アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
「ねぇ、あれなに?」
エルサイスをポニーテールにして満足した私は、また連邦を目指して国境沿いの道を歩いていた。
その途中、なんだかよくわからない鉄の塊が、崖から落ちそうになっていた。
「危ない……!」
エルサイスが咄嗟に飛び出し、鉄の塊をこっちへ引っ張る。私も急いで加勢する。
「よかった。大丈夫ですか?」
「…………………」
エルサイスが話しかけるが、返事はない。
「これ、何?」
「機械人形だよ。」
私が聞くと、エルサイスが答える。
「すごいなぁ!自立型の機械人形を見るのは初めてだ!」
エルサイスはどこか嬉しそうに目を輝かせている。まるで秘密基地を見つけた少年の様だ。
もの言わぬ機械人形は、ただエルサイスを見つめていた。そう見えるだけで、何も見てはいないのかもしれないが、私にはわからない。
「動けます?お家はどこですか?ひとりで帰れます?」
エルサイスは構わず機械人形に話しかけている。
機械人形は何も答えない。
「なーんもしゃべんねーな。」
私がそう言うと、エルサイスは困ったように眉を下げた。
「どうしよう……このままにしておいて、海に落ちたら困るしなぁ。」
「海が汚れそう。」
私は素直な感想を漏らす。
「貴重な機械人形が壊れる方が困る。」
「エルがこういのが好きだとは初めて知ったよ。」
エルサイスは普段、他人の安否など、まるで気にしない。心配してる風を装うことはあるが、心の中ではどうでもいいと思っていることが多い。
でも、この機械人形のことはちゃんと気にかけているようだった。
「機械人形そのものよりも、これに使われてる技術が好きなんだ。僕は錬金術師だからね。」
学術的興味があるのだろう。
学問は裏切らない。身につけた知識だけは、誰がどうやっても奪えない。エルサイスはそれを痛いほどわかっているのだ。
「どうしようね?しゃべらないし、動かないし。」
機械人形は私を見つめるだけで、何もしない。
私は何となく、気持ちの悪さを感じた。こいつは機械だ。そこには意思も、感情もないはずなのだが、私を見下ろすこの機械人形を見ていると、そのレンズの奥に何かしらの意識があるように思えるのだ。
人間の感性とは、中々厄介だなと思う。無いはずのものを、あるように感じてしまう。気をつけなければ、事実を見誤りそうだ。
「ビモット……どこに行ったのかと心配していたよ~」
しゃがれ声の老人が、私たちの前に現れ、機械人形に話しかけた。
ビモットと呼ばれた機械人形は、そちらを向く。
何となく、嬉しそうに見える。
「あ、あのですね……」
エルサイスが老人に、ビモットが落ちそうになっていたことや、それを助けたことを説明する。
「そうか!あんたらがうちのカワイイ子の危ないところを助けてくれたんだな!」
老人はそう言うと、エルサイスに握手を求めてきた。随分他人との距離が近い。私の苦手なタイプだ。
「ありがとう、本当にありがとう。礼と言ってはなんだが、我が家へ来てはくれないか?美味い菓子があるんだ。食っていけ。」
老人が、エルサイスの手をガッチリ握りながら言う。エルサイスはチラリと振り返って、私の顔色を伺う。行きたそうだ。
「好きにしろよ。」
私がそう言うと、エルサイスは嬉しそうに微笑んで、目を輝かせた。いつもこのくらい素直なら楽なのにと思う。
「さぁ、ビモット。行くよ。お客人も一緒だぞ。こわくない、やさしそうな人だ。」
老人はそう言いながら、ビモットを連れて歩く。
「おっと、そこに石があるから、気をつけて。あんよが痛くなるからな。」
老人はビモットをまるで本当の子供のように扱っていた。老人の対応を見ていると、こっちが混乱してくる。機械人形なのに段々人間と同じように見えてきてしまう。
「ああ、疲れたら言うんだぞ?」
「ねぇ機械人形って疲れるの?」
私はエルサイスの耳に顔を近づけ、こっそり尋ねる。
「さぁ……多分疲れないよ……。」
エルサイスは苦笑しながら答える。
「心配なくらい大事にしてるってことなんだと思うよ。」
なるほど、と納得する。
「我が家はすぐそこの崖の所にある家だ。待っているぞ。」
私とエルサイスは顔を見合わせた。ついさっき、エルサイスをポニーテールにした時立ち寄った家だ。
ブライドをぞんざいな態度で追い返した老人と、今ビモットに優しく語りかけていた老人が、同一人物だとは思えない。
「天才錬金術師か……。」
老人がブライドにそう言っていたのを思い出す。
「何かすごい話が聞けるかもしれない。」
エルサイスは期待に胸を膨らませている。
「(まぁ、珍しくエルの楽しそうな顔が見れるならいっか。)」
私そう思うと、今来た道を戻って、岬の民家へと歩き出した。