アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
僕は、考え事をしていた。
クローバーはそんな僕を置いて、公国で開催されている本の市を、自由に回っていて、今ここにはいない。
僕は本の市で賑わうマーケットから、少し離れた掲示板の前で、チラチラ舞う雪を見ながら、昨日の夜やった錬金術の実験を、頭の中でトレースして、失敗の原因を探っていた。
「(温度の変化か?放出する熱量は微々たるものだと想定していたけど、甘かったかも。氷で冷やせば?いや、涼しいところでやれば……)」
僕は思考の海に深く沈んでいて、自分に向かってくる人影に気づいていなかった。
「おっと!!」
「きゃっ!!」
女の子が、僕にぶつかってくる。歩きながら考える時は、ぶつかったり、転んだりしないよう、よく注意しているのだが、今は立ちどまっていたので、完全に油断していた。
「大丈夫ですか?」
ブラウンの髪を、顔の横で緩く結んだ女の子は、女性と言うより、少女といった方がいいだろう。緑の目はどこか怯えていて、まだ幼さを残した顔立ちだ。
僕はすぐ、ニッコリとした作り笑いを少女向ける。初対面の人には、この顔と、この角度と、この声色というのが、決まっているのだ。これをすれば、相手は僕を敵とは思わない。好意を抱く人さえいる。クローバーだけはなぜか引っかからなかったが…。
「お怪我はありませんか?」
「な、なによ……な、何か用事……私に……」
「……?」
話が噛みわ合わない。それに少女はどこか挙動不審だ。僕は微笑みながらも、少女をよく観察する。
目は泳ぎ、胸の前で、落ち着きなく指を絡ませている。声もどこか自信ながないように震えていた。直感的に、嫌なものを感じる。この少女は何か悪いことを隠している。
しかし、隠しているからと言って、僕には関係のない話だ。詰めよって追求する気はなかった。
そこにマーケットがある広場の方から
「この泥棒!待て!!」
と、クローバーの声が聞こえてくる。その声を聞いたのか、聞かなかったのかわからないが、僕が
「あ……待って下さい……!」
と止める前に、少女は路地裏へと逃げて行ってしまった。
少女が去った後、クローバーが駆けてくる。
「エル!荷物を盗られた!」
「え?!」
僕は目を丸くする。いつも隙がどこにもなさそうなクローバーが、窃盗に遭うなんて、思いもしなかった。
「大事なもの盗られた?」
「いや、もう売るはずだった読み終わった古本数冊だけだよ。」
僕はそれを聞いてホッとする。
「つい本を選ぶのに夢中になってたら、袋に入れて足元に置いてた古本を、スッと誰かに持っていかれたんだ。すまんな、油断した。」
クローバーはそういうと、珍しく申し訳なさそうに頭をかいた。不甲斐ない自分を反省しているのかもしれない。
「いいよ、別に。損害少ないし、気にしない、気にしない。」
僕はそう言うと、慰めるように、クローバーの頭をよしよしなでる。クローバーはすぐ、その手を不機嫌そうに振り払った。ガードが固い。
「こっちに誰かこなかったか?犯人っぽいやつが、駆けていったから追いかけてきたんだが…。」
「うーん……挙動不審な女の子なら見たけど……。あっちに行ったよ。」
僕が路地裏を指すと、クローバーが進み出る。
「追いかける?」
「当たり前だ。この私から盗んだらどうなるか、思い知らせてやる。」
クローバーは怒りの炎を目に宿しながら、路地裏へと歩みを進めた。