アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第47話 嘘つきユーキ

なんとか魔王城出て、連邦の城塞都市まで戻って来ることができた。なぜ道に迷ったのか、自分でもわからない。僕は改めて地図を見直すと、首を傾げた。

「もういいよ。帰ってこれたんだし。」

クローバーはそう言いながらあくびをしている。怒ってはないようだ。ただ、呆れている感じはある。

「次迷ったら早目に言え。そんときは私も一緒に考えるから。」

目からウロコだった。ナビゲーションは僕の役割で、僕が全部何とかしなければと、いつのまにかそう勝手に思い込んでいた。でも、旅は2人のものなのだ。一緒に考えたって問題ない。むしろ、それが普通なのかもしれない。

僕はなんだか嬉しくなって、後ろからクローバーに抱きつきながら

「ありがとう!」

と言った。案の定、クローバーの腹パンが飛んでくる。

「ぐふぅ……。」

それなりに覚悟して構えていたとはいえ、痛い。

「急に抱きつくな!」

そう怒る顔もかわいらしいと、お腹を押さえながら思う。

「僕は伝説の勇者ユーキ!!」

朗々とした声に、僕もクローバー顔をあげる。宿屋に向かう途中の道で、ユーキが町民に向かって大声で演説しているのが見えた。

「あいつ、カレンがいないと、ホントただのクズだな。」

クローバーの暴言に、僕は苦笑いを返す。

ユーキは、クローバーの嫌いなタイプど真ん中をいっている。偉そうな大口を叩くが、弱くて、努力もしない男。クローバーは、口だけで、実力がないやつが、大嫌いなのだ。

「地下洞窟に封印されていた魔王は、僕の手で滅ぼした。僕の鋭い一撃が敵を塵にして、ゼロに帰したのだ!」

ユーキはそう大見得を切る。

「すげぇな。」

聴衆たちが、目を輝かせながら、感嘆の声を漏らす。

そもそも魔王は死なないのだから、滅ぼしても、ゼロに帰してもいないし、さらに言うならば、ユーキの一撃は弾かれて、かすりもしなかった。ユーキはとんでもない嘘を、いくつもついている。

「手柄取られたけど、どうする?」

「興味無いな。勝手に言わせとけ。」

クローバーはうんざりしたように、ユーキを見ていた。大嫌いもここまでくると、無関心になるようだ。怒りすらわかない。

僕にとっては、ユーキもカレンも、どうでもいい存在だ。目の端に時々映る景色の一部のように、特段気にかけるものでもないもの。僕らに実害がなければ、彼らは彼らで、好きにやってればいいと思っていた。

「それでそれで!?」

聴衆に先を尋ねられたユーキは、腕を組み換え、目を瞑って、神妙な顔で話し出す。なんだか演技くさい。

「魔王には人間の手下がいた。見るからに愚鈍そうだが、凶悪な刃を心に秘めている……。」

誰のことだろう?などと、呑気に考えていたら

「それがヤツらだ!」

とユーキが言って、目を見開き、芝居がかった仕草で、僕とクローバーを指さしてきた。

「はぁ?」

突然のことに、クローバーは呆れた顔でそう返す。一体何が起こっているのかさっぱりわからない。

一瞬遅れて、僕は

「(してやられた……。)」

と後悔していた。油断して、完全に先手を取られてしまっていた。

これは一種の口封じだ。本当に魔王を倒したのはクローバーだった。それを僕らが町民たちに吹き込んだら、ユーキの立場が無くなってしまう。だからユーキは先回りして、僕らを魔王の手下に仕立て上げることによって、町民たちからの信用を失わせたのだ。

くだらない嘘のため、ここまでするユーキの執念に、僕はゾッとする。理解できないどころか、得体がしれない。

「お前、今まで散々見逃してきたけど、今回ばかりは見逃せねーなぁ。」

クローバーが怒りに燃えた目で、ユーキを睨みつける。ユーキは一瞬怯んだが、今は聴衆が味方についている。

「違うというのか?だが、あんたらと魔王、ずいぶん親しげだったじゃないか。」

怯みながらも、ユーキはそう反論する。

「アスタナは知らんが、魔王ちゃんは私の友達だ。友達で何が悪い?魔王ちゃんは無闇に人を傷つけたりしない。いい魔王だ。」

クローバーがそう言うと、聴衆たちはザワついた。きっと彼らには、理解できない話だろう。『魔王=悪』という固定観念縛られてるのだ。

「人間の姿をしてるけど、本当は魔王の手下の魔物なんだろ?」

「あんたが魔王の手下だって?」

「嘘でしょ?」

聴衆が混乱を見せる。ここは分が悪そうだ。避難しようと、クローバーの肩に手を置いて引こうとしたが、振り払われてしまう。まだ撤退したくないらしい。

「悪い人ほどい人に見える。いや、いい人ぶるんだ。」

「私はいい人ぶったことなんてねーよ。」

クローバーの金色の目が光っていく。怒りのボルテージがじわじわ上がっていくのが、手に取るようにわかった。

「さぁ、ここで一戦やるか、ここを去るか、2つに1つだ!」

ユーキの安い挑発に

「上等じゃねーか!そのうるせぇホラ口、2度と叩けねーようにしてやる!」

といって、クローバーが剣を抜こうとする。聴衆から悲鳴が上がった。一部の町民が、兵士を呼びに行く。

「クロ。ダメだよ。」

僕はクローバーの腰に手を回し、全力で抑える。

「なんでだよ!1回ぶちのめしてわからせてやらねーと、懲りねぇだろうが!」

瞳孔の開き切った目で、クローバーが僕を睨み返してくる。

「彼は何をしても懲りないよ。」

城塞都市で揉め事を起こすのは危険だ。権力の力で、何をされるかわからない。それに今ユーキには大勢の聴衆が味方についている。たとえ剣で勝ったとしても、罰を受けるのは僕たちだ。

「クロ。」

剣にかけたクローバーの手を掴む。クローバーは僅かな抵抗を見せたが、すぐ力を抜いて、諦めたように柄を離した。

「くっそ!!」

クローバーが地面を蹴りながら、悪態をつく。

「やっぱり……この人の言うことは本当みたいだぜ!」

「魔王のしもべは出ていって!」

「出てけ!」

聴衆たちが、押し寄せてくる。危険を感じた僕は、ユーキを睨んだまま動かないクローバーを肩に担いだ。

「わぁ!何すんだよ!離せ!おろせ!」

突然のことに混乱しながら、そう暴れるクローバーを何とか押さえ込んで、僕は城塞都市の門の外までダッシュした。

 

 

 

僕はクローバーを地面におろすと、そのまま膝をついて、肩で息をした。たった数百mの距離だが、暴れるクローバーを担いで走るのは、中々骨が折れる。

呼吸が苦しい。額には汗が滲んでいた。

「なんで止めたんだよ!」

クローバーはそう言うと、僕の肩を持って強く揺さぶる。

「ちょっ……ちょっと待って……休ませて……。」

僕は疲労でフラフラになりながらクローバーを抑える。

「くっそ!あいつ!ぜってーいつかぶっ殺す。」

「気持ちはわかるけど、殺さないで……。」

バックから水筒をだすと、僕はそれを一気にあおった。疲れた体に冷たくておいしい水が染み渡る。

「気にしない方がいいよ。相手にするだけ無駄さ。」

僕は呼吸を整えると立ち上がった。まだ少し足がフラフラする。疲れた。

「あんなコケにされたのに、気にしないとか無理だろ?」

クローバーは抑えきれない怒りを、地面を蹴ってぶつけていた。まるで地団駄を踏む子供のようだ。

「よう!うかねぇ顔してるじゃねぇか、友人。」

急に現れた声に、僕とクローバーは後ろを振り返る。声の主は、フェンダークだった。

「なんだよ。友人って。てゆーか、お前この前酒場で飲食代払っていかなかっただろ?今すぐ金出せ。」

クローバーが急にカツアゲまがいのことを始める。飲食代は、カッツとレイカの話をしたときのことなので、もう随分前のことだ。よく覚えているなと感心してしまう。

「冷たいな。親友なのに。」

「お前が?親友?笑わせんな。」

クローバーが呆れたように鼻を鳴らす。

フェンダークの登場で、クローバーの怒りは少し気がそれたようだ。表情が幾分柔らかくなっている。僕は少しほっとした。

僕は人の顔から感情を読み取るのが得意だった。望まざるとも、自分の身を守るために、幼い頃からそう訓練してきたのだ。今ではそれが立派な盾にも、剣にもなる。

「なにかあったのか?」

不満そうなクローバーのかわりに、僕が状況を説明する。

「なんだ、命を張って魔王を倒したのに、助けたやつに裏切られたってか?」

「まぁ簡単にまとめるとそうですね。」

なんともくだらない話だった。

「そんなこたぁ、よくある話だ。恩を仇で返されるなんてことはな。」

「私は命を張ったわけでも、あいつを助けたわけでも、恩を売ったわけでもない。別に感謝しろとは言わねーよ。でも、嘘で貶められるのは我慢ならねぇ。」

フェンダークはクローバーの肩に手を置くと「まぁまぁ」と落ち着くよう言った。クローバーは、不愉快そうにその手をすぐ払いのける。僕はなんだかそれが面白くて、笑ってしまう。

「そうそう、こういう時はな。笑うんだよ。」

笑う僕を見たフェンダークがそう言う。

「バカバカしいだろ?ああいうヤツらが人間だって思うことが。」

フェンダークの言葉に、クローバーが首を傾げる。

「だが、魔物がピーピー言ってたって、気になんないだろ?それと同じだと思えば、笑いがこみ上げてくるってもんだ。」

僕は「なるほど」と納得する。相手を同じ人間だと思わなければ、怒りもわかないっというわけだ。

「私にはよくわからん。笑えない。」

クローバーはそう言いながら腕を組んだ。

「みんな魔王ちゃんを悪者にしたがるけど、私にしてみれば、あんな当たり前の顔して、くだらない大嘘ついて、人を貶めるヤツの方が、よっぽど醜悪に見えるんだよ。魔物と同じなんておこがましい。人間の方が魔物よりもずっと汚い。」

クローバーの言い分もよくわかる。どっちにしろ、そんなやつらは、相手にするだけ無駄なのだ。フェンダークのいうように、笑い飛ばして、次に進んだ方が時間の使い方として、有効だ。

「俺たちも同じ人間なんだよ。だから、笑うべきなんだ。恥すべき人間の存在に。」

フェンダークの割には、中々平和的だなと思う。なんとなく過激なところがあると思っていたが、そうでもないらしい。

フェンダークという人物は、僕でも本当によくわからない。おそらく色々なものを隠し持っている気はするが、そのどれもが一切見えてこないのだ。中々一筋縄ではいかなそうだ。

今のところフェンダークは僕らの味方ように見えるが、人はいつどうなるかわからない。ユーキだって、少しおかしいが、無害だと思って油断していたら、このしっぺ返しを食らった。フェンダークのことも注意深く見ていくことにする。

「笑って流せたら、苦労しねーよ……。」

クローバーは笑うよりも、断罪したい派なのだろう。悪くは無いが、危険だ。正しいことが、正しいと評価されるとは限らない。断罪の是非は、僕らだけで決められるものではないのだ。

「まぁ、頑張れよ、正義の味方。」

フェンダークはそう言って手をあげると、去っていった。

「私は正義の味方じゃない!」

去っていくフェンダークの背中に、クローバーがそう叫んだ。

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