アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第42話 師弟対決

農園の入口付近の敵は、粗方倒した。何匹かは、途中、恐れを為して逃げていったこともあり、乱戦は15分も持たなかった。あとは農園に侵入した数匹の残党を狩れば大丈夫だろう。その残党だって、農園に設置されている罠にかかって、数は減っているはずだ。

私たちの勝利だった。

「クロ?大丈夫?」

エルサイスが駆け寄ってきて、回復してくれる。

「大丈夫。何だろ……すごい気分が楽だ。」

私はそう言いながら、顔についた返り血を拭う。

こういう戦闘が終わった時は、もっと疲れていることが多いのだが、まだまだ戦えそうな余裕があった。

「疲れてないの?」

エルサイスが息を切らせながら聞いてきた。左腕から出血していたので

「回復した方がいいぞ。」

と教えてあげた。エルサイスは自分自身にプネウマをかける。

「思ったより、疲れてないな。」

首や腕を回して、自分の体を確かめる。

息はそれなりに上がっていたが、心音は落ち着いている。激しい戦闘特有の、気持ち悪い虚脱感や、立っていられなくなるような疲労感は全くなかった。

「すごいね……僕はヘトヘトだよ。」

エルサイスはそう言いながら、膝に手をつき、肩で息をしている。立っているのが辛そうだ。

「私が見とくから、これ飲んどけ。」

私は辺りを警戒しながら、エルサイスに水の入った水筒を渡す。エルサイスは

「ありがとう。」

とかすれ声で言うと、中身をグビっと飲み干した。

私はエルサイスを連れて、農園を見て回りながら、残党狩りをする。被害は思ったよりも少なかった。消火活動が迅速に行われたらしく、放火の被害もボヤ程度で、大きな火事にはならなかったようだ。

「あれ、バスタさんじゃない?」

エルサイスが指さした方を見る。バスタとオスカーの大将戦は、まだ決着がついていなかったようだ。

「師弟対決かぁ。」

大将は大将に任せることにする。バスタの活躍の場を奪うのは野暮だ。

バスタもオスカーも、広い間合いをとって、睨み合っていた。ジリジリとした緊張感が続く。

「動かないね。」

「静かにしてろ。」

私はエルサイスを注意する。何が合図で2人が動くかわからないのだ。不用意な音は禁物だ。

バスタが使う毒の剣は、当たればそれで終わりの、正に一撃必殺の剣技。オスカーだってそれはわかっているのだから、それをくらう前に、終わらせようとするだろう。それはつまり、1回でも先に切った方が勝ちということだ。

初手で勝敗が決まる。これはそういう戦いなのだ。お互い警戒して、動きを見極めようとするのは、当然のことだった。

「(つまらんな。)」

そういう戦い方は否定しない。1発に全てを掛けるというのは、それはそれで尊く、美しい戦いだと思う。

でも、私には合わないし、興味もそそられない。私は接近戦が好きなのだ。交わされ、ぶつかる剣先で、命やり取りを、何度もできる。詰めた距離の分だけ消されるのも当然で、そのスリルがやめられない。

バスタとオスカーの戦いは、そういった派手さが全くなかった。お互いがお互いの動きを、目を凝らして確認するだけで、中々進ままい。でも始まれば一瞬で終わってしまう。

そんな刹那的な戦闘では、私は物足りないのだ。

「くる。」

先に動いたのはオスカーだった。正面からバスタに切りかかる。バスタはそれを受け止めると剣を払いのけ、右上から左下に振り下ろす。オスカーはそれをバックステップで避けたが、コンマ1秒遅かった。バスタの剣先が太ももあたりをかすめ、小さな傷をつくる。

「もう終わりさ。」

「つまらなそうだね。」

エルサイス言う通り、本当につまらなかった。だから最初老兵士を見た時から、興味を持てなかったのだ。こういう戦い方は、私には向いていない。

傷を受けたオスカーはニヤリと、気味の悪い笑みを浮かべる。私はまだ何か奥の手が出るかと、期待して見ていた。しかし、バスタがオスカーの喉元めがけて切かかると、オスカーはそれを後ろに飛んでかわし、何か魔法の様なものを使って、一瞬で消えてしまった。

私が呆気に取られていると

「転移の魔法だね。敵前逃亡とは、何とも賢い騎士様だよ。」

と、エルサイスが皮肉をいった。

「酷い戦いだよ。まったく。」

ため息をつく私の前で、バスタは虚空に消えた弟子の姿を、まだ見つめているようだった。

 

 

 

「すまぬ、冒険者殿。手間をかけさせたな。」

くすぶっている火を消したり、戦闘で壊してしまった柵を片付けていると、バスタがそう言いながら近づいてきた。

「別に、それなりに楽しめたからいいよ。」

今回の戦闘は、私もかなりいい発見や収穫があった。エルサイスだって、初めての乱戦で、学ぶことはそれなりにあっただろう。私たちとって、大事な経験になった。

「みんな~、火は粗方消えたわよ。よくもまぁ、畑のまわりをキレイに刈り込んだものねぇ。」

ジャムが手を振りながら叫んでいる。酷い目にあったが、それでも元気そうだ。

「おかげ様で、畑は全く被害なしですんだわ。」

「ま、時間があったもんでな。」

バスタはそう言うと笑った。草取りがこんな形で効果を発揮するとは、思いもしなかっただろう。

「で、今回も無事、敵は倒せたの?」

「ああ、敵は撃退した。同時に、弟子も失ったがな……。逃がしはしたが、我が剣の傷を受ければ、以前のように戦うことは、もう無理だろう。」

バスタの毒の剣は、恐ろしいシロモノだ。私は絶対に受けたくない。受けても死にはしないが、私にとって『戦えない』ことは、死と同様なのだ。生きながらに死ぬなんて、恐ろしすぎる。

この老兵士と私は、色々相性がよくないようだ。

「冒険者殿にも世話になった。できたら礼をしてほしい。」

バスタがそう言うと、ジャムは困った顔した。

「冒険者さん、ありがとうね。でも、お礼と言っても特に……野菜くらいしか、渡せるものがないのよね。」

普通の冒険者なら、野菜を渡されても困るだろう。手に余らせて腐らせてしまう。でも、私たちは野菜を買うためにここにきた、特殊な冒険者だった。

私とエルサイスは、期待した目で、顔を見合わせた。

「実は……」

エルサイスは、私が書いたビーフシチューの材料のメモを、ジャムに見せながら、事情を説明する。ジャムは喜んで、野菜だけでなく、牛肉やワインも用意してくれた。

「これからも野菜が必要になったら、取りに来て。いつでもわけてあげるわ。」

私たちに食材の袋を渡しながら、ジャムがそう言う。私もエルサイスも、喜んでそれを受けとった。

いい仕入先ができた。

「いいのか?こんなにもらって。」

一応バスタの方を見て、確認を取る。

「冒険者殿よ。」

バスタは真剣な表情で、浮かれている私たちを見る。

「これは、口止め料だ。陛下がこの農園を襲わせた、ということは、誰にも言うな。」

「あー、そう言うこと?」

私は眉を寄せる。賄賂の様なものを感じるが、仕方ない気もする。どうせ、誰かに言ったところで、こんな荒唐無稽な話を、誰が信じるのだろうか?

「わかりました。」

エルサイスがバスタに、真剣な表情で返す。

王様の耳はロバの耳。大事な秘密は他人に漏らしたところで、罰せられ、始末されるのは、結局私たちの方なのだ。

そう思って、私もエルサイスに続いて頷く。

「世の中には抗いがたい強い力がある。どんなに自分正しいと主張しても、潰される場合もあるってことだ。」

そんな場合の方が、圧倒的に多い気がする。私は『所詮女のいうこと』で、散々嫌な目にあってきたのだ。そうやって、立場の弱いものの言うことを叩き潰す風潮は、形を変えて、様々な場所存在する。

「我々はそれに翻弄される、か弱き存在だが、だがそれに負けず、まっすぐ生きるのだぞ、冒険者殿よ。」

そう微笑む老兵士に、私とエルサイスはそれぞれ敬礼を返した。

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