アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
ジルコニアを持って家に戻ると、エージンは手を広げて僕らを歓迎した。
「おお、『ジルコニア』を持ってきてくれたか、大いに感謝するぞ。こいつを使って磨いた採光レンズじゃないと、ビモットは調子が悪くなるんだ。」
エージンはそう言うと、テーブルにジルコニアと、いくつかの器具を広げた。
「あ、見てもいいですか?」
僕は慌てて、テーブルに近づく。絶対に見逃したくなかった。
「ビモットよ、ちょっと待っておるんだよ。」
エージンはそう言うと、加工を始める。僕はその1つ1つの動きを目を凝らして見ていた。
美しい、一切無駄のない、キレイな加工だ。キラキラと光を屈折し合う、美しい採光レンズが、あっという間に出来上がった。
僕は感嘆の声を漏らす。素晴らしかった。錬金術がもっと好きになった。
エージンは、出来上がったレンズをビモットに装着する。いたわるような、優しい手つきだ。
「よし、どうだい、ビモット。」
「…………。」
ビモットは返事をしない。それでもエージンは
「すっかり具合がよくなったみたいだな。」
と、嬉しそうに漏らした。
「世話になったな!」
エージンはそう言いながら、僕らを振り返った。
「どーいたしまして。」
クローバー面倒そうに返事をするが、まんざらでもなさそうだ。
僕は天才錬金術師の加工が見れただけで満足だ。とても素晴らしい体験だった。今日宿に着いたら、余ったジルコニアで、僕も加工に挑戦しようと決めていた。
「しかし、あんたらはなんでビモットを人のようにあつかったんだ?」
エージンが加工に使った器具を片付けながら聞いてくる。
「え?」
僕は首を傾げた。
「崖から落ちそうになっているのを助けてくれて、優しく声をかけてくれたろ。」
確かに、そうしたが、何か意図があった訳では無い。ただ単純に、そう動いてしまったとしか言いようがなかった。
「ずっと以前、私は公国にいて、こいつの研究をしてきたのだ。しかし、そこでやっと完成させたビモットを、公国は死なない兵士として使いたいというんだ。」
「愚かなのは、いつだって人間だな。」
クローバーが呟く。
こんな素晴らしい技術を、戦争の道具にするのは、なんとも言えない苦しさがある。
技術者に罪はないはずだ。僕らは、いつだって自分の興味や関心を、昇華させることばかりを考えている。
その技術を悪用するのは、いつだって僕らではない、権力を持った者達だ。
「私はこの子と2人で、連邦へ亡命してきたのだ。公国を出て、連邦へ行き……。そして今はここでこの子と2人きり……。」
迷惑な話だった。
高い技術を持ちたいと思うのは、錬金術師の性だ。それを悪用したいと思う人たちのせいで、この天才錬金術師エージンは、居場所を失っていったのだ。
「酷い話ですね。」
僕はため息をついた。こんなに美しい技術なのに、人を殺すのに使うなんて、もったいない。
「いまだに兵士が、わが子を兵器にせんとうちに来よる……。」
「ブライドさんのことですか?」
エージンは「うん」と頷く。
随分不条理なことをしてるなと思っていたが、そういう理由があったのかと、半分納得する。でも、半分は納得できない。あの真面目で実直なブライドが、そんな姑息なマネをするとは、にわかには考えがたい。
「ブライドはそんなに器用なやつじゃない気がするけど……。」
クローバーも、同じことを思っているようだ。
「………なぁあんた。」
エージンが改まった様子で、僕たちに声をかける。僕とクローバーはブライドのことを考えるのをやめ、エージンを見る。
「私の友達になってくれんかね。」
「え?!」
「は?」
僕とクローバーは、同時に戸惑った声をあげる。この歳で、こんなにも丁寧な感じで「友達になってくれ」と言われるとは、思ってもみなかった。
「何を突然、という顔してるな。しかしな、結構ことは深刻なのだ。」
エージンはそう言うと、苦笑いを浮かべる。
「歳をとると、みな出不精になる。話し相手すらいなくなってしまう。そのおかげで、日に日に偏屈で、頑固になっていくものなのだ。」
それは確かにそうかもしれない。さっきクローバーと外で話していたことに似ている。たまには自分の考えを壊すような出会いがないと、頭はどんどん固くなって腐ってしまうものなのだ。
「叱ってくれる人がいないと……。いや、たとえ叱られてもそれを受け入れられず自分勝手に振舞ってしまうのだ。そんなじいさんの友達になんて、なりたくないだろうな。」
「そんなことありませんよ。」
僕は笑った。歳をとっていなくても、そんな振る舞いをする人を、僕は知っている。今目の前にいるクローバーのことだ。クローバーは、それの何が悪いんだというように、首を傾げている。
我が道を行く人同士、仲良くなれるかもしれないと、僕は思った。
そこに、ノックの音が舞い込む。
「誰だ。」
エージンが返事をする。
「私です。ブライドです。」
「エージンは外出中だ。」
「めちゃくちゃな居留守の仕方だな。」
クローバーが笑った。雑な断り方が面白かったらしい。
「そもそも、ビモットは渡さんぞ!」
そう怒鳴るエージンに、ブライドは
「何度も言ってるじゃないですか。別にエージンさんの発明を盗もうってんじゃないですよ。ちょっと錬金のことで、教えてもらえたらなって……。」
と、悲しいような声で答える。
「じーさん、気持ちはわかるが、ブライドはそんな器用なやつじゃない。ちょっと信用してもいいんじゃないか?」
クローバーの言葉に、僕も頷く。
「友達になる相手は、僕たち以外にもいるんじゃないですか?」
僕がそう言うと、エージンは少し考えた。
「……そうだ……私は自分に優しくしてくれようという者まで、信用できなくなってたのかもしれぬな。」
エージンは1度ため息をつくと
「ブライド。用があるなら入っていいぞ。菓子でも食べるがいい。」
とドアに向かって声を張り上げた。
「いいのですか?」
ブライドが戸惑った声を返す。ドアの向こうからでは、エージンがなぜ急にそんなことを言い出したのか、さっぱりわからないだろう。
「ああ、歓迎しよう。」
エージンはそう言うと、笑った。いい笑顔だ。
おずおずと入ってきたブライドと目が合った。
「あれ?なんで……?」
「さぁ?どうしてだろうね?」
クローバーは面白がるようにそう言うと、ブライドと入れ替わりで玄関に向かう。
「よかったら、また茶でも飲みに来ておくれ。」
「はい、是非!ありがとうございました。」
僕はそう言うと、クローバーと共に、エージンの家を後にした。