アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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このお話は番外編です
現在連載中のストーリーとは、前後の繋がりが一切ありませんのであしからず


番外編~騎士の子とクロの過去 前編~

エルサイスとクローバーは、午後からボンド『シルフィード』のメンバー、にもと、そのパートナーのもふと、釣りをする予定だった。

その準備のため、2人は公国のマーケットで魔物の肉を買い、釣り餌を合成していた。

「リオン分隊長!」

1人の男が、そうクローバー肩を掴み、呼び止めた。クローバーは一瞬驚いたが、すぐ表情を固くする。

「分隊長ですよね!」

男は構わずクローバーに詰め寄る。

「人違いですよ。」

エルサイスは状況をよく飲み込めて居なかったが、普段あまり見ないクローバーの固い表情から、あまり良くないことが起こっていると判断し、男の手をクローバーから引き剥がした。

「そんな!第24分隊のアレンです!あなたの部下だった!」

アレンと名乗った黒髪の男を、クローバーは無表情で見つめ返した。どこか悲しげだ。

「分隊長、どうして?あのあと一体何が……」

しつこいアレンを、エルサイスが追い払おうと、口を開きかけた瞬間、クローバーがそれを手で制した。

「アレン、よく覚えてるよ。あの時は世話になったな。」

クローバーはそう言うと、珍しく作り笑いをした。エルサイスがやるような、ニッコリとしたキレイな笑顔ではない。それはどこかぎこちないものだったが、それでもエルサイスはそれを見て驚くと同時に、いつもと違うクローバーに胸騒ぎを感じた。

「だが、アレン、私はもうリオンではない。」

声もいつもと違う、太く落ち着いた、中性的な声だった。

「今の私はクローバーだ。」

「リオン分隊長……どうして……」

「見ればわかるだろう?私は女だ。騎士にはなれないんだ。」

クローバーは自分でそう言いながら、深く傷ついていた。酷すぎて、笑ってしまうほど、辛かった。実際、クローバーは悲しい笑みを一瞬浮かべた。

「でも……!」

アレンは中々しつこい。

「もう終わったんだ!」

抑えきれなくなったクローバーが、そう怒鳴り返す。アレンだけでなく、周りにいた人たちも、何事かと、クローバーを振り返る。

エルサイスがクローバーの肩に手を置いて、落ち着くように促す。クローバーは大きく深呼吸すると

「もう見かけても、話しかけないでくれ。」

と静かに言った。

アレンはまだ何か言いたげだったが、クローバーの傍に立つエルサイスが、目の力だけで「去れ」と言っているのを見て、怖気ついた。

「わかりました……すみませんでした……」

アレンはそう言うと、去っていった。

クローバーは俯いて、地面を見ていた。自分の足がそこにある。色白で、細い、女の足だ。

「エル、悪いけど、にもちゃんとの釣りの予定、キャンセルするよ……。」

今のクローバーは、とてもそんな楽しい気分になれそうにもなかった。

「僕は別にいいよ。」

エルサイスはそんなことよりも、俯いたまま固まっているクローバーの方が心配だった。

「断りの連絡は僕から入れとく。」

そう言いながら、エルサイスはクローバーの腕を掴むと、引っ張って誘導する。

「1度宿に帰ろう。顔色が真っ青だよ。」

「………。」

クローバーは無言のまま、引きずられるようにエルサイスのあとをついて行く。ついさっきまで、にもとの釣りを楽しみにしていた面影はどこにもなかった。

宿の部屋に着くと、エルサイスは

「いくつか用事を済ませてくるから、留守番してて。2時間くらいで戻るよ。」

と言って、クローバーを置いて出ていった。

ちょうど1人になりたかったクローバーは、その気遣いが嬉しかった。

クローバーはベットに座り込むと、年甲斐もなく、さめざめと泣いた。とにかく胸が苦しかった。泣いてこの苦しさを、さっさと外に吐き出したかった。

 

 

 

クローバーは、代々国の騎士として仕える家の、3姉妹の末っ子として生まれた。

騎士には、男児が望まれていて、クローバーは父親の最後の希望だったが、『女』として生まれてしまった。

先に生まれた2人の姉たちは、騎士の家庭を支える淑女として、そしていずれ良い家柄の紳士と結婚するため、女性らしい行儀作法や、家事能力を身につける教育を受けていた。

一方私は、姉たちと同じ女の子だったが、父親の希望を叶えるため、幼い頃から騎士としての教育を受けることになった。

行儀作法、教養、剣術、武術、立派な騎士に必要なありとあらゆるものを、父親は幼いクローバーに叩き込んだ。

父親の教育は厳しかった。間違ったり、失敗したりすれば、容赦なく拳が飛んできたし、その上、泣き言は一切許されない。姉たちのように、『女だから』という理由で、譲歩されることもなかった。

クローバーは、自分が父親に殴り飛ばされている間、キレイなドレスに身を包み、優雅に紅茶を嗜む姉たちが、羨ましくて堪らなかった。

姉たちもそんなクローバーを気遣ってか、父親に内緒で、お菓子作りや、料理を時々一緒にしてくれたが、それが父親にバレると、クローバーだけが酷い罰を受けた。

父親はクローバーの中の『女』を否定し、男のように、立派な騎士になることを要求した。

それでも、幼い頃はまだマシだった。父親のスパルタ教育のおかげで、他の家のどの男の子よりも、強かったクローバーは、みんなに認められていた。

でも、年頃になってくると、様子が変わっていった。

相変わらずクローバーは誰よりも強かったが、ことある事に「女のくせに」「これだから女は」と、クローバーの性別を引き合いに出しては蔑まれるようになった。

クローバーは、声変わりしない高い声を隠すため、低く落ち着いた声を出すようにした。膨らんでくる胸は、サラシで潰した。そうして自ら、自分の中の『女』を否定するようになっていった。

12歳の時に、騎士の養成所に入った。女の名前での登録ができなかったので、クローバーは『リオン』という新しい男の名前をもらった。

養成所での生活は地獄だった。

女だからという理由で、卑猥な言葉を投げかけられたり、不躾に体を触られたり、様々な嫌がらせを受けた。

それでもクローバーは負けなかった。騎士リオンとして、男たちと対等に渡り合った。

言いたいことははっきり言ったし、嫌なことは拒否した。大人しく、わかったふりで黙っていれば、潰されてしまう。歯に衣着せぬ物言いは、ここで身につけた。

クローバーは男のようになりたいと思っていたが、その憧れの男たちから嫌がらせを受け、男を嫌悪するようになっていた。それでも、自分の中の『女』を否定しなければならない日々が続いた。

クローバーは、男でも女でもない。中途半端な存在だった。

18歳になったある日、小隊長だった父親の下で、最年少で分隊長を任された。

親の七光りだとか、枕営業だとか、悪口を言われまくったが、クローバーはそれを実力でねじ伏せた。

7人の部下を連れての、初めての遠征で、裏取りに来た敵小隊隊長の首を取り、大金星をあげたのだ。

その時クローバーの部下として、共に戦った1人が、さっき声をかけてきたアレンだ。

これでやっと本物の騎士になれる。みんな自分を認めてくれる。

そう思っていた矢先に、クローバーは父親から、酷い裏切りを受けることになるのだった。

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