アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

52 / 145
第40話 乱戦その1

 

戦況は思ったよりも悪くない。数の上では圧倒的に不利だったが、防衛は意外にうまくいっていた。

私は大きく円を描くように、セイクリッドサークルを放つ。向かってくるオーガのうち1匹が黒い霧を残しながら消えていった。撃ち漏らした残りの敵は、エルサイスのメテオフォールで行く手を阻む。あとは1匹ずつ私がウォータースラッシュや、スカルティガーで狩っていく。

私は騎士をしていた頃の経験から、こんな感じの乱戦には慣れていた。一方エルサイスにとっては、初めての乱戦になるはずなのだが、相変わらず広い視野と、冷静な判断で、いつもと変わらない連携を紡いでいた。この入り乱れた戦闘の中でも、安心して背中を任せられる。

「左から2。先頭の1匹牽制しとく。」

エルサイスはそう言うと、ウォーターヴェインを先頭のオーガにぶつける。オーガを水流に驚き立ち止まり、後ろの1匹もそれに巻き込まれる。そこに私がグランドショットを放つ。2匹ともまとめて黒い霧になった。

魔物1匹1匹はさほど強くない。ただ問題なのはその数だ。十数匹のオーガ軍勢を、私とエルサイスの、たった2人で相手をしなければならないのだ。

バスタはオスカーとのタイマンで精一杯のようだった。大将戦なので仕方ない。私は雑魚狩りに集中する。

「クロ、一度下がって回復して!」

「そんな暇ねーよ!」

オーガの喉元に剣を突き立てながら、そう怒鳴り返す。私は休むことなく戦場を駆け回り、次から次へとオーガを狩っていく。顔につく血が、自分のものなのか、返り血なのかさえわからない。

「もう……。」

エルサイスは不満そうに眉をよせながらも、アルカナで回復してくれた。暖かい光が一瞬私を包む。

「物理防御あげるけど、過信しないでね。」

エルサイスがウォールの詠唱を始めると、そのヘイトに、数匹のオーガがエルサイスの方を向く。

私はそれを走って追いかけ、後ろから刺す。

「ありがとう。」

エルサイスはそう言いながら、もう既に次の呪文の準備をしている。

時間の経過と共に、戦況は厳しくなっていった。元々この前線を、たった2人で守りきるのは、無理な話なのだ。

既に何匹か敵を撃ち漏らし、農園への侵入を許していたが、追いかけることはできない。今ここを離れるわけにはいかないのだ。

「あ、やばいかも。」

エルサイスの声に、私は一瞬振り返る。農園の方から、火の手が上がっていた。撃ち漏らした敵の仕業だろう。

「くっそ……。」

私はそう言いながらも、目の前のオーガに、剣を振り下ろす。

「右から2。左は僕に任せて。」

エルサイスは冷静だ。

全てを私1人でやりきるのは、どうせ無理なのだ。後ろのことは、後ろに任せればいい。

オーガの爪が、肌を破く。血が吹き出るが、痛みは感じない。

私は振り返りもせず、戦場を駆け、舞い、縦横無尽に暴れ回る。

「どけぇ!」

そう叫びながら、オーガにグランドショットを食らわせる。

私の中の戦いの血が騒いで止まらない。熱を孕んだ感情が抑えきれないほど膨れ上がっていた。段々目の前が赤くなっていって、視野が圧迫される。

もっと、もっと、切りたい、倒したい、戦いたい。

もうそれ以外何も考えられなくなっていた。私は、走り出したら、止まれないのだ。

「クロ!!回復を!!」

「うるせぇ!」

エルサイスの声さえ振り切る。

「私を止められると思うなよ。」

勝手にそう口走っていた。私の中の、好戦的なもう1人の私が言ったのかもしれない。

「クロ!!」

エルサイスが前に出てきて、私の肩を掴んだ。グッと引っ張られた私は、強制的にエルサイスの方を向く。

エルサイスと目が合った瞬間、私は一瞬で冷静さを取り戻した。

「(紙装甲なのにこんな前線にきたら危ない。)」

急激に冷めた頭でそう思った。血が頬をつたう。痛みを思い出していた。

エルサイスがアルカナを唱えて回復してくれた。

「敵はまだ来る。落ち着いていこう。」

エルサイスはそう言うと、笑った。戦場には似つかわしくない、爽やかな笑顔だった。

「うん、ごめん。」

溢れだしそうだった感情が、あっという間に収まった。体にたまっていた熱がすっと引いていく。

不快感はない。目も、頭も冴えて、視野が一気に広がり、むしろ気持ちがよかった。

エルサイスが私の背後に迫るオーガに、メテオフォールを放つ。私は素早く振り返るとウォータースラッシュをお見舞いする。

戦っている状況は何も変わらない。でも、さっきのような、体の内側から暴れだしたくなるような熱はもうなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。