アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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番外編~熱とエルの過去 後編~

エルサイスは、街の有力者の次男として生まれた。家は3歳年上の兄が継ぐことになっていたので、兄は両親からも、周囲の人からも、とても大事に育てられていた。

一方エルサイスは、両親親族みんなが黒髪なのに、なぜか自分だけが、金髪のブロンドで生まれてきたこともあって、邪険に扱われていた。

愛人の子だとか、拾われ子だとか、色々言われていたが、当時、本当のことはわからなかった。

誰にも必要とされず、理由なく殴られたり、罵倒されたり、そんな毎日の中で、エルサイスは心を凍らせていた。悲しみも、寂しさも、怒りも、涙も枯れたエルサイスは、何が起きても感情を動かさないようになっていった。

「僕は要らない子だったんだ。でも、ルルは……ルアンナだけは、僕を必要としてくれた。」

5つ下のルアンナは、エルサイスによく懐き「兄様!兄様!」と言っては、エルサイスの後ろを嬉しそうについて回り、ブロンドの髪に触れては「キレイ!」と言って、目を輝かせた。

そんなルアンナだけが、エルサイスの救いだった。

ルアンナのためなら何でもしてあげようと、父親に内緒で覚えた、錬金術教えたり、魔法の練習を一緒にしたりした。

ルアンナはますますエルサイスに懐き、2人はいつも一緒で、離れなかった。

「でも、ルルはもういない。」

エルサイスはそう言うと、ため息をついてうつむいた。

「事故だった。」

ある日、エルサイスと同じ金髪の男が、エルサイスを迎えに来た。

偉大な錬金術師として名を馳せていた男は、母親の愛人で、エルサイスの本当の父親だと名乗った。

父親は事実に激怒して、母親とエルサイスを三日三晩閉じ込めて、ボコボコに殴ったが、最後は男の提案を受け入れ、エルサイスの引き渡しに応じた。厄介払いができて丁度良かったのだろう。いつもはうるさい父親も、珍しくゴネなかった。

別れの朝、エルサイスを見送りに来たのは、執事のハビエルと、ルアンナだけだった。

ルアンナは、エルサイスが行くのを、泣いて嫌がった。エルサイスも、ルアンナを置いて行きたくなかった。新しい父親にお願いしたが、ルアンナを連れていくことは叶わなかった。

「兄様!行かないで!」

「ごめんね、ルル。大人になったら必ず迎えに行くよ!」

これが、ルアンナとの、最後の会話になった。

エルサイスの乗った馬車を追いかけようと、ハビエルの手を振り払って走り出したルアンナは、後続の馬車に轢かれた。

「打ちどころが悪くてね。」

一部始終を見ていたエルサイスは、馬車から飛び降り、ぐったりしているルアンナに駆け寄り、抱き上げた。エルサイスは、ルアンナから血が流れ出ていくのを、ただ見ていることしかできなかった。

「その時のことを、今でもこうして夢で思い出すんだ……。」

言葉にしたら、また怖くなってきたエルサイスは、髪をかきあげて、感情を誤魔化す。クローバーが手を伸ばして、エルサイスの頭をよしよしと撫でる。

エルサイスは悲しげに笑った。

「僕がルルを突き放してれば、こんなことにはならなかったんじゃないかって。僕がルルの心を縛ってしまったから、ルルは……。」

「馬鹿だなぁ。人を好きになることに罪はないぞ。」

クローバーがきっぱりという。

「そうだね。」

エルサイスは言葉ではそう同意するが、心までは簡単に変えられない。ルアンナを失った傷は、ずっと心に残り続けるのだ。何度も夢に見るほどに。

「でも僕は、人を好きになるのが恐い。同時に、人から好かれるのも恐いんだ。」

だからエルサイスは、何かに興味を持ったり、執着したりすることを避けている。

ルアンナのように、失うのが恐いから、最初から持たない選択をしてしまうのだ。

エルサイス自身、自分の心は、空っぽだと思っている。

しかし、クローバーから見れば、色々な感情が小さな箱に押し込められているだけで、本当はいっぱいもっているのだ。

クローバーはエルサイスを抱き寄せた。

「わぁ!?クロ?」

いつもなら絶対にない展開に、エルサイスは戸惑った声を上げる。

「馬鹿なやつだな。本当。」

泣きたい時に泣けないのも、怒りたい時に怒れないのも、クローバーからしてみれば想像を絶する苦痛だ。

早くエルサイスの箱を開けてあげたい気持ちはあるが、鍵がどこにあるのか全くわからない。

今はこうして、慰めるのが精一杯だ。

「クロ、ごめんね……。」

エルサイスはそう悲しげに呟いた。

「さぁ、まだ熱があるから寝てな。」

しばらくエルサイスを抱きしめていたクローバーが、そう言って離れた。今ので少しでも彼の傷が癒えたらいいなと思っていた。

「もう眠くはないかな。」

エルサイスはそう言いながらも、ベットに寝転がる。メガネをしたままなので、眠る気は無いようだ。

「タマゴ粥でも食べるか?」

「レシピがないから合成できないよ。」

「料理は合成しなくたって作れるって知らないのか?」

「誰が作るの?」

「私が作るに決まってるだろ。」

「え?」

エルサイスはキョトンとした顔をしてしまう。クローバーが料理をしているところなんて、見たことがない。

公国の宿には、小さな流し台と、一口しかないガスコンロが、部屋の隅に置かれている。

今まで食事は外食か、エルサイスの合成で事足りていたので、自炊などしたこともなかった。

「待ってろ。」

クローバーはそう言うと、ミニキッチンに立って、テキパキと料理を始める。

エルサイスはその様子を横目に、窓の外を見ていた。外はパラパラと雪が舞い、寒そうだ。窓の端は外の冷たさで曇っている。

ルアンナを失った日も、こんな雪がチラチラ舞う日だったなと思いながら、エルサイスは自分の手をじっと見た。血で濡れてもないし、もう冷たくもない。

あの日起こったことは、誰のせいでもないと、頭ではわかっていた。でも、エルサイスは自分を責めずにはいられなかった。ルアンナがそれだけ大事だったのだ。

「できたよ。」

クローバーがタマゴ粥の入った皿を持ってベット横に座る。刻んだネギの入ったタマゴ粥は、色鮮やかで、美味しそうだ。

「じゃぁ……あーん!」

「は?」

甘えたように口を開けたエルサイスの頬に、クローバーが熱々のスプーンを押し付ける。

「あっついいい!」

「甘えんな。」

「なんで!?今なら絶対にいけると思ったのに!」

「そーいうとこだぞ。」

クローバーはそう言うと、エルサイスに皿とスプーンを渡した。

「おかしいなぁ…。」

エルサイスはぶつくさ文句を言いながら、タマゴ粥を一口食べた。

「うん。美味しい。」

「当たり前だろ。この私が作ったんだ。」

クローバーは得意そうだ。

タマゴ粥は熱くて、出汁の優しい味がして、美味しかった。エルサイスは残さず平らげた。

「いっぱい食べれたな。今暑いか?」

「うん、暑い。」

エルサイスが額の汗を拭いながらそう答えると、クローバーは皿を片付けながら、タオルを投げて渡した。

「それで汗拭け。もうちょっとすれば、熱が下がってくるから、汗で体冷やしすぎるなよ。あとは大人しく寝てろ。」

「クロ、ありがとう。」

「どーいたしまして。」

エルサイスは汗を拭くと、メガネを外し、ベットに寝転がった。そこに皿洗いを終えたクローバーがかえってくる。クローバーはベットの隣に腰掛けると、膝に本置き、片手で広げながら

「ん。」

っと言ってエルサイスに左手を差し出した。

「いいの?」

エルサイスが目を丸くしながら、クローバーを見つめる。

「今日だけ特別だからな。」

エルサイスがクローバーの手を握り返す。細くて、小さくて、柔らかい手だった。

「これが続くなら、僕ずっと病気でもいいな…。」

「馬鹿なこといってないで、さっさと寝て治せ。」

クローバーの呆れ声に、エルサイスは「ふふっ」と笑い声を漏らす。

エルサイスは、ルアンナのようにまた失ってしまうのが恐くて、誰かと繋がることを避けていた。しかし、いつの間にかまた、こうやってクローバーと繋がっていた。もう何も持たないと、決めていたのに。

恐いのは、今も変わらない。それでもエルサイスは今のこの状況に心地良さを感じていた。

眠りはすぐにやってきた。

夢の中でエルサイスは、クローバーとルアンナと一緒に、クッキーを作っていた。甘くて、美味しい、幸せな夢だった。

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