アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第38話 食材を求めて

クローバーが料理ができると知ってから、僕は時々食べたいものをリクエストするようになった。もちろんただ「食べたい」と言うだけではない。必要な食材や調理器具を集め、調理できる環境を整えるまでが僕の仕事だ。

今回はビーフシチューをリクエストしたのだが、公国の宿のミニキッチンでは作れないと言われたので、わざわざ酒場のチップさんに頼み込んで、空き時間に、場所や調理器具を貸してもらう算段を整えた。

そして今は、食材の買い出しのため、クローバーと共に、連邦の大農園を訪れている。

「えっと……にんじん、じゃがいも、玉ねぎ、ブロッコリー、トマト……。」

僕はメモを確認する。全部揃うか不安だ。そんな僕の横で、クローバーはつまらなそうにあくびをしていた。

農園の入口までくると、老齢の兵士が

「この農園を荒らす者よ!老いたとはいえ、このバスタ、まだまだ後れは取らん……」

と言いながら剣を抜いてきた。突然の出来事に僕もクローバーもポカンとしてしまう。

「我が牙のエジキとなれ!」

随分物騒だ。いつもの好戦的なクローバーなら、嬉々として剣を抜いて応戦しそうなものだが、今は完全にオフになっていたので、ただ呆れた顔をするだけで、動かない。

「僕たちは食材を買いにきただけの、冒険者ですよ。」

僕がそう言うと

「ふん!冒険者が殺せぬなど百も承知。だが、この刃には毒が塗ってある。傷ついたところから皮膚が溶解し、骨まであらわにするのだ!」

と、バスタが返す。全く人の話を聞いていない。

「そりゃ痛そうだな。」

クローバーはそう面倒くさそうに言うだけで、珍しく動かない。この老兵士にはあまり興味がないようだ。

「死ぬ以上の苦しみを与えてやる!覚悟しろ!」

沈黙が流れる。ピリピリしているのはバスタだけで、僕もクローバーも全く緊張感がない。

「どうした?なぜ武器を構えぬ?」

僕たちに戦う気がないと察したのか、バスタは少し考えると

「……失礼した。ワシの早とちりだったようだ。あんたらは客人か。」

と言って、剣を下ろした。

「さっきからそう言ってるだろ。」

「まぁまぁ……」

イライラしだしそうなクローバーを、僕はなだめる。ビーフシチューをつくってもらうまでは、機嫌を損ねてはいけない。

「ようこそ、ワシらが農園へ。客人ならばワシらの主に挨拶に行くがよいだろう。」

バスタはそう言うと、道を譲った。僕たちはおずおずとバスタの横を通って農園へと入っていく。バスタは目の前を通る僕たちを、鋭い眼光で品定めするように見ていた。

なんだか落ち着かない。クローバーをチラリと見る。何にも感じていないようだ。平然としたいつもの顔で、僕の後ろをついてくる。

バスタが見えなくなった辺りで

「珍しく剣を抜かなかったね。どうして?」

と、クローバーに聞いた。

「お前は私を猿だとでも思ってんのか?私だって目があったやつ誰彼構わず切りかかるわけじゃない。」

クローバーはそう言いながらあくびをする。退屈そうだ。

「基準は?」

「強そうか、そうじゃないか。」

僕は苦笑いを返す。猿ではないが、人間でもないような気がする。余計なことを言うと機嫌を損ねてしまうので、それは心にしまっておく。

「バスタさんは強そうに見えなかった?」

僕がそう聞くとクローバーは少し考えた。

「経験値はありそう。ただ、興味を引かれるくらい特別なものは感じない。そんな感じかな。」

僕にはよくわからなかった。クローバーには、クローバーの感覚というか、感性があるようだ。

基準はイマイチよくわからないが、それでも自分よりも強いと思う者に向かっていくという辺り、クローバーらしいなと思う。

世の中弱い者いじめを楽しんでいるやつが溢れているのだ。

生き物の生存本能として、強い者に立ち向かうというのは、おかしな話かもしれない。それでも、弱い者を探し出していじめるやつよりは、数万倍マシだと思う。

本能に従うだけなら、理性をもったに『人』生まれた意味が無いのだから。

「おぉ……広いな……。」

クローバーの感嘆の声に、僕は顔を上げ、辺りを見渡す。辺り一面、畑、畑、畑。

麦畑で、金色の穂が、頭を垂れて風に揺れている。背の高い作物は、トウモロコシ畑なのだろうか?理路整然と並ぶ様は壮観で、美しい。普段市場で見ることはない大きなカボチャも置いてある。

「キレイだね。」

僕は思わずそう漏らした。不老不死の村のような、小さな農村とは違う。ここ大農園は、のどかとはいえない、壮大なスケールがある。

「ようこそ、私の農園へ。私はここの主ジャム。」

恰幅の良い中年女性が、僕たちにそう話しかけてきた。ふくよかな体つきが、なんとなく農民らしく思える。

「ここは国の食を支える大事な施設。とはいえこの場所にきても面白いことは何もないわよ?」

ジャムは、僕たちが冒険の1つとして、ここに立ちよったと思ったらしい。確かに、冒険者がここにきても、特に面白いことはないだろう。この平和な農園で、大冒険ができるとは考えにくい。

「あ、そうそう。変な動きはしないように気を付けなさい?ここは、魔物によく襲われるから、あちこちに罠が仕掛けてあるからね。」

魔物は畑の作物だろうが、なんだろうが、そこに食べられるものがあれば持っていってしまう。彼らにとっては、自生してるものも、畑で育てているものも、全部同じただの食料なのだ。

「警備担当の兵士も、常にピリピリしているわ。」

「あぁ、そうだね。」

クローバーがそうぼやく。バスタを思い出していたのだろう。

「だから、紛らわしいことをしたら、間違って傷つけちゃうかもしれないから……なんてね。」

ジャムはそう言うと笑った。僕らは笑えない。中々物騒な農園だ。

「あら、作業終わったの?なら、今日の仕事は終わりよ。明日のために、休みなさい。」

ジャムは、目の前に現れた魔物に、そう指示を出す。魔物が人間の元で働くところは、錬成施設で見たことがあった。

「あなたは大切な働き手なんだから、倒れられたら大変なの。休養は大切。」

錬成施設同様、ここでも魔物たちは大切に扱われているらしい。それは中々喜ばしいことだ。

ジャムは魔物たちに次々に指示を出すと、僕らの方を向き

「まぁ見学は大歓迎よ?ゆっくりしていってね。」

と言って去っていった。

「さて、どうしようか?」

クローバーが言う。

「うーん……とりあえず農園を見て回ろうか?直売所みたいなのが、どこかにあるかも。」

「そうだな。珍しい野菜が買えるかもしれないね。」

なんだかんだで、クローバーは楽しそうだ。僕は安心すると、農園の奥へと歩き出した。

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