アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
「神へ続く道の先は、本当に神様に続いてるの?」
そんなクローバーの疑問を解消するため、僕らは『その先』にきた。たまはそんな冒険も 悪くない。
『その先』には、高い高い塔がそびえたっていて、てっぺんは雲に隠れて見えない。本当に天国へと続いているかもしれないなと思う。
「首が痛くなりそう。」
クローバーはそう言うと、塔を見上げるのをやめて、苦しそうに、首をぐるぐる回した。骨がポキポキ鳴っている。
「これは本当に神様がいるかもね。」
「面白そうだ。」
クローバーがニッと笑う。
まだ見ぬ世界を冒険するのは、どんな時でもワクワクするものだ。
「おい、あんたは信者か?」
塔の入口へ続く階段を登っている途中で、怪しい集団に出会った。揃いの茶色の戦闘服に身を包み、ガヤガヤ何か騒いでいる。その中の1人の男が、こちらに話しかけてきた。
「信者?なんのことです?」
「……違うのか。」
男はほっとしたような顔をする。濃いキャラメル色のボサボサの髪が顔に垂れ下がり、目つきの悪い三白眼をチラチラ隠している。なんとなく、乱暴そうな印象がある。
「俺はクグツ、教団に奪われた家族を取り戻す活動をしているのさ。」
「教団?」
僕とクローバーは、顔を見合わせる。僕らが知ってる教団というのは、1つしかない。
「けど、あいつらはすげぇ門番を用意している。近寄ることすら出来ないんだ。」
「え、じゃぁ中に入れないの?」
クローバーは残念そうな顔をする。せっかく塔の中を探検しようと思っていたのに、出鼻をくじかれた思いだ。
僕らはクグツから少し話を聞いた。
この塔は『教団』という組織が、一括管理していて、中に入るにはその教団に入信しなければいけないらしい。ただ、このクグツや、ここに集まっている人々の誰もが、家族や知り合いが教団に入信し、帰ってこなくなったという事実がある。クグツは家族を取り戻す活動をしながら、この塔に近づく者全員に話しかけて、少しでも信者を増やさないようにし、教団の弱体化を狙っているようだ。
「うわー…。面倒そうだな…。」
クローバーがうんざりした顔をする。
「教団ってさ、あの教団かな?」
「うーん?どうだろう?」
僕は苦笑いを返す。クローバーが言っているあの教団とは、不老不死の村にいた、救済者たちのことだろう。あの人たちが絡んでいるとすれば、確かにクローバーの言うとおり、面倒そうだ。
「……とにかくだ。この先に行くのはやめた方がいい。恐ろしい目にあうぞ。」
クグツはそう言うと、活動を始めるのか、集団の中に去っていき、何やら指示を出し始めた。
「どうする?」
僕は肩をすくめながら、クローバーを見る。
「んー。まぁ「行くな!」って言われたら、行きたくなるのが、人の性だよね。」
僕は笑った。クローバーらしい回答だ。
「何がやばいのかまったくわからないけど、2人で行けば大丈夫だろ。」
クローバーは謎の自信をのぞかせると、入口へ続く石段を登っていった。
その途中で、今度は意外な人物に会う。
「エナ!?それにマナも!」
「あなたたち……!こんなところで会うなんて……。」
僕たちが驚いているように、エナたちもこちらを見て驚いていた。
「マナ、やっとエナと会えたんだね。」
クローバーがマナに声をかけると、マナはおかしそうに「ふふっ」と笑った。
「ようやく、エナを捕まえ……いえ、会えました!おふたりにはご心配おかけしました。」
エナのパートナーのマナは、スカイブルーの目を細め、栗色の髪を揺らしながら、嬉しそうに笑った。ゲルミの頭を型どった帽子が可愛らしく揺れている。
エナとマナは、パートナー同士なのに、よくはぐれてしまって、お互い1人で行動していることが多い。なんのためのパートナーなのか、僕にはよくわからない。
「あなたたちもまさか、知り合いがこの塔に?」
「いや、僕らたまたまここにきただけなんです。」
「この塔をご存じですか?」
マナの言葉に、僕とクローバーは顔を見合わせる。何か詳しい話が聞けるかもしれない。クローバーもそう思ったのか、僕に目配せをすると「コクリ」と頷いた。
「いえ、何も知らずにきたんです。」
僕がそう言うと、マナは塔について話し出した。
この塔のてっぺんには、神様ではなく、巫女が住んでいて、人生に1度だけ、どんな願いでも叶えてくれる。しかし、今はある宗教団体が管理していて、信者にならないと、巫女に会うことができなくなってしまったらしい。そこで願いを叶えたい人が次々と信者になっていくのだが、願いを叶えたという人を、誰も見たことがないのだ。
「怪しいなぁ…。」
クローバーの呟きに、僕も頷く。
願いを叶えたくて、教団に入信したら最後、どうなるかわからない。入口はあるのに、出口がない。この塔の中で何が起こっているのか、さっぱり見えないのだ。
「ねぇ、エル?」
「んー?」
「なんとなくだけどね、すごく嫌な予感がするよ。」
「奇遇だね、僕もそう思ってたところだよ。」
不老不死の村の時と、同じ匂いがする。あの塔の中で、何かおぞましいことが起こっているような気がするのだが、それはあくまで、気がするだけで、僕らの想像の域を出ない。確固たる証拠が1つもないまま、疑惑だけが深まっていく感覚は、不老不死の村で感じたものと似ている。
「俺たちの家族を返せっ!」
急な叫び声に、僕とクローバーはびっくりして目を丸くする。
「何?あれ?」
「家族や知り合いが『いのりの教団』の信者になっちゃった人が、ここに集まって、いつもこんな雰囲気みたいで……中に入るスキがまったくないんですよ。」
クローバーが聞くと、マナは困ったように眉を下げながら答えた。
「エナの行方不明になった弟がここにいるかもって聞いて来たんですが……」
「弟なんていたのか。初耳だな。」
エナとは中々長い付き合いだったが、家族の話をしたことはなかった。エナとはそんなに親しいわけでもないので、それはお互い様かもしれない。
「……あいつら邪魔!」
エナはツインテールの髪を揺らしながら振り向き、赤い目を不愉快そうに細めた。
確かに邪魔だ。
「俺たちの家族を返せ!」
クグツの声に「返せ!」と人々が続く。シュプレヒコールだ。
「お帰りください。さもないと、神罰が下りますよ?」
新たな声に、僕とクローバーはそちらを見る。
塔の門の前に、青年が立っていた。水色の目は優しそうで、金色の整えられた髪は清潔感があり、爽やかそうな印象だ。ひ弱な優男。誰もがそう評価しそうな出で立ちだが、あそこに立っているということは、彼がクグツの言っていた『すげぇ門番』なのだろう。
「あれが、すげぇ門番か?」
クローバーが首を傾げる。
「まぁ気持ちはわかるよ。でも、人は見た目じゃないから、油断しないで。」
僕がそう言うのを、クローバーは煩わしそうに手を振って遮った。「わかってるよ」と言いたげだ。
門の前で、クグツと教団員の青年は、押し問答を始める。クグツの「家族を返せ」に、青年は「教団に入信してください」としか返さない。ずっと話は平行線だ。
話の途中で、この塔が、徒歩で登れることを知った。いい情報だが、一体何階あるのだろう?僕はまた下から塔のてっぺんを見上げる。果たして本当に登れるのか、今はわからなかった。
平行線の押し問答の中、エナが前に進みでる。
「どうしたの?エナ?」
マナが心配そうに声をかけるが
「我が十六夜の欠片で固めし煌天の刃が忌まわしの堕天を討たん……。」
と、エナは意味不明な言葉を返す。
「まーた始まったよ……。」
クローバーがうんざりした顔をする。僕は苦笑いを返す。エナは本当によくわからない。そんなエナが、僕は嫌いだが、でもだからといってどうというわけではない。ただこの場をやり過ごすだけだ。
「力づくで通らせてもらうわ!私に力を貸して……!」
エナがこちら見て助力を願う。僕はクローバーを見て、お伺いを立てる。クローバーは困ったような顔をしながらも、デモンブレイド=アビスに手をかけ、参戦する仕草を見せる。
エナは別にどうでもいいが、やべぇ門番とやらには、それなりに興味があるのかもしれない。
「口で言ってもわからないようなら、体で教えないといけないようですね。さすが、低能な旧人類……。」
教団員の青年は、やれやれと言うように、手を広げたと思ったら、あっという間に黒い霧に包まれた。そして、次に霧の中から出てきたのは、爽やかさの欠けらも無い魔物だ。不揃いの歯、大きな鷲鼻に、ブツブツの肌。オーガ族と同じ系統の魔物。窪んだ両目の中に光る、水色だけが、元の青年の面影を僅かに残している。
「ここを通りたければ、私を倒してみろ!」
元教団員の魔物がそう叫び終わるか、終わらないかのうちに、クローバーは空中を舞い、魔物に斬りかかった。