アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第45話 魔王城

私は目の前に広がる怪しげな建物を見て、首を傾げた。

ピンクのステンドグラスで縁取られた門を通って奥まできたら、不思議な場所にたどり着いてしまった。

「派手だな。」

私は建物外観を見渡す。

3階建て位はありそうな大きな建物の上からは、蜘蛛の巣のようなものが放射状に伸びていて、怪しい雰囲気を醸し出している。窓には門と同じピンクのステンドグラス。妖艶としたこの建物は、家と言うより、館とか、城と言った方がいいかもしれない。

「ここ、どこ?」

「さぁ?」

エルサイスの返事は適当だ。

「世界地図出せよ。」

「地図にない冒険をしようよ。」

エルサイスはそう言ってニッコリ笑う。何か誤魔化しているときの顔だ。すぐわかる。

「誤魔化してんじゃねーよ。」

私が指摘すると、エルサイスは困ったように頭をかく。

「クロ、本当のこと言っても怒らない?」

「別に。」

「迷いました!」

エルサイスはそう言うと笑った。

まったく笑い事ではない。私は呆れたため息をついた。

ナビゲーションはエルサイスの役目だ。エルサイスはいつも私の少し前を歩き、地図を見て、次の目的地に案内してくれる。だが、今回は珍しく失敗したらしい。

別に目指すところがあったわけではない。ただ3国国境付近でネギの採取をしていただけだったのだが、ウロウロしているうちに、来たことのないマップに入ってしまったようだった。

「迷ったなら迷ったでいいから、早くそう言え。」

途中で言ってくれれば、奥に進む前に引き返すこともできたはずなのに、とんだ手間だ。

「何か失敗したの初めてだから、どうすればいいのかわからなくてー。」

エルサイスはそう言いながら地図を広げ、メガネをかけ直す。現在地を割り出そうとしているらしい。私も一緒に地図をのぞき込む。

「うーん……。今いるのは魔王城かな?絵がこの建物に似てるし。」

エルサイスは地図の端を指さす。古ぼけて黄ばんだ地図は、エルサイスの手で、ところどころ補修してあった。使い込まれている感じがする。

「ついでだし、寄っていく?」

「どこに?」

「魔王城。」

エルサイスにそう言われて、私は魔王城を見上げる。誰かが住んでいる気配はあまり感じない。

「まぁ、それもいいか。」

エルサイスが言った「地図にない冒険」とやらをしてみるのも悪くない。

私は紫色の池にかかった橋を渡り、魔王城の扉を開けて、中に入った。

中には先客がいた。ユーキとカレンだ。この2人とは、教会で不老不死の洗礼を受けた時期が一緒で、旅の途中何度か顔を合わせたことがある。

私は、うだつのあがらないヘタレなユーキが大嫌いだった。偉そうなくせに、言い訳ばかりで、弱くてダサい。カレンはしっかり者で、そんなユーキを献身的に支えているが、甘やかしが過ぎると、私は思う。エルサイスだって、私をそんなに甘やかしはしないだろう。

2人の前に立ちはだかるのは、どこかで見たような魔物だ。

「フハハハ、ここまでよく来た、勇者よ。ようこそ、魔王アスタナの城へ。」

「あれ、炎の洞窟で解放しちゃった魔物だね。」

エルサイスが私に耳打ちしてくる。

ライオンのような鬣、4本の角、鋭い爪。猫のような出で立ちのこの魔王は、リーヤンのペンダント事件のとき、私たちが宝箱の封印を解いてしまい、中から出てきたやつだ。

すぐに退治したが、魔王は死なない。また復活して、ここに出てきたと言うわけだ。

「ここまでの死の旅路、よくぞ生きて歩んで参った。誉めてつかわそう。しかし、我に勝てるかな?」

魔王アスタナは、ユーキとカレンに、大層な口上を述べる。

「ち、陳腐な口上じゃないか。でも、僕の退魔の剣で一撃だよ。ねぇ、子猫ちゃん。」

ユーキはそう言いながらも震えている。本当にダサい野郎だ。私はうんざりしたため息をついた。

「迷子になっただけだと思ったら、本当はここを目指してたんですねぇ。さすが勇者様。」

「僕も、僕もここを目指してたんだよ。」

エルサイスがカレン言葉に便乗する。

「いいから、わかった。うるさい。」

そうアピールしてくるエルサイスが、心底面倒だった。

「大口を叩くからには楽しませてくれ。そして死んでから黄泉路で後悔するがいい!」

「こ、後悔するのは、ど、どちらだろうな。君に地獄の一丁目行きの切符をあげるよ……!」

弱いやつほど、よくしゃべる。そんな言葉が頭をよぎった。この先の戦いに、興味がわかない。きっとつまらないと予想できた。

「やぁ!」

ユーキがアスタナに切りかかるが、シールドに阻まれてダメージが出ない。

「あれ魔王の特殊能力?」

「いや、ただ魔王の防御力を、ユーキの攻撃力が超えてないだけ。」

エルサイスの質問に、私は淡々と答える。弱すぎて話にならない。

「こんなものか!」

アスタナは腕を払ってユーキを退ける。

「うわぁあっ!」

弱々しい悲鳴を上げるユーキ。

「無念だ……子猫ちゃん……僕の骨を拾ってくれ……。」

ユーキはそう言いながら気を失ってしまった。何という茶番だろうか。私は呆れ返って言葉が出ない。私の後ろで、エルサイスはおかしそうに笑っていた。

「次は誰だ?」

アスタナはそう言うと、私たちをみた。

「今度は貴様か?どこかで見た顔だな。」

「クソボケ魔王は、自分を倒した人の顔も覚えられんのか。」

悪態をつく私を、エルサイスが「まぁまぁ」と言ってなだめる。

「次の勇者はなかな骨がありそうだ。貴様も我を倒しに来たか。」

「勇者って、本来は勇気のある人だよね。それがなんで、魔王を倒す者の意味になったんだろうね?」

エルサイスが、急に謎の考察を始める。私にとっては、どうでもいい話だ。

「さぁね。」

とだけ返しておく。

「強い者を恐れ、忌み嫌う。それがか弱き人間の業よ。そうして嫌われるのも魔王の宿命。貴様らの恐怖、怒りを甘んじて受け止めよう。遠慮なく我にぶつけよ。」

ズレている。この魔王はかなりズレている。私は強い者を忌み嫌うどころか、大好きなのだ。そういうところでは、私は、か弱き人間ではないのかもしれない。魔王がなぜ嫌われるのかは、私にはわからないが、少なくとも私は、この目の前の魔王に、恐怖も怒りもまったく感じていなかった。

「さぁ、来い!」

アスタナがそう凄む。私はエルサイスをチラリと見るが、エルサイスは肩を竦めるだけで、何にも言わない。

勝負を申し込まれたなら、受けるのが私の礼儀だが、こんなにも燃えない戦いは、正直面倒だった。

「まぁいいよ。エル、待っといて。すぐ終わらせる。」

私は前に進み出て剣を構える。ユーキが邪魔だったので、カレンに目配せしてどかしてもらった。

「さてと、ウォーミングアップといきますか。」

私はそう呟くと、アスタナに切りかかった。

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