アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
クローバーとエルサイスが中心のお話です
前回までご協力頂いた、にもさんのお話ではないのであしからず
クローバーとエルサイスは、にもともふの隣の部屋で、自由にくつろいでいた。
「もふさんと話してどうだった?」
「んー?どうもしないさ。」
エルサイスにそう聞かれたクローバーは、面倒くさそうに返事をしながら、ベットに寝っ転がる。
「ただはっきりしたのは、私はあいつが嫌いってことだけだな。」
エルサイスはクローバーの横に座りながら、苦笑いを浮かべる。
エルサイスは、昔もふが男を好きになったことがあるのを知っていたし、そしてそのことが、にもとの関係のブレーキになっているのも分かっていた。
その辺を、男でも女でもないクローバーなら、救えるだろうと思って、相談役に推したのだ。
「先に男を好きになったから、その後女を好きになったらダメなんてこと、あるわけねーのに。男だろうと、女だろうと、誰をいつ好きなったって、そいつ自由だろ。結ばれるかは別として。」
「クロはそう言うけどさ、世の中は、男は女を、女は男を必ず好きになるって、当たり前のように思ってる人で、いっぱいなんだよ。」
クローバーはエルサイスにそう言われて、うんざりした顔をする。
まったく馬鹿馬鹿しい話だった。
世間は、十人十色とか、個性を大事にとか、そんな言葉を吐いておきながら、実際ちょっと外れた人が現れると、認めなかったり、排除しようとしたりする。
もふだって、最初自分では、おかしいことは何も無いと思っていたのかもしれない。でも、日々世間から与えられる偏見に満ちた意見や眼差しに、ずっと晒されていたら、男を好きになった自分が特殊なのでは?と思っても仕方がないだろう。
クローバーにとって、男が男を好きになることは、何ら特殊なことではなかったが、もふの中でそれは、周りと違う特殊なことになっていて、その固定概念が、今のにもとの関係を鈍らせていた。
クローバーは、もふのその固定概念を一蹴してもふの中で詰まっていたパイプをキレイにしただけだった。
「まったく、くだらない話だよ。」
クローバーはそう言うと、目を瞑った。エルサイスはその隣に寄り添うように寝転ぶ。
「なんだよ。あっちいけよ。」
クローバーは目を瞑ったままエルサイスに言う。
「冷たいなー。」
エルサイスはどける気は無いようだった。
しばしの沈黙。
エルサイスは寝転がるクローバーを観察していた。真紅の髪は窓から差し込む光に透けて、美しいオレンジ色になっている。金色の目は閉じられていて、髪と同じ赤い色のまつ毛が、白い肌に映えていた。そして、柔らかそうな唇はほんの少しだけ開かれ、規則的な呼吸を繰り返している。
「ねぇ?僕もクロとキスしたい。」
「はぁ?」
エルサイスの言葉に驚いたクローバーは、慌ててベットから飛び起きると、警戒した表情で、彼を見た。
エルサイスはニコニコした笑みを浮かべるだけで、冗談なのか、本気なのかわからない。
「なんだよ急に。」
「にもさんと、もふさんがキスしたって聞いたからさ、僕もしたいなぁって。」
エルサイスは、にもからキスの話を聞いたとき、驚いたと同時に、多少のショックを受けていた。自分ともふは、似たもの同士で、同じような位置にいると思っていたのに、随分先を越されてるような気分になったのだ。
「誰が誰とキスしようと、お前にも、私にも関係ないだろ。」
クローバーは呆れ顔でエルサイスに返す。
「ねぇダメ?」
「無理。」
甘えた声を出すエルサイスを、クローバーが一蹴する。
「嫌?」
「ダメとか、嫌とかじゃない。無理。」
クローバーはそう言うと、また寝転がる。
男でも女でもないクローバーだからこそ、そういう行為に抵抗があった。
「キスとかしてる自分が受け入れられない。気持ち悪い。無理。」
クローバーはそう言いながら、寝返り打って、エルサイスに背を向ける。
「そっかぁ。」
エルサイスはそう漏らす。残念がる様子も、怒る様子もなく、ただ「そいうのものか」と流すような感じだ。
男も女も関係ないと言いながら、クローバーこそ、それにこだわっていた。
男のエルサイスとキスするのは、女の自分だ。クローバーは、自分が『女』になるのが恐い。
「まぁ、嫌とかよりは、無理の方がましかも。無理じゃなくなったらできるってことだしね。」
「無理じゃなくなったとして、なんで自分ができるって思うんだよ。私だって相手は選ぶ。」
「え?僕以外にいるの?」
「お前のその謎の自信はどこからくるんだ……。」
クローバーは呆れたため息をつく。
「そもそもお前も含め、誰も候補じゃない。」
「それはこれからみんなにチャンスが、つまり僕にもチャンスがあるってことだね。」
エルサイスのこの超ポジティブ発言は、ふざけているのか、真面目なのか、クローバーにはまったく見当がつかない。
当のエルサイスは半分ふざけて、半分本気だった。クローバーの『初めて』は絶対に自分がもらうと、勝手に決意していたが、そんな時がくるとは、エルサイスでさえも想像もできない。
「無理じゃなくなる日なんてくるのかね?」
クローバーが他人ごとのように呟く。
「くるんじゃない?そのうち。」
エルサイスの返しも適当だ。
俺ではなく私と言った日、サラシを外した日、スカートを履いた日、露出の多い服を着た日、髪飾りを買った日。その日がくるまでは、押し込めて、嫌悪したり、我慢したり、見ないようにしていたことをする日は、いつも突然やってきて、いつのまにかクローバーとって、当たり前の日常になっていった。それと同じように、キスをする日がくるかもしれない。
でもそれは、可能性の話であって、今のクローバーはまだまだ受け入れられそうになかった。
「いや、無理だな。無理。」
クローバーはそう断言すると、エルサイスに背を向けたまま、目を閉じた。エルサイスは苦笑いをする。
クローバーは、男に体を触られるのが恐かった。エルサイスにでさえ、急に触れられると、一瞬体がこわばるし、他人が触れば、瞬時に反撃せずにはいられない。
いきなり押し倒されたり、上に乗られたり、複数人に囲まれたり、そんな仕打ちを、クローバーは騎士の養成所で受けた。クローバーは強かったし、アジーロも用心棒のようにくっついていたので、肉体的な大きな被害はなかったが、だから無事だったという訳ではない。その体験は、クローバーの心に深い傷を残した。
この傷が、いつどうやったら癒えるのか、クローバーはわからなかった。
エルサイスは、クローバーにそんな過去があるとは知らないが、クローバーに触れると、一瞬力が入ることは感覚的に知っている。エルサイスはクローバーがそうなる理由がわからなくとも、無理にクローバーに近づかないようにしていた。挑戦はするが、嫌だと言われればすぐ止める。
エルサイスはそうやって、クローバーのペースで距離を縮められるようにしていた。それはクローバーのためであり、他人と真剣に関係を築いたことの無い自分のためでもあった。舵を他人任せにしておくのは、思いの外楽で、エルサイスはやめられそうになかった。
にもともふも、クローバーもエルサイスも、それぞれに、それぞれの関係性や、距離の取り方があって、そこに正解ない。
誰かが、部屋ドアをノックする音がする。
「はーい。」
無言のクローバーに代わって、エルサイスが返事をする。
「姉御?一緒に夜ご飯食べに行こうー!!」
ドアの向こうから、そうにもが、機嫌のよさな声で呼びかけてきた。
「うまくいったっぽいね。」
「あぁ。」
エルサイスの言葉に、クローバーは気のない返事をする。
「ご馳走しますよー。」
もふの声に、クローバーはピクっと反応を見せた。
「どれ、もふの財布を空にしてやるか。」
クローバーはそう不敵な笑みを浮かべると、起きあがって支度をする。エルサイスは笑った。
どのパートナーにも、正解はない。正解がないからこそ、誰もが1人1人真剣に悩んで、向き合って、関係を築いていく。
クローバーとエルサイスも、にもともふも、迷ったり、遠回りしたりしながら、2人だけの道を歩んでいくのだった。
話のストックがゼロになったので、しばらく更新をおやすみさせて頂きます(〃・д・) -д-))ペコリン
今月は中々時間が取れず筆が進みませんでした…。
1週間後を目安に、また更新していきますので、よろしくお願い致しますm(*_ _)m