アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第29話 嘘つきの顔

原野の湧き水を渡すと、レイカは嬉しそうに笑った。

「ありがとうございます!これでカッツが元気になるかどうか、それはわからないけど……。少しでも可能性のある話しならお願いしたいの。」

まさに藁をも掴む思いだ。

宗教というのは、弱者を救済するためにあるものだと、僕は思う。

しかし、世の中には、弱者に寄り添う振りをしながら、既に弱っている者から、さらに搾取しようとする輩らが、ごまんといるのだ。

宗教の中にも、そういう団体は少なからずある。

彼らは弱者を探し求めている。搾取するために、藁をも掴む者達を食い物にしているのだ。

そんな人たちにとって、今のレイカは格好の餌食だろう。

でも、豚を魔物化して、ケイトたちに一体何の利益があるのか、僕には皆目見当がつかない。

そこがわからないままなので、僕はこの件を、止めることができないでいる。

「あの人たちが村のみんなを不老不死にしてるのは本当なんでしょ?だったら、それに賭けてもいいと思うの。」

不老不死の技術は、そんな素晴らしいものではない。奇跡なんてキレイな言葉で飾られているが、中身はおぞましい呪いだ。

「なんか、悪魔に魂を売り渡すような気分だよ。」

クローバーが眉間のシワを深くしながら言う。

ケイトたちの意図はわからない。ただここで黙ったまま、レイカに別の道を示さないのは、まずい気がする。真実を話して、レイカに選択を迫った方がいい、クローバーはそう思ったのだろう。

不老不死の技術の秘密をレイカに教えようと

「おい、不老不死の技術っていうのはな……」

そう話し出したところに

「原野の湧き水を持ってきましたか?」

と、ケイトが突然現れた。

「あぁではそれをこちらへいただいて。」

ケイトはそう言いながら、手を差し出す。

僕らは、突然現れたケイトのせいで、真実を話すタイミングを完全に失ってしまった。

わざとだろう。偶然にしてはタイミングが良すぎる。

「お前……。」

「あら?あなたちは……お久しぶりですね。」

クローバーの悪態に、ケイトは笑みを返す。

嫌な笑みだ。リーヤンと同じく、内面の醜さが滲み出ているように感じる。

ケイトはレイカから、原野の湧き水を受け取ると

「そちらのカッツくんを、私どもでお預かりしましょう。儀式の場へお連れします。」

と言った。

今から僕が不老不死の真実をレイカに話したところで、目の前のケイトが、すぐに否定するか、誤魔化してしまうだろう。

ただでさえレイカは追い詰められている。人は追い詰められると、信じたい方を真実だと思い込むものだ。

僕たちの言葉を信じる可能性は低い上に、嘘をつくなと反撃を食らうかもしれない。

「私も……!」

レイカはカッツに付き添うつもりで食い下がった。

「ごめんなさい。あなたはここで待っていて下さい必ずや、あなたの想いに応えて、この子の病気を治してみせますから。ね?いいですか?」

有無を言わせぬケイトの態度に、レイカは

「はい……。」

と答えるしかなかった。

「では………。」

と言うと、ケイトはカッツを連れて、去っていった。

「カッツ……大丈夫、かしら?」

レイカが心配そうに目を伏せる。

「どうだろうね。」

クローバーが気のない返事をする。

嘘でも「大丈夫」と言わないところが、クローバーらしい。

「………でも、きっと大丈夫ですよね!悪い方に考えたら、悪いことしか起こらないもの。いい方に考えていれば、いいことしか起こらないわ!」

「そうですね。」

僕はそう言うと、レイカにニッコリ笑いかけた。

心にも無いことを、しれっと言う。僕は、人が望んでいる言葉を与えるのは、得意なのだ。たとえそれが嘘だとしても。

悪い方に考えたら、悪いことしか起きないということは、まぁまぁあることだが、いい方に考えていても、悪いことは起きるものだ。世の中そんな簡単ではない。

しかし、そんな正論をレイカにぶつけたところで、どうにもならない。

人が正論で動くなら、世の中はもっと楽に回っている。そうではないから、面倒なのだ。

レイカは僕の言葉で自信を持てたのか、嬉しそうに笑った。

僕はそこに、罪悪感も後ろめたさも感じない。嘘でも心が救われることはあるのだ。

「行くか。」

クローバーの声に続いて、僕らは家畜小屋を離れた。

「お前は本当に嫌な奴だな。」

家畜小屋から少し離れた広場の、小さな噴水の前で、クローバーは足を止め、僕に軽蔑の目を向ける。

「何が?」

「わざとらしくとぼけやがって。」

僕は思わず

「ふふっ……。」

と笑い声を漏らす。

「(クローバーはまっすぐでかわいいなぁ。)」

そんなようなことを思う。

「何笑ってんだよ。」

「別に……ははは。」

クローバーの拳が僕のお腹めがけて飛んできた。

「ぐふっぅ!」

思わぬ不意打ちに、まともに食らってしまう。

「ぐっ……うっつぅ……ケホケホ……。」

むせながらその場にうずくまる。

「ちょ……本当に……ゴホッゴホッ……腹パンやめ……て……。」

僕が苦しみながら抗議する。

「うるせぇ!黙って殴られとけ!」

クローバーは中々理不尽だ。

クローバーは、気に食わないことがあると、すぐ僕のお腹にパンチを食らわせてくる。

これが当たると、息ができなくなるくらい痛いのだ。

「すごく……痛い……。ゴホッ……。」

「んなの、当たり前だろ。痛くしてんだから。おめーが心にも無いことを、息するように言うのが悪い!」

クローバーは僕の嘘が大嫌いなのだ。

僕は、その人が言われたいことを予想して、それが事実や、僕の思いに反していたとしても、言ってあげているだけだ。相手はそれで満足する。

それは余計な波風を立てないための、僕の処世術なのだ。

しかし、クローバーからすれば、僕は『不誠実』に見えるらしい。自分にも、他人にも『正直』なクローバーらしい見解だと思う。

クローバーを見ていると、本当に感心する。

その歯に衣着せぬ『正直』な物言いは、他人に嫌われることが多い。しかし、クローバーは、誰に嫌われようと、恨まれようと、全く気にしないのだ。

罵りを受けたり、逆恨みされたり、苦労もそれなりに多い。それでも、お世辞をいったり、誤魔化したり、心にも無いことは言わない。

僕は、そういう衝突が面倒で、すぐニコニコ笑って誤魔化してしまう。

敵は少ない方が動きやすい。僕は円滑な人間関係のためなら、多少の我慢と嘘は気にならない。

僕は、相手を思いやるふりをしながら、自分を守っているだけなのだ。

こんな嘘つきの僕よりも、何でもまっすぐ正直に伝えてくれるクローバーの方がよっぽど『誠実』なのだが、世の中は中々それを認めない。

結局みんな、自分に都合のいい言葉しか、聞きたくないのだ。

「お前、私にあの顔で笑いかけたら、殺すからな。」

クローバーは中々物騒だ。

「クロにはしないさ。」

深呼吸しながらそう返す。

「とゆうかできない。クロの前だと、自然に笑っちゃうからね。」

僕はそう言いながら、目の端溜まった涙を拭う。

呼吸は落ち着いたが、ダメージはまだ残っている。本当に勘弁してほしい。

「くだらねーこと言うな。」

クローバーはそう言いながら、僕から顔をそらす。後ろから見ると、耳が赤い。

本当は「照れてるでしょ?」と指摘したいが、2発目の腹パンが恐くて言えない。

仕方ないので、このニヤニヤしたくなる嬉しさは、僕の心の中にしまっておくことにした。

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