アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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このお話は番外編です
現在連載中のストーリーとは、前後の繋がりが一切ありませんのであしからず


たまにはまったりと
机を破壊する勢いで悶えてみませんか?(_・ω・)_バァン…←


番外編~夏祭り~

参道は、たくさんの人が行き交っていた。人間、魔物、そのどちらでも無いもの。提灯が、赤く淡い光をチラチラと放ちながら、現し世と隠世の境界を曖昧にしていく。色とりどりではあるが、みんな揃いの極東の地の民族衣装といわれる『浴衣』に身を包み、それぞれに祭りを楽しんでいる。

「エル、私あれ食べてみたい。」

クローバーはそう言いながら、真っ赤で大きな丸い飴を指さした。

「りんご飴?おっきいなぁ…食べ切れる?」

「うーん……じゃぁ小さい飴にする。」

屋台には、拳大の大きな飴と、ピンポン玉大小さな飴が並んで売ってあった。

「その方がいいよ。飴でお腹いっぱいにしちゃったら、もったいないからね。」

エルサイスはりんご飴売りの魔物に『カタヌキ』を渡して小さい方の飴をもらう。

「ありがと。」

エルサイスからりんご飴を受け取ったクローバーは、嬉しそうに顔をほころばせると、大きな口を開けてガリリとそれを食べた。

甘い飴の中に、りんごの優しいし上品な香りがほのかに広がる。

「うん、美味しい!」

クローバーは口の周りを赤く染めながら、満足そうに笑った。それを見て、エルサイスも微笑む。

紺色の紫陽花柄の浴衣に身を包んだクローバーは、いつもよりも少しだけおしとやかに見える。赤い髪には、レースのついた黒いバレッタをつけ、金魚のかんざしが、涼しげに揺れていた。

エルサイスはクローバーにハンカチを差し出すと、口の周りを拭うよう言った。

「僕も何か食べようかな?」

「あれは?あのふわふわしたやつ。」

クローバーはハンカチで口を拭いながら、綿あめを指さした。心なしか目が輝いて見える。

「クロ、食べたいの?」

「あ、いや、そういうわけじゃ……。」

エルサイスに心の内を見抜かれたクローバーは、照れたように頬を染め、目を逸らす。エルサイスは、それを見ておかしそうに笑うと

「半分こしようか。」

と言って、カタヌキと綿あめを交換した。こんなに食欲旺盛なクローバーは久々に見たので、エルサイスはなんだか嬉しくなった。

エルサイスは藍色の無地の浴衣を着て、髪はいつものポニーテールではなく、右後ろ辺りで、シニヨンにしてまとめていた。結び目には、クローバーとお揃いの、金魚のかんざしが刺さっている。せっかくだからと、浴衣に合わせてクローバーがアレンジしてくれたのだ。

エルサイスは、虹色のふわふわした雲のような飴を受け取ると、それを興味深そうに見回した。

「すごいなぁ。これも飴細工の一種だね。熱で砂糖を糸状に溶かして、空気で冷まして綿状にしてるんだよ。機械の中がどうなってるのか見たいなぁ!」

クローバーは呆れた顔で、エルサイスのうんちくを聞いていた。こんな時までエルサイスの頭の中は、錬金術のことでいっぱいだ。

エルサイスは、綿あめに直接口をつけると、はむっと噛んで食べた。

「甘くて美味しいよ。クロも食べる?」

「うん。」

エルサイスは綿あめを少しちぎると、1口大に丸めて

「あーん!」

と言ってクローバーに差し出す。

「え?」

クローバーは嫌そうな顔をしたが

「そのまま口をつけると、顔がベタベタになっちゃうよ。」

とエルサイスに言われ、仕方なく口を開ける。

クローバーの少し恥ずかしそうな様子を、しっかり目に焼き付けながら、エルサイスはその小さな口に綿あめを放り込む。

綿あめは、クローバーの口の中に入った瞬間、泡のようにあっという間に溶けていった。

「んー!」

クローバーが口を閉じたまま、幸せそうな声をだす。その食感と砂糖の強烈な甘さが、くせになりそうだった。

「不思議な食感だね。」

「うんうん、ふわふわしてる。」

クローバーはそう言いながら、エルサイスの持っている綿あめを勝手にちぎって食べ進める。

「食べて、食べて。クロはいっぱい食べて少し太った方がいいよ。」

「エルはそればっかりだなぁ。世の中痩せたいやつであふれてるのに。」

「クロの健康のために。」

「自分の好みに近づけたいって思いもあるんじゃないの?」

「それは否定出来ない。」

そう笑うエルサイスを、クローバーは呆れた顔で見ていた。

すれ違う人々は、皆一様にどこか浮き足立っていて、高揚感にあふれていた。会場には太鼓や笛の祭り囃子が鳴り響き、賑やかだ。

人混みの中を、クローバーとエルサイスははぐれないよう気をつけながら、並んで歩いた。提灯の淡い光で、お互いがいつもと違い、どこか柔らかく見える。

「エル、あれ見て。顔がいっぱいある。あれ何?」

「ん?ああ、お面だね。」

「お面?」

「人や動物の顔を型どって、被るものだよ。ここには魔物のお面あるね。珍しい。」

エルサイスは、ゲルミのお面を1つ取って、クローバーの顔に合わせると

「うーん……なんか違うなぁ?」

と言って首を傾げた。

「ゲルミは嫌だよ。」

お面の向こう側から、少し不満げな顔を覗かせながら、クローバーが言う。エルサイスは笑った。

「ねぇ?私、あれがほしい。」

クローバーはそう言いながら、白い狐面を指さす。

「これ?」

エルサイスは、それを手に取ると、裏表をひっくり返しながら見回す。

「狐は、極東の地では、神の使いって言われてるんだ。動物と言うより、妖の一種だね。」

「あやかし?」

「うん、人間でも、魔物でもない。現し世のものならざるもの。隠世を生きるもののことだよ。」

「人間でも、魔物でもない?かくりよ?」

クローバーの頭には、クエスチョンマークが並んでいる。エルサイスの言うことは、難しくて、よくわからない。

「今度その手の話が書かれてる本を、貸してあげるよ。」

エルサイスは笑いながらそう言うと、お面屋の魔物にカタヌキを渡し、狐面と交換する。

「はい。」

エルサイスが狐面をクローバーに渡そうとすると、クローバーはそれを手で拒んだ。エルサイスは不思議そうに首を傾げる。

「被らないの?」

「エルに被ってほしい。」

「僕?」

クローバーの意外な要望に、エルサイスは目を丸くすると、狐面とクローバーの顔を交互に見比べる。

「貸して。」

クローバーはそう言って、エルサイスから狐面を受け取ると、少し背伸びをして、エルサイスの頭につけようとする。

「転んじゃうよ。」

足元はいつもの靴でもブーツでもない。下駄と呼ばれる、木をくりぬいて歯を作りつけ、はなおをすげた履物だ。

いつもよりもずっと不安定で歩きにくいこの下駄で、背伸びをするのは少し危険だ。

エルサイスはクローバーが届くようにと、少し屈みながら、彼女が転ばないよう、その腰に手を回し支える。

一瞬体を強ばらせたクローバーだが、すぐ狐面をつけることに集中する。右に左に角度を微調整しながら、エルサイスの頭にお面をつけた。

「うん。これでおっけー!」

クローバーは満足そうに頷くと、エルサイスから離れる。

「似合ってる?」

エルサイスが、確かめるようにお面をぺたぺた触りながら聞く。

「うん、いい感じ!」

クローバーはそう言いながら「うんうん」と頷いた。

エルサイスは、自分がどうなっているのか見えないので、少し不安だったが、クローバーの笑顔を見て、安心した。これだけ満足そうなら、きっと大丈夫だろう。

ドーンと大きな音がする。

クローバーとエルサイスは、思わず上を見た。空には大輪の花が咲き乱れていた。

「わーー!」

クローバーが歓声をあげる。

「花火だね。」

花火を見上げるクローバーの横顔を、エルサイスはチラリと盗み見る。

驚きと感動に見開かれた金色の目、口元は嬉しそうに笑っている。白い肌には、花火の光が反射して、赤や青や緑に、代わる代わる色づいていた。

ふと、エルサイスがクローバーの肩に手を回して抱き寄せる。

「わっ……と……。」

クローバーは咄嗟に、エルサイスをおしのけようと手を構えたが、その手を先回りしてエルサイスが掴む。

戸惑うクローバーに

「ダメ?」

と、エルサイスが甘えたような声で聞く。

クローバーの顔をのぞき込むように首を傾げ、困ったように眉を下げているが、目と口はどこかイタズラっぽく笑っていた。

どこをどうとっても、完璧な仕草に、クローバーは思わずエルサイスから顔を逸らした。

クローバーは、時々感じる、エルサイスのこの色っぽさとか、艶っぽさとか、そういうのが苦手だった。普段なら「はいはい」で受け流せるのだが、不意打ちで食らってしまうと、ドキドキしてしまう。祭りの雰囲気もあいまって、今回のはかなり強烈だった。

「クロ?」

追い討ちをかけるように、エルサイスがクローバーの顔をさらにのぞき込む。

「だ、ダメ……。」

想定していたより、かなり弱々しい声を出してしまったクローバーは、顔を真っ赤にして俯く。

「そっか。」

エルサイスはそう納得したように言いながらも、手に力を入れてクローバーを抱き寄せる。

「わっ!ダメって言ってるのに!」

クローバーが抗議の声をあげたが、エルサイスはどこ吹く風で微笑んでいる。

「(調子狂うなぁ……。)」

なぜか抵抗できない自分に、クローバーは戸惑い、頭をかいた。

「ほら、また上がるよ。」

エルサイスにそう言われ、クローバーは空を見上げる。

花火が、ドーンと大きな音を出しながら、夜空を何度も彩っては、パラパラ鳴って、あっという間に消えていく。

それは、ただただ、美しかった。

クローバーとエルサイスは、寄り添いながらそれを見上げていた。

そうして、夏の夜の祭りは、思い出となって、2人の心にしっかりと、刻まれるのだった。

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