アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第7話 エルの回想1

フジは奇跡を受けると、すぐに立ち上がった。つい数秒前まで、手すら自分で動かせなかった老人が、立ち上がったのだ。

流石に僕は驚いた。

そこにタイミング良く、フジの奥さん、フニエが帰ってきた。

そして

「あら……あんた。これで夢が叶うわね。外へ出たい!また旅に出たいって。あんたの可愛いヨメも体が動くうちに、一緒に行くよ!」

と言い出したのだ。

フジは口では救済者の奇跡を受けることを拒否していたが、フニエの話では、本当は元気になって、また旅に出ることを望んでいたようだ。

だからといって、不老不死になることが、最良の選択だとは、僕は思わない。

この技術は確かに素晴らしい力を持っているが、その力に頼ることのリスクが一切わからないのだ。

誰もそれを質問しないし、説明しない。リスクをないものとして扱っている。

僕はそこに作為的なものを感じるのだ。

クローバーは眉間にシワを寄せ、憮然とした顔で、ことの成り行きを見守っている。

元気になったフジは、寝たきりの時と変わらず、口達者で、フニエと言い合いをしている。

フジはさっきからずっと怒鳴っているが、もうそれが癖というか、そういう話し方なだけで、別に怒っているわけではないようだ。

エナに向かって怒鳴ったときも、必死に拒否していたわけではなく、だたそういう話し方だったというわけだ。

なんとも紛らわしい。

「しわくちゃのくせに、誰が可愛いヨメじゃ?」

「そんなしわくちゃに、あんたが一目惚れしたんだろ!?」

「そんなの昔の話、忘れたわ!」

惚気け話の言い合いを聞かされて、僕もクローバーも呆れ返る。

フジはたった今不老不死になり、人生を大きく変えたのだ。その事の重大さをまったくわかっていない。もっと真剣に話し合った方がいいのではないか?

「これから、どうするんですか?」

たまりかねた僕が、そう尋ねた瞬間、フニエは

「ウゥッ……」

とうめき声を漏らすと、その場に倒れた。

近くにいたクローバーが、とっさにフニエの体を支える。フジがそこに慌てて飛んでいき

「ばあさん!」

と呼びかける。

僕も駆け寄ると、フニエの手首を取り、脈を測った。

顔色は悪くない。脈拍も、呼吸も正常。

フジが突然元気になって、介護から開放された安心感から、疲れが一気に出たのだろう。

「エル、ベットに寝かすから手伝って。」

突然の状況にもかかわらず、クローバーは意外に冷静だ。

僕はクローバーと位置を代わって、フニエを抱き上げると、ゆっくりベットに寝かせた。

細くて、軽くて、少し力を入れたら折れてしまいそうな老人の体だ。

これが当たり前なのだ。それが生きるということなのだ。

「ばあさん、しっかりしろ、ばあさん」

フジの呼びかけに、フニエはうっすら目を開けた。

「ワシの面倒を見るのに、無理をさせちまったな。」

「いいえ…それよりも…じいさん、おなかはすいていないかい?」

フニエの言葉に、僕とクローバーは衝撃を受けた。

この夫婦は、あくまでこの先も、[日常]を続けていく気のようなのだ。

不老不死になろうとも、心労で倒れようとも、食べて、寝て、旅をして、いつもの当たり前を続けていく。

その姿に、僕は複雑な感情を覚える。とても整理がつかない。

クローバーは、顔に手を当て、うつむいていた。溢れ出す感情の嵐を、押さえ込んでいるようにも見える。

「無理をするな!そんなのはワシが!」

「あら………元気だった時も、あなたが食事を作ってくれた記憶なんて私にはないけどね?」

寝込んでいるというのに、フジに負けず劣らず、フニエも口達者だ。

「……ああ!もう!今日は寝てなさいよ!あとで酒場から調達してきてあげるから!」

エナが2人の間に割って入る。

エナはこうなることを予見していたのだろうか?この夫婦の意思の強さを、始めから知っていてこの話を持ちかけたのか?

「……すまないね……」

フニエが力なく言う。

「あ、行くのは私じゃなくて、このふたりなので、お礼はそちらへどうぞ!」

急にエナに話を振られた僕とクローバーは、面食らってしまった。

クローバーは怒りを込めた目で、エナを睨み返したが、エナはその様子にまったく気がついていないようだった。

ここにいつまでも居るよりは、外に出て、新しい空気を吸った方がいい。僕はそう判断して

「……じゃぁ、早速、酒場にふたりの食事をとりに行こうか?」

と言って、クローバーと一緒に、家を後にした。

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