アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
戦況は思ったよりも悪くない。数の上では圧倒的に不利だったが、防衛は意外にうまくいっていた。
私は大きく円を描くように、セイクリッドサークルを放つ。向かってくるオーガのうち1匹が黒い霧を残しながら消えていった。撃ち漏らした残りの敵は、エルサイスのメテオフォールで行く手を阻む。あとは1匹ずつ私がウォータースラッシュや、スカルティガーで狩っていく。
私は騎士をしていた頃の経験から、こんな感じの乱戦には慣れていた。一方エルサイスにとっては、初めての乱戦になるはずなのだが、相変わらず広い視野と、冷静な判断で、いつもと変わらない連携を紡いでいた。この入り乱れた戦闘の中でも、安心して背中を任せられる。
「左から2。先頭の1匹牽制しとく。」
エルサイスはそう言うと、ウォーターヴェインを先頭のオーガにぶつける。オーガを水流に驚き立ち止まり、後ろの1匹もそれに巻き込まれる。そこに私がグランドショットを放つ。2匹ともまとめて黒い霧になった。
魔物1匹1匹はさほど強くない。ただ問題なのはその数だ。十数匹のオーガ軍勢を、私とエルサイスの、たった2人で相手をしなければならないのだ。
バスタはオスカーとのタイマンで精一杯のようだった。大将戦なので仕方ない。私は雑魚狩りに集中する。
「クロ、一度下がって回復して!」
「そんな暇ねーよ!」
オーガの喉元に剣を突き立てながら、そう怒鳴り返す。私は休むことなく戦場を駆け回り、次から次へとオーガを狩っていく。顔につく血が、自分のものなのか、返り血なのかさえわからない。
「もう……。」
エルサイスは不満そうに眉をよせながらも、アルカナで回復してくれた。暖かい光が一瞬私を包む。
「物理防御あげるけど、過信しないでね。」
エルサイスがウォールの詠唱を始めると、そのヘイトに、数匹のオーガがエルサイスの方を向く。
私はそれを走って追いかけ、後ろから刺す。
「ありがとう。」
エルサイスはそう言いながら、もう既に次の呪文の準備をしている。
時間の経過と共に、戦況は厳しくなっていった。元々この前線を、たった2人で守りきるのは、無理な話なのだ。
既に何匹か敵を撃ち漏らし、農園への侵入を許していたが、追いかけることはできない。今ここを離れるわけにはいかないのだ。
「あ、やばいかも。」
エルサイスの声に、私は一瞬振り返る。農園の方から、火の手が上がっていた。撃ち漏らした敵の仕業だろう。
「くっそ……。」
私はそう言いながらも、目の前のオーガに、剣を振り下ろす。
「右から2。左は僕に任せて。」
エルサイスは冷静だ。
全てを私1人でやりきるのは、どうせ無理なのだ。後ろのことは、後ろに任せればいい。
オーガの爪が、肌を破く。血が吹き出るが、痛みは感じない。
私は振り返りもせず、戦場を駆け、舞い、縦横無尽に暴れ回る。
「どけぇ!」
そう叫びながら、オーガにグランドショットを食らわせる。
私の中の戦いの血が騒いで止まらない。熱を孕んだ感情が抑えきれないほど膨れ上がっていた。段々目の前が赤くなっていって、視野が圧迫される。
もっと、もっと、切りたい、倒したい、戦いたい。
もうそれ以外何も考えられなくなっていた。私は、走り出したら、止まれないのだ。
「クロ!!回復を!!」
「うるせぇ!」
エルサイスの声さえ振り切る。
「私を止められると思うなよ。」
勝手にそう口走っていた。私の中の、好戦的なもう1人の私が言ったのかもしれない。
「クロ!!」
エルサイスが前に出てきて、私の肩を掴んだ。グッと引っ張られた私は、強制的にエルサイスの方を向く。
エルサイスと目が合った瞬間、私は一瞬で冷静さを取り戻した。
「(紙装甲なのにこんな前線にきたら危ない。)」
急激に冷めた頭でそう思った。血が頬をつたう。痛みを思い出していた。
エルサイスがアルカナを唱えて回復してくれた。
「敵はまだ来る。落ち着いていこう。」
エルサイスはそう言うと、笑った。戦場には似つかわしくない、爽やかな笑顔だった。
「うん、ごめん。」
溢れだしそうだった感情が、あっという間に収まった。体にたまっていた熱がすっと引いていく。
不快感はない。目も、頭も冴えて、視野が一気に広がり、むしろ気持ちがよかった。
エルサイスが私の背後に迫るオーガに、メテオフォールを放つ。私は素早く振り返るとウォータースラッシュをお見舞いする。
戦っている状況は何も変わらない。でも、さっきのような、体の内側から暴れだしたくなるような熱はもうなかった。