アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
現在連載中のストーリーとは、前後の繋がりが一切ありませんのであしからず
話の中の『にも』さんとそのYOME『もふ』の設定は、にもさん本人への取材を元に構成しています。
にもさんご協力ありがとうございました・:*+.\(( °ω° ))/.:+
「……あ、待って……やぁあ!もふ…!……い、いや……!」
ドアの向こうから、くごもった声が聞こえる。不穏なものを感じたクローバーは、ドアを蹴破り、部屋の中に飛び込む。
不老不死の村の狭い宿は、部屋の大部分がベットに占領されている。そのベットに、にもがうつ伏せに押し倒されていて、その上には、にものパートナーのもふがのしかかり、服を脱がそうとしていた。
「(あ、これはダメだ。もふさん死んだな。)」
エルサイスは一瞬で悟る。
クローバーは素早い動きで、もふを窓側まで蹴飛ばすと、剣を抜き払い、その剣先をもふの喉元に突きつける。
「覚悟はいいか?」
瞳孔の開き切った目で、クローバーがもふに凄む。もふは何が起こったのかわからないまま目を回していた。
「姉御!」
にもがベットから起き上がりながら、悲鳴のような声を出す。
「違うの!姉御!」
「庇う必要ねーぞ。大丈夫、私が責任をもってこいつを地獄に送ってやる。」
クローバーは中々物騒だ。
「ちょっと待って下さい!!」
もふが両手を上げ、降参のポーズを取りながら言う。オフホワイトの柔らかい短髪の下で、若草色の目が怯えて震えている。
「もふは、私の背中の汗疹を見ようとしただけなの!」
「汗疹ですか?」
エルサイスが首を傾げながら言う。
「にもが背中の汗疹を見てくれって言うから!」
今にも首に食い込みそうな剣先に、もふは冷や汗をかいていた。
「にもちゃん、これ本当か?」
「本当です。」
にもがクローバーの目を見ながらキッパリとした口調で言った。
クローバーはその返答を聞くと「ふむ」と言って剣を下ろし、にもの方を向く。死の恐怖から解放されたもふは、ため息をつくと額の汗を拭った。
「もふは、私の言うこと聞いただけなの……」
「でも、にもちゃんは嫌だったんでしょ?」
「嫌というか……服を脱がされるのは……やっぱり……ちょっと……途中で怖くなっちゃって……」
にもが目を伏せ、恥じらいながら言う。
「よし、わかった。ギルティー!」
クローバーはそう言いながら振り返り、無防備なもふに腹パンを食らわす。
「ぐっふっ……!!」
「ひぃ……。」
完全に油断していたもふは、声にならない呻きを漏らし、その場にうずくまった。それを見たエルサイスは小さな悲鳴をあげる。
「姉御!!」
にもは唖然としている。
「頼まれたからって、レディの服を無理やり脱がそうとしたら、有罪なんだよ。」
クローバーはそう言いながら、痛みにうずくまっているもふを睨みつける。もふはカハゴホむせるだけで、返事ができない。
「もふさん、息止めないで、無理にでも深呼吸した方が早く治まりますよ。」
もふは、そのアドバイスを聞きながら、なんとか深呼吸する。
今日は、この前クローバーの予定でキャンセルしてしまった釣りを、4人でする予定だったのだ。しかし、にもともふが、いつまで経っても集合場所にこない。不審に思ったクローバーとエルサイスが、わざわざ宿まで迎えにきたら、この現場に居合わせた、というわけだ。
「まったく……にもちゃん大丈夫?」
「う、うん。私は大丈夫。」
そう言いながら、にもは背中を掻いている。
「とんだ……ゴホッ……とばっちりを…ゴホッゴホッ。」
もふが苦しそうにむせながら言う。
「どれ、にもちゃん、私が見てあげるよ。」
クローバーはそう言うと、にもを優しくベットに寝かせる。
「野郎共は外で待ってろ。覗いたら殺すからな。」
もふの惨劇を目の当たりにして尚、覗きをしようなんて猛者が存在するのだろうか。
エルサイスは、まだダメージの残っているもふに手を貸すと、2人で部屋を出た。
「災難でしたね。」
エルサイスが、もふを慰める。
「一瞬何が起こったのかわからなかったですよ。突然ゴリラが入ってきたかと思いました。」
「それクロが聞いたら、もう1発拳が飛んできますよ。」
もふはゾッとしながらお腹を押さえた。もう二度と食らいたくない。
「なんでまた、こんなこと引き受けたんですか?」
パートナーの頼みとはいえ、服を脱がすという行為は、中々ハードルが高い。エルサイスなら嬉々としてやるだろうが、パートナーとの距離に慎重なもふが、手を出す事案とは思えなかった。
「何か最近ダメです……。すぐカッとなって……。」
もふはそう言うと、不甲斐ない自分を反省するように、頭をかいた。
「いつものことなんですよ。出会った瞬間から、にもは上から目線がすごかったんですから。」
もふは公国の酒場で、初対面のにもに「パートナー探してるなら、私がなってあげてもいいよ。」と言われて、なぜかそれをOKした。
そんな生意気な誘い文句、普通なら断りそうだが、もふは気にならなかったし、むしろ面白そうだと思ったのだ。
それからもふは、生意気の割には、どこか抜けているにもをうまくコントロールして、それをずっと楽しんでいた。
「それなのに、何かうまくいかないんです……。今回のことだって、いつもなら受け流せたはずなのに……。」
にもの汗疹はずっと気になっていたのだ。もふは治療するよう前々から言っていたのだが、にもは面倒くさがって放置していた。そして掻いているうちにどんどん症状が悪化してしまい
「もふが見てくれないからこんな酷くなったんだ!」
と責任転嫁され
「じゃぁ見るよ!」
となったらしい。
「珍しいですね。もふさんが、そんな煽りに乗っかるなんんて。」
エルサイスともふは、結構仲がいい。お互いパートナーが下戸なので、酔い潰れたクローバーとにもを尻目に、2人だけでお酒を楽しむことが何度かあった。そこで色々話をして、お互いの性格はだいたい把握していた。
「俺もそう思いますよ。何でこんなことでカッとなるんですかね?」
そう聞かれても、エルサイスはなんと言えばいいのかわからない。でも、にもが変わってないのなら、もふ自身が変わったということなのだ。
「もふさん自身がわからないなら、迷宮入りですね。」
エルサイスはそう言って肩を竦めながら、もふの様子を伺う。もふはきっと、自分の変化の原因をわかっているはずだと、エルサイスは確信していた。もふは賢い。クローバーや、にものように、自分を見失うことは無いはずだ。それでも「わからない」と漏らすのは、きっと、その事実を認めたくないだけなのだ。
「なんだか調子狂いますよ……。」
もふはそう言うと、ため息をついた。
はぐらかして逃げたり、誤魔化したりしているうちに、自分でもどうしたらいいか、わからなくなってしまう。
エルサイスともふは、似たもの同士だった。
バンっと部屋のドアが突然開いて、クローバーが出てきた。
「釣りは中止。ありゃダメだ。」
クローバーがキッパリと言う。
「先に汗疹の薬を調達しよう。」
クローバー続いて、にもが、バツの悪そうな顔で出てくる。
それを見たエルサイスともふは、肩を竦めながら顔を見合わせた。