけだ。」
クローバーはそう言うと、つまらなそうにあくびをした。
僕もクローバーの意見におおむね同意する。
「でも、レイカさんはどうだろうね?」
「さぁ?好きにすればいいんだよ。『他人に言われたから』で、動くようなやつは、そんなような人生をおくるだけさ。」
クローバーはそう言いながら、頬杖をつくと、眠そうに目を瞑った。と、思ったら、ハッとしたように顔を上げ、乱暴に立ち上がった。
「どうしたの?」
急な動作に、僕はたじろぐ。
「あの野郎、食事代置いていかなかった!くっそ!食い逃げしやがってええええ。」
クローバーはイラついたように伝票をテーブルに叩きつけると、乱暴に座った。
「今度会ったら倍の金額払わせてやる。」
あのフェンダークのことだ。のらりくらりとかわして、きっと一銭も払わないだろうなと思う。
僕は到着したプロシェットにかぶりつく。肉はジューシーで、柔らかく、うまい。
カッツもいずれ、こうやって食べられる運命なのだ。そこに善悪はない。
僕は食べ物に感謝しながら、残さず料理を平らげた。