アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第52話 プリン

世界が暗転し、ぐるぐる回る。暗闇の中、一筋の光を見つけ、私は手を伸ばす。

「旅の途中で倒れてしまったか、冒険者よ。だが案ずるな。汝には神の加護がかけられている。目を開けよ。」

聞き覚えのある声に、私はハッと目を開ける。公国の教会の神父、クリフが目の前にいた。

頭がクラクラする。久々の感覚だった。エルサイスが私のすぐ隣で、床に膝をつき、頭を押さえている。

私たちは死んだ。そして、公国の教会で復活したのだ。

「大丈夫?」

エルサイスが立ち上がりながら言う。

「うん、すまんな。持ちこたえられなかった。」

私たちはさっきまで、時渉りの塔を、徒歩で攻略していた。塔は4階から毎回魔物が出て、行く手を阻む。最初は難なく倒していたが、階を上がっていくごとに、魔物はどんどん強くなっていき、 20階を過ぎたあたりたから、きつくなり、30階を目前にして、私たちは倒れた。

「ごめん、回復間に合わなかった。」

「いや、あれは仕方ない。無理だ。」

カラアゲ3匹の連続火属性魔法攻撃に遭い、私は先に倒れた。そのあと残されたエルサイスもすぐやられてしまったのだろう。2人仲良く教会送りになってしまった。

私たちはクリフに軽く挨拶をすると、宿屋へと向かった。

「こんなもんかー。」

教会から出たところで、私はため息をついた。

「まぁ頑張った方なんじゃない?」

エルイスが頭を押さえたまま、疲れた表情でいう。

自分のレベル以上の魔物と戦うのは、体力もそうだが、精神力や集中力が、特に大きく削られる。力で押せない分、頭を使って攻略しなければならないからだ。作戦や分析力に長けているエルサイスの負担は、体を動かすだけの私よりも、ずっと重かっただろう。

「とりあえず、休もう。」

私は宿屋への道を急いだ。

あのドラゴンを見た日から、1週間ほど経っていた。1週間の間、私たちは装備やアイテムを整えながら、時渉りの塔の攻略に必要な知識を、他の冒険者にリサーチした。

誰に聞いても、パートナーと2人だけでの攻略ほぼ不可能と言われたが、自分たちの実力を知るためにも、挑戦しようと、とりあえず行ってみた。

そして結果は見ての通り惨敗だ。

やはり、てっぺんにいる巫女に会うには、今のところ教団に入信するしか方法はないらしい。

まだ、昼過ぎだ。公国は、マーケットに行く人、掲示板を見る人、雑談をする人などなど、たくさんの冒険者であふれていた。

「あ!くーちゃん!」

酒場の前で、ボンド『シルフィード』メンバー、ユイゼに声をかけられる。

「ユイちゃん久しぶり。」

「どうも、お久しぶりです。」

私がユイゼに近寄ると、ユイゼのパートナー、セリクが丁寧なお辞儀をする。

「こんにちは、お元気でしたか?」

さっきまでの気だるさを、どこにどうやって隠したのか、エルサイスが爽やかな笑顔で2人に挨拶を返す。本当にこういうところは尊敬する。

「うんうん、元気ですよ!」

ユイゼの屈託のない笑顔に、私は心が癒された。

「これからゲルミグランパ狩りに行くんですけど、ご一緒にどうですか?」

ユイゼも、セリクもフル装備で、準備万端だ。

「すまんな。今ちょっと塔を登ってきて、もうヘトヘトなんだ。」

「時渉りの塔ですか?」

セリクが目を丸くする。

「2人で?」

ユイゼも驚いている。

「さすがに無謀ですよ。」

「わかってますよ。ただちょっと自分たちの実力を確かめただけです。」

呆れたようなセリクに、エルサイスが苦笑いを返す。

「くーちゃんはすごいなぁ!ねぇセリク、私も挑戦したい!」

ユイゼは見た目によらず中々好戦的だ。そんなユイゼに、セリクは困った顔を返す。

「クローバーさんたちでも無理なんだから、僕らだって無理だよ。」

「えーでもだって……。」

「それにあそこは、いのりの教団が関わってる。近寄らない方がいいよ。」

「セリクさんは、いのりの教団について、何か知ってるんです?」

エルサイスがすかさず聞く。

「いえ、そんなに詳しく知ってるわけじゃないですよ。ただ……」

「ただ?」

セリクは内緒話をするように、顔を近づけてきた。私たちもそれに従い、額を寄せる。

「公国が人を集めてる噂は知っていますか?」

エルサイスが頷いた。私は、同じく『シルフィード』のメンバー、テイルがそんな話をしていたと、エルサイスから軽く聞いていたが、詳しくは知らない。

「そのことと教団が繋がってるんじゃないかって。」

他の人に聞かれると、まずい話らしい。セリクは周りをキョロキョロ警戒しながら、小さな声でいった。

私とエルサイスは顔を見合わせる。なんともきな臭い話だ。

「あくまで噂です。証拠はどこにもないですしね。教団がどんな組織で何をしているのか、詳しく知っている人が、どこにもいないので、実際のところは、誰もわからないみたいです。」

声のトーンを戻し、離れながらセリクが言う。

「おかしな話ですねぇー。」

エルサイスは顎に手をあて、考え始める。

「お前中々詳しいな。」

私がそういうと、セリクは頭をかいた。

「僕の兄が騎士なので、そういう国の内部の噂話をちょくちょく聞くんです。僕自身も、元は見習い剣士でしたしね。」

セリクの兄ということは、私と同じくらいの年齢かもしれない。養成所の時期が被っている可能性がある。

「ちなみにその兄貴の名前は?」

「……?兄ですか?イヴァンですよ。」

セリクは私がなぜそんなことを聞くのか、不思議そうにしながらも答える。

「あぁ……イヴァンか……。」

聞き覚えがある。悪いやつではない。

「兄をご存知で?」

「いや、すまん、忘れてくれ。」

過去のことをわざわざ掘り起こす必要はない。触らぬ神に祟りなし、だ。

「そろそろ行くか。」

私がエルサイスに声をかけると、エルサイスは考察から一瞬浮上し「うん」と頷いた。

「じゃ、また。」

「くーちゃんまたね!!エルさんも!」

元気に手を振るユイゼの横で、セリクが丁寧なお辞儀をする。よく見れば、確かに騎士っぽさがあるなと思う。

ユイゼたちと別れた私は、宿屋へと入っていった。

 

 

 

「疲れたー。」

私は靴を脱ぎ捨てると、ベットへ倒れ込んだ。

死んで復活すると、HPは回復するが、体そのものの体力というか、体調というか、そういうものまでは、元に戻らない。どこかまだ重いような感覚が、私には残っていた。

私の後から入ってきたエルサイスは、口に手をあて考え込んだまま、突っ立っている。

「まだ考えてんの?いい加減休んだほうがいいぞ。」

エルサイスは、私よりもずっと疲れているはずだ。あれだけ戦闘で頭を使っておいて、ここにきてまた何か考えて、脳を酷使し過ぎだ。

「うーん……。」

「何考えてんの?」

「いのりの教団が何をしてるかについて。」

「ほう?」

中々興味深い話だ。私はベットに座り直すと、話を聞く体勢をとる。エルサイスはそれを見ると、椅子に座り、口に手をあてたまま話し出す。

「いのりの教団と、不老不死の村にいたあの救済者は、おそらく同じものだ。」

私そう思う。雰囲気が一緒だし、言ってることも、やってることもなんとなく似ている。

「不老不死の村では、人を魔物化して、死なないようにしてた。塔の門番ロッツは、僕らのことを旧人類と言った。そしてあのドラゴン……。」

「つまり?」

話が見えない。

「いのりの教団は、人を集めて、人を魔物にする実験をしてるんじゃないかな?あのドラゴンは、その実験の産物かも……?」

あまり考えたくない話だ。複雑な顔をしている私を見て、エルサイスは苦笑いを浮かべた。

「あくまで推論だよ。でも、そう考えると、色々なことの辻褄があう。」

エルサイスはそういうと、真剣な顔をする。

「前にも言ったけど、錬金術では、等価交換は絶対なんだ。永遠の命には、人の命が必要。教団は、集めた信者の命を使って、不老不死の技術を手に入れた。さらに、人を魔物化し、新しい人類を作り、ドラゴンを生み出した。」

「なんのために?」

「うーん……。その辺は、セリクさんが言ってた公国との繋がりが関係してくるとは推察できるけど……。多分、戦争に使うんだろうね。兵器とか兵士として。」

「そこまでして勝ちたい戦争ってなんだ?」

「さぁ?僕にはわからないよ。」

私とエルサイスは、同時に大きなため息をついた。

世界は大きな力によって動かされている。誰もがみな歯車の一部で、嫌でも勝手に回っていく。そうして、全ての人々の、色々なものが干渉し合って、世界が未来を作っていく。

私もエルサイスも、所詮その歯車の一部。何かを変えることなんてできない。でも、だからこそ、できるだけ、自分の思う通りに回りたいと思う。

「なんだか疲れたよ…。」

エルサイスはそういうと、メガネをずらし、眠そうに目をこすった。

「昼寝でもしたら?」

「そうしようかなぁ。」

エルサイスはそう言うと、ソーサラーローブを脱ぎ、ベットに寝っ転がった。

「クロは?」

エルサイスが、メガネを外しながら、眠そうな、ぽやぽやした顔でこちらを見る。不意打ちに、なんだかかわいいな、なんて思ってしまう。

「私は眠くないから起きてるよ。プリンでも作ろうかな?牛乳と卵あるし。」

「プリン!?食べたい!」

「できたら起こすよ。雪で冷やせば、1時間かからないでできる。」

「やったー!」

エルサイスはそう喜ぶと、ベットにバフんと倒れ込んだ。幸せそうだ。

エルサイスは私より歳上だ。でも、こうして時々、弟のような幼さを感じることがある。そういう時は、私の中の、世話焼きの私が顔を出して、ついつい甘やかしてしまう。

「(まぁそれもいっか。)」

ベットでエルサイスが寝息を立て始めたのを確認してから、ミニキッチンに立つ。

プリンを作りながら、この先起こるかもしれない戦争について思いを馳せる。

私はもう騎士ではないから、戦争に直接関わることは無いだろう。でも、無関係を貫けるかといえば、そうではない。戦争が始まれば、多かれ少なかれ、みんな巻き込まれてしまうものなのだ。

その中で、私とエルサイスがどういう役割を担うかは、まだわからない。だからこそ、私はもっと強くなりたい。あのドラゴンを倒せるくらいに。

材料を混ぜて、プリンを蒸し始めると甘い香りが部屋を満たす。

腹が減っては戦ができぬ。今必要なのは、休息と腹ごしらえだ。

私はプリンの蒸し上がりを、ワクワクしながら待った。

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