アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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番外編~にもともふと汗疹の薬 後編~

「にもさんは釣りが上手ですねぇ!」

エルサイスはそう言いながら、にもが釣り上げたトレジャーから、ガラス片を取り出す。

「ふふん!まぁね!」

にもは淡いピンク色のロングヘアを揺らしながら、得意そうに鼻をかく。おカッパの前髪が、おてんばそうな雰囲気を醸し出している。

「にもさんは本当に素直でいいですね。クロも見習ってほしいです。」

にもは「ふふっ」と照れて笑う。褒めれば褒めた分だけ響く。エルサイスは心の中で、なんて扱いやすいのだろうと思っていた。

「姉御は姉御で、かっこよくて、憧れる!」

「でも、にもさんはそのままの方が、いいと思いますよ。」

それがエルサイスの正直な感想だった。

「もふさんだって、今のにもさんの方が、きっと好きですよ。」

エルサイスの言葉に、にもは顔を曇らせる。

「好きなんて……。もふは、私のことなんか、きっとどうとも思ってないんだ……。」

にもはそう言うと、もふと同じ若草色の目を歪めながら、今にも泣きだしそうな顔をする。エルサイスは慌てて

「僕はそんなことないと思いますけど……。」

とフォローした。

もふがにものことを好きなのは、エルサイスの目から見れば、明らかなことだった。少なくとも「どうとも思ってない」なんてことはないだろう。

「でも……でも……。」

にもが言い淀む。

「ふむ。」

エルサイスはそううなずくと、にもから釣竿をサッと預かり、近くのベンチまでエスコートする。そして「さぁここに座って何でも話して下さい」と言うように、微笑みかける。

にもはエルサイスの行動に戸惑いながらも、ベンチに腰を下ろす。

「何かあったんですか?」

エルサイスがにもの隣に座りながら聞く。

「えっと……実は……」

にもは躊躇いながらも話し出す。

「こないだね、公国でもふに……その……。」

にも両手の指を絡ませ、落ち着きなく目を泳がせていた。

「あの……き、キスをしたの……。」

「え……?」

予想のはるか斜め上をいくにもの回答に、エルサイスは一瞬固まってしまった。

「もふが悪いんだよ!だって、私の気持ち知ってるくせに、いつも誤魔化してさ!」

にもはそう言いながら、不満そうに口を尖らせる。

「だから!ちょっと不意打ちで、驚かせてやったの!」

エルサイスはにもを、扱いやすい単純な人だと思っていたが、それは大きな勘違いだった。

「(とんだじゃじゃ馬だ。)」

こんな強烈な反撃をくらえば、それはもふだっておかしくなるだろうなと、エルサイスは思った。

「でもね、もふはなーんにもしてこなかった。好きも嫌いも言わないし、近づいてもこないし、離れてもいかない。」

にもはため息をついた。

「やっぱりもふは、私がなにしようと、どうとも思ってないんだよ……。」

にもともふは、大きくすれ違ってしまっていた。どっちもお互い好きなはずなのに、それがまったくうまく伝わっていない。

「にもさん」

「ん?」

エルサイスはにもを見つめる。こうなれば、一か八かだ。

「汗疹の薬が出来たら、もふさんにこう言うんですよ。」

エルサイスはそう言って、にもに小さな声で、耳打ちした。

 

 

 

連邦の宿でツインルームを隣同士で押さえて、そのうちの1つに、4人は集合していた。

「おかえりー。」

先に帰っていたクローバーともふが、エルサイスとにもを迎え入れる。

「こっちの薬はできてるよ。そっちは?」

「こっちもできてるよ。」

クローバーの問いかけに、エルサイスは小さなガラス瓶をバックから出した。

にもともふは、お互い無言のまま、微妙な距離を取っている。

「ほら、瓶に出来た薬入れろ。」

クローバーはエルサイスから小瓶を受け取ると、もふに渡した。もふは何も言わずに、乳白色の薬を瓶に詰めていく。

部屋全体が真空パックされているような、なぞの緊張感が流れていた。その空気に耐えられなくなったクローバーは、エルサイスにそっと近づくと

「一体これはなんなんだ。」

と耳打ちする。

「まぁまぁ見てなって。」

エルサイスは軽い返事をする。

「できましたよ。」

薬を詰め終わったもふが、瓶をクローバーに渡そうとすると、にもが

「あ、あの!待って!」

と、割って入る。

「ん?」

クローバーともふは、首を傾げながらにもを見る。

「あの……その……もふに塗ってもらいたい!」

にもの言葉にクローバーともふは目を丸くする。特にもふは、しばらくの間固まってしまうほど驚いていた。

「ほら、どうするんですか?もふさん?」

エルサイスが面白がるように、もふに言う。ふっと正気に戻ったもふは、エルサイスの策略を瞬時に理解し、呆れたようなため息をついた。

「エルさんて、意外に世話焼きなんですね。」

「なんのことかな?」

とぼけるエルサイスを見て、もふは笑った。

「本当、変なコンビですよ。あなたたちは。」

もふはそう言いながら、にもに近づくと、その手を取った。

「それでは僭越ながら、背中に薬を塗らせていただきますよ。レディ。」

「うさんくせーな。」

サッと仮面を被ったようなもふの態度に、クローバーは正直な感想を述べる。

「大丈夫ですよ。クローバーさんの言葉は忘れていません。」

もふはどこか覚悟したような真剣な目で、クローバーを見た。

クローバーは短くため息をつくと

「にもちゃん泣かせたら許さねーからな。あと、変な気起こすなよ。」

と、もふ釘を刺し、エルサイスとともに、2人で部屋を出ていく。

「にもちゃーん!隣の部屋にいるから、何かあったら壁叩いてね!助けにくるよ!」

部屋を出る直前、クローバーがにもにそう呼びかけた。

「はーい!」

元気に返事をするにも横で、もふは身震いする。クローバーの腹パンは、もうすでに、もふのトラウマになっていた。

「さて、にも、俺後ろ向いてるから、上着を脱いでベットにうつ伏せに寝て。準備出来たら言ってね。」

2人が出ていくと、もふはそう言って、にもに背を向けた。にもはそれを確認すると、いそいそと服を脱ぎ始める。

もふは薬の瓶を握り締めながら、クローバーから言われたことを考えていた。

属性に囚われない、にもの存在そのものを好きになれと言われても、もふはピンとこなかった。

にもは、生意気で、ポンコツで、頑張り屋で、かわいい女の子だ。それらはいえばただのにもの属性だけれど、その1つ1つが集まって、今のにもの存在を形取っている。

では、にもの属性をそのまま引き継いだ男が現れたら、もふは好きになるだろうか。そう考えた時、答えはNOだった。

もふが好きになった男は、がっしりした体つきで、年上の、物腰の優しい人だ。にもとは似ても似つかない。

結局それが、もふが、にもの存在そのものを好きな証明になっていた。

にものあとに、もふの理想の男が現れて、そっちを好きになったとしても、それは相手が男だからでも、にもが女だからでもない。もふ自身が好きだから、好きなのだ。

結局もふは、男だとか、女だとか言い訳して、逃げていただけだった。先に男を好きになっ自分が、本当に女を好きなれるのか、ただ不安だったのだ。自分の気持ちが、正しいのか、真実なのか、わからないまま誤魔化して、ここまできてしまっていた。

「いいよー。」

にもが準備OKの合図を出す。

そんな誤魔化しは、今日で終わりにしよう。

そう覚悟を決めたもふは、言いたいことをまとめながら、ゆっくり振り向く。

「え!?はぁ!?これ……酷い!」

まとめていた言葉が全部吹っ飛ぶくらい、にもの汗疹は酷い状態だった。赤いプツプツが、背中の真ん中辺りにぶわぁと広がっていて、所々掻きむしったあとで血が滲んでいる。

「にも……これはダメだよ……。」

「姉御にも、まったく同じこと言われた……。」

にもはバツが悪そうに、枕に顔を埋めた。

「ちょっと染みるかも。」

もふはあまりの酷さに顔をしかめながらも、にもの背中に、丁寧に薬を塗っていく。

「にも。」

「ん?」

「ごめん。」

「何が?」

もふは言葉を続けることができなかった。いざとなると、なんと言葉を紡いだらいいのか、全然わからない。今までずっと向きあってこなかったことを、もふは本当に後悔した。

「ねぇ?もふ?」

黙ってしまったもふに、にもが呼びかける。

「ん?」

「私のこと好き?」

「す、好きだよ!!」

もふは、食い気味にそう返す。誤魔化しではなく、本心からそう言ったが、にもにちゃんと伝わるか不安だった。狼少年だ。今までのらりくらりとかわしてきたことのツケを、今払っている。

「そっかぁ……。」

にもはそう言うと、安心したようにふにゃっと笑った。幸せそうな笑顔だった。

もふは胸が熱くなるのを感じていた。たった今、確かに、もふの心は、にもの笑顔に救われたのだ。

「ねぇもふ?」

「んー?」

「キスして!」

にものお願いに、もふは戸惑う。でも、ここで誤魔化したらまた振り出しだ。

「いいよ。」

もふは覚悟を決めると、息を大きく吸ってから、ゆっくり顔を近づけ、にもの頬にチュっと短いキスをする。

「はい。おしまい。」

そう言いながら、顔が赤くなるのを感じ、顔を見られたくないもふは、にもが起き上がらないと見えない角度に素早く避難する。

「えー!?口にして!」

調子にのってわがままを言うにもに、もふはため息をつく。

「今はダーメ。」

「今は?」

「今は。」

それがもふの精一杯だった。

「仕方ないなぁ……。」

にもはそう言いながらも、どこか嬉しそうだ。

もうにもは、自分の思い通りにならないだろう。もふはそう感じていたが、後悔は無かった。もうコントロールはできないし、したくない。これからは、2人で舵を取っていくのだ。

どこに向かうのか、何が待っているのか、検討もつかないが、以前に比べれば、2人の目指す先は明るかった。

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