アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
現在連載中のストーリーとは、前後の繋がりが一切ありませんのであしからず
話の中の『テイル』さんとそのYOME『ソラ』の設定は、前回テイルさん出演の番外編『ソラちゃんのお使い』のときのご本人への取材を元に構成しています。
尚、話を広げるにあたって、本人の言っていない設定を私が多く捏造(想像補填)しています。
予めご了承ください。
「テイル!!」
ソラの悲鳴のような微かな声に、テイルは振り返る。人混みの中を、何者かに担がれて運ばれて行くソラが、一瞬だけ見えた。
「ソラちゃん!」
急いで追いかけようとするが、人混みに押し返され、思うように進まない。
「ソラちゃん!」
もう一度呼びかけるが、返事はない。
やっと人混みを抜けたところで、左右を見回す。地面にソラがつけていたゲルミのお面が落ちている。
ソラの姿は、跡形もなかった。
数時間前。
テイルとソラは、揃いの浴衣に身を包み、祭り会場にきていた。
「テイル!あれ!私あれが食べたい!」
全体に梅の柄をあしらった、レトロな浴衣を着たソラは、珍しくはしゃいでいて、テイルにりんご飴をねだっていた。
「いいよー、はい。」
テイルはソラに小さい方のりんご飴を渡すと、支払いをする。
「え?イネノミじゃねーの?カタヌキ?これ?どっち?」
テイルが屋台の魔物と支払いで揉めている横で、ソラは受け取ったりんご飴を頬張っていた。幸せそうな笑顔だ。
「おーし、ソラちゃん、行こーかぁ。」
やっと支払いを終えたテイルが、そう言って振り向いた瞬間、何者かが、ソラのサイフに手を伸ばしているのが見えた。
「おい。てめぇ!」
テイルはその手を掴むと、捻りあげる。
「いててててて!」
イベリコのお面を被った手の主は、悲鳴を上げ、その声に驚いたソラが慌てて後ろを振り返った。
「テイル!どうしたの!?」
「こいつがソラちゃんのサイフを盗ろうとしたんだ。」
テイルはそう言いながら、空いているもう一方の手で、ソラを引き寄せ、自分の後ろに隠す。
「さぁ、顔をだせ。」
テイルはスリが被っていたイベリコのお面を無理やり剥ぎ取る。黒いロングヘアに、赤い目つきの悪い三白眼の男が、バツの悪い顔で立っていた。
「お、お前!テイルじゃねーか!」
男はテイルを見て驚く。テイルはこの男に見覚えがあった。まだソラと出会う前、野盗をやっていた時の仲間の1人だ。
「ティム!」
テイルは捻りあげていた手を離すと、ティムと向かいあった。
「知り合いなの?」
ソラが不安そうにテイルに聞く。
「あぁまぁ……。」
テイルは困って頭をかいた。ティムとは確かに知り合いだ。野盗をやっていた頃は、よく一緒に組んで、旅人を襲ったり、盗みをしたりしていたのだ。それはおおぴらに人に言えるような関係ではなかった。
「お前、今何やってんだよ?その子は?まさか子供!?」
「んなわけねーだろ!俺をいくつだと思ってんだ。この子は俺の妹だ。」
「妹ぉ?」
ティムはテイルの後ろに隠れているソラを、不躾にのぞき込む。ソラはテイルにぎゅっとくっついて、その目から逃れようとした。なんだか居心地が悪いし、怖い。
「ソラちゃんに近づくな。」
テイルはティムの首根っこを掴むと、ソラから引き離す。
「なんだよ。正義の味方ヅラしやがって。」
ティムは蔑むようにテイルを見る。
「お前はどうせ、俺と同じドブネズミなんだよ。」
テイルを何も言い返せず、唇を噛んだ。その様子をソラは心配そうに見ていた。ティムは追い討ちをかけるように、テイルの耳に顔近づけると
「なぁ?こんなガキのお守りなんてやめて、俺とまた一山稼ごうぜ?今は公国も連邦も戦争の準備で、いくらでも稼げるんだ。」
と、囁いた。ベッタリと張り付くような、不快な声だった。
テイルは反射的にティムを突き飛ばす。突然のことに、ティムは無様に尻もちをついた。
「俺はもう、足を洗ったんだ。」
テイルは毅然とした態度で、ティムを睨みつけながらそう言った。ティムは口を開け、呆気取られた顔をしていたが、すぐに嫌悪を滲ませると、テイルの足元に唾を吐きつけた。
「つまんねー野郎だぜ。」
ティムが舌打ちしながら立ち上がる。ソラは、何か言い返したくて、前に出ようとしたが、テイルがガッチリ腕を掴んでいて、動けなかった。
「そうやって潔癖ぶったって、お前の罪は消えねーんだよ。」
ティムは呪いのような言葉を、テイルに向ける。テイルの胸がチクリと痛んだ。1度罪で汚れると、どんなに洗っても、キレイにならない。過去は変えられないのだ。振り払っても、振り払っても、ついてくる。
「まぁせいぜい頑張れよ。そちらのお嬢ちゃんも、どこかで会ったら、またよろしく。」
ティムはそう言うと、ソラを値踏みするように見た。舐め回すような視線にソラは不快感を覚える。
「さっさとどっかに行っちまえ。」
テイルがそう凄むと、ティムは不気味な笑みを残し、人混みの中に消えていった。
「ごめんね。ソラちゃん。」
ティムが去ると、テイルは屈んでソラの顔をのぞき込んだ。
「ううん、テイルは悪くないもの。気にしないで。それより、大丈夫?」
ソラはそう言いながら、テイルの頬に触れる。提灯の明かりは薄暗く、チラチラ揺れて、こんなに近づいても、お互いの顔色がはっきり見えない。
「うん、大丈夫だよ。ありがとう。」
テイルはそう微笑むと、ソラの手を取ってそのまま繋いだ。
「はぐれないようにしようね。」
そう言うテイルの笑顔に、ソラはなぜか胸騒ぎを覚えた。笑っているのに、何だかとても悲しそうだ。それでもソラは何も言えず、ただ
「うん。」
と頷くことしかできなかった。
ソラは、自分と父親を襲ってきた時のテイルは知っているが、そのもっと前、テイルが子供の頃どんな暮らしをしていたのかまでは、知らない。今でも何となく恐くて、聞くことができなかった。
手を繋ぎながら、祭り会場を2人で見て回った。会場には、大勢の人がいて、少し気を抜けばお互いを見失ってしまいそうだ。テイルはソラの手を強く握り直した。ソラもそれに応えるように、小さな手に力を込める。
「ソラちゃんお面つける?きっと似合うよ。」
テイルはそう言うと、お面屋の前で、白い狐のお面をソラの頭に合わせた。
「テイルとお揃いがいい!」
「お揃い?」
テイルは目を丸くするが、それでもどこか嬉しそうだ。ソラはそんなテイルの柔らかい表情に、少し安心する。
「何の柄にする?」
「うーん……。ゲルミがいい!」
「これ?」
ゲルミのお面を手に取ったテイルは首を傾げる。随分攻めた柄のお面だが、本当にこれでいいのだろうか。疑問に思いながらも、ソラが言うなら仕方がない。カタヌキとゲルミのお面を2つ交換する。
「はい。」
テイルはお面を1つソラに渡した。ソラは嬉しそうにそれを受け取ると、頭につける。
「テイルのは私がやってあげる!」
ソラはそう言うと、テイルからお面を受け取り、屈むよう言った。テイルは少し恥ずかしかったが、ソラの命令には逆らえない。大人しく屈むと、お面をつけてもらう。
「うん!かわいい!」
ソラはテイルの頭にお面をつけると、そう満足そうに笑った。
「えー、かわいいのは困るなぁ…。」
テイルはそう言いながら頭をかいたが、まんざらでもなさそうだ。
「ふふっ。」
おかしそうに笑うソラを見て、テイルは幸せな気持ちになる。
過去は変えられないし、犯した罪も帳消しにはならない。それでも、今は、この小さな手を守りたい。未来は変えられると信じて。
ドーンと大きな音とともに、花火が夜空を彩る。
「わーキレイ!」
「うん、キレイだね。」
幸せそうに花火を見上げる2人は、自分たちを狙う狡猾な目線に気づいていなかった。