アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第28話 原野の湧き水を求めて

「あれ、レイカさんじゃない?」

エルサイスの声に、私は顔を上げる。

「誰だっけ?」

雪山と草原の川辺に、金髪のポニーテールの女の子が立っている。そばかすだらけの顔を見ても、誰だかさっぱり思い出せない。

「3,4日前に、不老不死の村で見たじゃないか。」

エルサイスにそう言われて、記憶を掘り起こす。少し思い出した。家畜の豚に、カッツという名前をつけていた女の子だ。

あの日のことは、どちらかというと、フェンダークに食い逃げされたことの方が印象深く残っていたので、彼女の存在はすっぽり抜け落ちていた。

「何してんだろうね?」

村や街の外は、魔物がウロウロしている。武器も持たずに、丸腰で出歩くのは中々物騒だ。

「声かける?」

エルサイスの質問に、私は少し考える。フェンダークが言ったことを思い出していた。

フェンダークは私に、第3者が手を出していい問題か?と疑問を投げて去っていった。

そんなこと、私にはわからない。

ただ、今までの経験上、私が手を出したところで、どうにかなったことなんて何一つなかった。

運命なんて言葉はあまり好きではないが、私が声をかけようと、かけまいと、物事は変わらず進んでいってしまうのだ。

フジの件も、リーヤンの件も、私の手の中を、物事があっという間に流れ落ちていった。いくらすくっても、指の隙間からこぼれ落ちていく水のように、どうすることも出来なかった。

何をしても変わらないなら、私はしたいようにするだけだ。

「こんなところで、何してるの?」

私はレイカに近づき、声をかけた。

私たちが声をかけると、レイカは驚いたが、同時にどこか安心したような顔をした。

そして、どうしてこんなところにいるのか、説明し始めた。

レイカの話はこうだ。

カッツはあれから、ずっと元気がなかった。そこに、村の人たちを不老不死にしているという噂の、新興宗教の救済者ケイトが現れた。

「こちらのお子さんの体調が悪いとお聞きしたのですが……」

とレイカに声をかけたケイトは、不老不死の技術を使えば、豚を元気にすることが出来る。と言った。

不老不死の施術を受けるには、獣の穢れを取るため、『聖水』が必要だとケイトに言われたレイカは

「穢れだなんて……カッツは私が丹精こめて育てた、美味しい豚なんです。」

そう反論したらしいが

「いくら愛情を注いでも、人間とは異なるもの。『聖水』は必要なのです。」

とケイトに言われ、その聖水の原料である『原野の湧き水』を1人で取りに来たらしい。

一通り話を聞いた私たちは、眉を寄せる。

「またあいつかよ……。」

懲りない救済者だ。

ケイトが言っている不老不死の技術というのは、人間を魔物化するものだ。同じ技術を使うということは、豚を魔物化する気らしい。

「なーんか、フェンダークが言ってた話と一緒だな。」

この時私は、いくら魔物化したとしても、豚が話すようになるなんて、針の先程も思わなかった。

「いくら必要だからと言って、無防備のまま1人で村の外に出るのは危険ですよ。」

エルサイスがレイカを注意する。

「でも………」

そう一瞬目を伏せたレイカは、ハッとしたよう顔をし、

「それなら、お願いできないかな?」

と私たちに懇願するような目を向ける。

「もし、取ってきてくれれば我が家に古くから伝わる『ケバブ』のレシピをあげるよ。」

私は「どうする?」というように、エルサイスを見る。エルサイスは

「まぁレシピが増えるのは嬉しいよね。」

と言うだけで、やるのか、やらないのかは言わない。はっきりしないやつだ。

私は本音を言えばどうでもいい。ただ、ここでレイカを放っておいて、そのあとレイカが魔物に襲われて怪我をしたとか、最悪死んだとか、そういうことになったら嫌だと思う。

話かけた時点で、もう関わってしまったのだ。ならば最後まで責任を持とう。

「わかったよ。いくつ必要なんだ?」

私がそう言うと、レイカは嬉しそうに顔を輝かせた。

 

 

 

私は水が好きだ。水がいっぱい集まって、ゆらゆら揺れたり、流れていくのを見ると、なんだか落ち着く。

原野の湧き水を取るため、私たちは雪山と平原の川辺を、上流の方へと歩いていた。

私の後ろを、エルサイスがついて歩いてくる。

私は振り返って、エルサイスの顔を伺う。

「どうしたの?」

「いや、別に……。」

そう言いながら、目を逸らす。

「自信ないの?」

エルサイスに言い当てられて、私はバツの悪い顔をする。

これは呪いだ。リーヤンのことがあってから、私は色々なことに臆病になっている。これは手を出していいのか?そればかり考えて、がんじがらめになっていた。自分の行動や選択が、間違っていないか、ビクビクしているのだ。

「クロらしくないね。」

「私らしいってなんだよ。」

「クロはもっと後先考えないって言うか……」

「それ悪口?」

私がムッとして返すと、エルサイスは笑った。

「褒めてるんだよ。」

とても褒められているとは思えない。

私は後先考えないで突っ走って、失敗ばかりしている。一度火がつくと、振り返れない、ブレーキが効かない、どこまでも走っていってしまう。喜怒哀楽の感情に、理性がついていかないのだ。

リーヤンの件だって、楽しいと思ったら、止まれなくなってしまって、結果、取り返しのつかないことになった。

私はとにかく感情的で、理性の働きが弱い。

「僕は、クロのそういうとこが、良いところだと思うなぁ。」

「お世辞は要らない。」

「お世辞じゃないさ。チャンスを掴むのは、いつだって行動した人だ。」

エルサイスはそう言うと、私のロウポニーに結んでいる髪の先っぽを優しく撫でた。

「慎重に考えてるうちに、チャンスはすぐ逃げていくものだよ。」

「それでも、後悔することが多いよ。」

「やらない後悔より、やった後悔の方がマシさ。」

後悔しないということが、無理なのかもしれないなと思う。それなら、エルサイスの言うことに分がありそうだ。

「それにさ、絶対的な『正しい』がないように、絶対的な『間違い』もないんじゃないかな?」

目からウロコ。暗い雲の隙間から、光が差し込むような感覚が、私を満たす。影が薄れ、世界が彩りを取り戻す。

私の表情の変化を察したのか、エルサイスが嬉しそうに微笑む。

なんだかわからないが、ちょっと悔しい。

「それに、本当に危ないときは、僕がブレーキになるよ。」

エルサイスはいつも私を止めようとしてくれる。肩に手を置き、呼びかけ、諭す。それは確実に、私の抑止力になっている。

しかし、私は、そんなエルサイスさえ吹っ飛ばして、暴走してしまうことがある。

「それでも止まれなかったときは?」

「そしたら仕方ないから、僕も一緒に走るだけさ。1人では行かせないよ。」

一緒に責任をとるということだろう。ちょっと心強い。

エルサイスは撫でていた毛先を離すと、その手を私の頭に乗せ、ちょっと乱暴に髪をクシャッとしてくる。

「いつものようにすればいいんだよ。」

私は、いつものように、好きなことを、好きなようにやればいいのだ。1人ではないのだから。

なんだか、急に恥ずかしくなって、私はエルサイスの手を振り払うと、走り出した。

「さっさと原野の湧き水を取って、あの女の子のとこに持っていこう。」

私がエルサイスにそう呼びかけると、エルサイスは、おかしそうに笑った。

私のことなど、すべてお見通しという感じだ。エルサイスの前では、何も取り繕えない。

それが嫌で、そして、それが心地いい。

私は、エルサイスを引き離すように、川の上流に向かって、ダッシュした。

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