アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
「釣れないなー。」
橋脚に肘をつき、もたれかかりながら、釣り糸を垂らす。
さっき釣れた長靴は、パートナーにプレゼントしてあげた。「ありがとう!大事にするね!」と言っていたが、汚れてる上にびしょびしょな長靴を、どう大事にするのか、疑問である。
半刻ほど前
「ということなんで、なにか情報あったら教えてね?あと、マナを見かけたら、この村にいるって伝えてね。またはぐれちゃってさ」
エナはそう言って去っていった。
その後村の人に話を聞いて回ったが、有力な情報は得られず、エナが探している、彼女の冒険のパートナー、マナにも会わなかった。
「クロ、引いてるよ。」
エルサイスの声にはっと我に返ると、竿を上げる。宝箱を引き上げたので、中身を確認する。
「骨……。」
「おめでとう。」
すぐさまエルサイスにプレゼントする。
「僕は体のいいゴミ箱じゃないよ。」
そう言いながらも、受け取ってくれる。案外良い奴かもしれない。
また釣り糸を垂らして、さらさらと流れる小さな川をただ見ていた。
すぐ近くにある劇場から、くごもった声がうっすら聞こえてくる。演劇が始まったのだろうか?橋を渡った先の小さな広場からは、噴水の吹き上げる音がしていて、もっと遠くの方から、家畜の鳴き声が風に乗ってくる。
のどかだ。
「こんなに気持ちがいいのに、それだけじゃ物足りないのかな?」
そう独り言を漏らす。
エルサイスは私のすぐ隣で、橋脚に背中をつけて座り込んでいる。
「はーー。」
なんとなくため息。
激しい引きを感じ、竿を思いっきり上げる。スティグマサーモン、大物だ。
エルサイスに渡して、サーモンのカルパッチョを合成してもらう。
「エルはさ、どう思うの?」
「どうって?」
「不老不死とか、永遠の命って、錬金術の分野でもあるでしょ?この村に起きてる不思議な術のこと、錬金術師としてどう思う?」
エルサイスは、錬金術師として、様々なアイテムを合成してくれる。
じゃがいもからクロケットを、魔物の肉から釣り餌を、特別な石から強い武器を、料理から装備品まで色々作れるのだ。
「うーーん。」
エルサイスは考え込んでいる。
また長靴が釣れた。最長記録更新したので、図鑑を書き換える。まったく嬉しくない。
「錬金術っていうのはさ、魔法とはまた違う。魔法は奇跡だけど、錬金術はどちらかというと、科学なんだよね。」
「科学?」
「錬金術には材料が必要。クロケット1個作るには、じゃがいもが1個要る。僕らは、必要な材料が揃えば、それを組み替えて新しいものを作ることができる。ただそれだけなんだ。」
それだけでも私にとっては充分奇跡に思えるのだが、エルサイスにとってはそうでもないらしい。
「クロケット1個に、じゃがいもが1個、これが等価交換。じゃがいも1個から、クロケットは2個できない。質量保存の法則に反するからね。」
エルサイスはそう言うと、合成したばかりのサーモンのカルパッチョをこちらに差し出してきた。私はそれを手で摘んで食べる。
「難しい?」
「うん、難しい。」
ここで知ったかぶりをしたって、どうせすぐ理解できていないことはバレるのだ。正直に答える。
エルサイスは少し笑ったが、柔らかい笑顔で、馬鹿にしているわけではないようだ。
「僕らはね、無から有を、または1から2を作り出すことはできないんだよ。」
「絶対に?」
「絶対に。」
エルサイスは語気を強める。
「錬金術の分野では、等価交換は絶対なんだ。クロケット1個には、じゃがいも1個が、そして……」
エルサイスが下がってきた黒縁メガネをクイッと上に押し上げる。
「永遠の命には、誰かの命が必要だと思うよ。」
メガネの奥の赤い目は 、1ミリも笑っていない。吐きそうなくらい真剣だった。
「はーー。」
ため息しかでない。
なんとも胸くその悪い話だ。一体誰がなんのためにこんな最悪なことをしているのだろうか。
「まぁ、あくまで錬金術の分野の話だよ。彼らが言うように、神様が起こす奇跡なら、等価交換なんて関係ないでしょ?きっと。」
「神様なんて1ミリも信じてないくせに、よく言うわ。」
エルサイスの薄っぺらい慰めを一蹴する。彼なりの優しさなのだろうが、心にも無いことを悪びれる様子なく口に出すところは、薄ら寒さを感じる。
嘘も本音も、客観も主観も、ごちゃ混ぜにして話すエルサイスは、間接的で、掴みどころがなく、私には理解が難しい。
「確かに、神様は信じてないね。」
エルサイスは笑った。
「でも、錬金術の分野とは違う技術が使われている可能性があるのも事実だよ。」
「その可能性を信じたいね。」
「まぁ望み薄だけど。」
一体どっちなのだ。否定したと思ったら、肯定。肯定したと思ったら、否定。
「救いがない話だな。」
「世の中救いがないことばっかりだよ。」
「だからみんな神様に救いを求めるのか?」
「そうかもね。」
その神様自体に救いがないという、現実に、うんざりする。本当に酷い世の中だ。
「もうここまでくると信じれるのは自分だけだな。」
そう漏らした私に
「僕も信じていいんだよ?」
と、エルサイスが大真面目な顔で返す。
普段嘘か本当かわからないことばかり言うから、これも冗談なのか、真面目なのか判断がつかない。
とりあえず、私は死んだ魚のような目で
「そうだね。」
と気のない返事を返した。