アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
現在連載中のストーリーとは、前後の繋がりが一切ありませんのであしからず
ずっと書きたかったお話の1つ
頭の中のアイデアがやっとまとまったので書きました
朝、目が覚めたクローバーは、いつもの様に目を開けないまま、ベットの中でゴロゴロしていた。
クローバーは目が覚めてから起き上がるまでが長い。放っておけば、平気で1,2時間はベットの上でダラダラ過ごしてしまうのだ。
いつもは、エルサイスが無理やり起こしに来るのだが、なぜか今日はそれもない。
いつもと違う様子に気がついたクローバーは、片目だけ開けて、隣のベットの様子を伺う。
クローバーは
「(きっと外出でもしてんだろ。)」
と軽く思っていた。
しかし、エルサイスはそこに居た。隣のベットに横たわり、寝息のようなものを立てている。
珍しい光景だ。エルサイスはいつも必ず、クローバーより先に起きて、テキパキ準備を済ませ、朝ごはんを準備した状態で、クローバーを起こす。彼はいつも完璧な状態で朝を迎えるのだ。
しかし、今日はクローバーが起きる時間になっても、まだ寝ている。
クローバーは眠いながらも、異変を感じた。
「エル?」
エルサイスは返事をしない。
クローバーは寝起きで靄がかかる頭を必死で働かせ、昨日の様子を思い出す。
昨日特に変わったことはしていないはずだ。無理をしたり、ものすごい疲れることをした記憶はない。
「エル?」
もう1度呼びかけると
「う、うん……?」
と、エルサイスがかすれ声で返事をする。
クローバーは直感的に嫌なものを感じて、ベットから飛び起き、隣のベットに駆け寄る。
「エル!?」
布団を引き剥がすと、エルサイスが浅い息を繰り返しながら横たわっていた。顔が赤く、明らかに具合が悪そうだ。
クローバーは、エルサイスの前髪をかき分け、額に手を当てる。
「あっつ!めっちゃ熱あるじゃん!」
「う……ん……。」
エルサイスは意識がはっきりしない様子で、呻く。
「今医者呼んでくるから、ちょっと待ってろ!」
クローバーはそういうと、いつもなら絶対無理な、奇跡的な速さで支度を済ませると、足早に部屋を出ていった。
「よう、具合はどうだ?」
目が覚めたエルサイスに、クローバーが声をかける。
「クロ……?僕……」
「熱病だってさ。今流行ってるらしい。」
クローバーはそう言いながら、エルサイスの背中を支えて起き上がらせた。そして、コップに入った水を渡す。
エルサイスは、コクリと小さく喉を鳴らすと、それを少しだけ飲んだ。
「もうちょっとだけでいいから飲め。脱水症状になるともっと苦しいぞ。」
クローバーにそう言われたエルサイスは、顔を歪めながら、何とかもう1口喉に流し込む。
「よし、いい子だ。」
クローバーは、そう褒めると、エルサイスをまたベットに寝かせる。
「安静にしてれば、死ぬような病気じゃない。落ち着くまで、しっかり休んでろ。」
「クロ……ごめん……。」
エルサイスがかすれ声で謝る。
「別に謝ることないさ。」
クローバーはそう言うと、エルサイスの額に触れ熱を計る。
「だいぶ下がったけど、まだあるな。今寒いか?暑いか?」
「わかんない……。」
クローバーは笑った。いつもと違う、ぽやぽやしたエルサイスを見るのは新鮮で、なんだか子供のようでかわいいと思ったのだ。
クローバーはエルサイスの手を握り、温度を確かめる。
「冷たいな。毛布かけよう。暑くなったら言えよ。」
エルサイスは熱で霞がかった視界で、クローバーを見ていた。握られた左手がほのかに暖かい。エルサイスはクローバーの柔らかい手を弱く握り返す。
「どうした?何かしてほしいことあるか?」
今日のクローバーは妙に優しい。そしてエルサイスもそれに甘えたい気分だった。
「手……このまま握ってて……ほしい。」
クローバーは意外な要望に目を丸くする。
「なんか子供みたいだな。変なやつだ。」
クローバーはそう言って笑った。でも、手は離さなかった。
「さぁ、いい子はもう一度寝な。」
クローバーはそう言いながら、空いてる手でエルサイスに毛布をかけた。
エルサイスは安心したように息をつくと、目を瞑った。
夢の中でも、エルサイスは熱にうなされていた。
しかし、そこは狭い宿屋の簡易なベットではなかった。
豪華絢爛の天蓋付きベットの上で、ふかふかの羽毛布団に包まれて、エルサイスは寝ていた。
枕元には執事のハビエルがいて、額の濡らしたタオルを取り替えてくれている。
「母様は……?」
そう伸ばしたエルサイスの手は小さく、声も高く幼い。
子供の頃の夢を見ているのだ。
「お母様は、お父様と兄上様とパーティーに行かれました。」
ハビエルが答える。
そうだったと、エルサイスは思い出した。
両親と3つ上の兄は、肺熱病で死にかけているエルサイスを置いて、市長との食事会に出掛けて行った。
出掛ける間際、様子を見にきた父親に
「こんな時に、役に立たないどころか、迷惑なやつだ。」
と責められた。兄は苦しむ僕を見て
「お前なんか死んでしまえばいいんだ。」
そうせせら笑った。
母親はその様子を黙って見ているだけで、誰もエルサイスを庇わなかった。
こんな扱いを受けても、エルサイスは悲しいなんて思わない。
生まれた時から、ずっとこの調子で生きてきたのだ。今更何を言われても、何の感情もわかなかった。
死ぬのは怖くなかった。誰にも必要とされず、疎まれ、邪険にされ続け、望めば叶わず、手に入れれば取り上げられる。エルサイスは何も持っていなかった。
「兄様……。」
小さな少女が、エルサイスの手を握る。
「ルル……父様たちと一緒に行かなかったのかい?」
エルサイスが苦しそうに咳をしながら、そう聞く。
5つ下の妹ルアンナは、ハビエルの隣で心配そうにエルサイスをのぞき込んでいた。
「兄様、死なないで……。」
ルアンナが、目に涙をいっぱい溜めながら言う。
この小さな妹だけが、エルサイスの唯一の救いだった。
「ルル……。」
エルサイスが手を伸ばし、妹の頭を撫でようとした瞬間、世界が反転する。
気がつくと、エルサイスは、血に濡れたルアンナを抱いていた。興奮した馬車馬が、すぐそばで暴れている。大人たちが、やかましくがなり立て、事態の収拾にあたっていた。
脳みその中から冷えていくような感覚が、エルサイスを襲う。急激に狭まる視野の中で、ルアンナの血がエルサイスの手を赤く染めていく。
息ができない。耳鳴りで何も聞こえない。
徐々に暗くなっていく視界の中で、エルサイスは苦しみもがく。
「エル!」
誰かが、エルサイスを呼ぶ。
「エル!」
聞き慣れたその声に導かれるように、エルサイスは目を覚ました。