アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第54話 許す者

僕は黙ってクローバーのあとに続く。僕にはクローバーのブレーキ役として、ついていかなければいけない義務がある。真っ直ぐ前を見て歩くクローバーには、既に危険な怒りのオーラが、まとわりついているように見えた。

僕は思わず笑ってしまう。こうやって思いっきり怒ったり、時に泣いたりできるクローバーが、僕は愛おしくて、そして羨ましい。

「あ、彼女だよ。」

路地裏でうずくまる少女を発見した。

「あなた、私を追って……?」

少女は僕を見ると、一瞬怯えた表情をするが、すぐ目に力を入れ直し、敵意を見せる。

「出して……お金を……。」

少女はそう言うと、僕の前に手を差し出す。僕は首を傾げる。急に何を言い出すのだろう。理解ができない。

「お前、何言ってんだ?」

クローバーも、あまりのことに、怒りを通り越して、呆れた顔をしている。

「あなた……持ってるでしょ、大金を。」

この少女は、中々度胸がある。窃盗犯の自分を追ってきた僕らから、お金を巻き上げようとするなんて、そんな馬鹿なこと普通の人ならしないだろう。僕らに勝てるくらいの戦闘能力があるか、何か素晴らしい策を考えているのか、そんな用意がなければ、無理な話だ。

僕とクローバーは顔を見合わせる。クローバーの目から、怒りは消えていた。今は戸惑いの方が大きいようだ。訝しげな顔で、首を傾げている。

「ねぇ、死んで。」

戸惑う僕らに、少女がそう言う。ますます意味がわからない。

「お前、頭大丈夫か?」

さすがのクローバーも、支離滅裂な少女を気味悪がっているようだ。若干引いたような目で少女を見ている。

「どうして、こんなことをするんです……?」

まともな答えが返ってくるとは期待していなかったが、とりあえず聞いてみる。

「どうして……?みんながみんな、あなたみたいに成功できるわけじゃない、冒険者として。」

少女は、そう言うと、目を伏せた。

「若い者は旅に出ろ、それが風習だとか言われ続けた。でも、行きたくなかった。私なんかが魔物と戦えるわけがないじゃない。」

「魔物と戦って、そこで死んだとしても、冒険者ならまた復活する。それに、魔物と戦うだけが冒険者じゃない。」

クローバーが諭すように言う。珍しく落ち着いていた。人は自分よりもヤバそうな人を見ると、逆に冷静になれるものなのかもしれないなと、僕は思った。

「生き返るとしても……痛みがあるじゃない、怪我をすれば。死ぬほどの怪我ってどれだけの痛みなのよ。」

確かに、死ぬ時はそれなりに痛い。魔物との戦闘で、僕もクローバーも、それなりの回数倒れ、その度に肉体的な痛みは感じていた。刺されれば血が出るし、殴られれば苦しい。それでも、僕らは戦える。なぜ?と言われても困ってしまうが、僕らは、さほど痛みに恐怖を感じないというのが、一因ではあるだろう。クローバーは騎士として、そんな恐怖はとっくの昔に克服しているだろうし、僕も幼少期の虐待経験で、痛みに慣れてしまっていた。

それは普通の生活をしていた少女からすれば、特別なことかもしれないが、クローバーの言う通り、魔物と戦うだけが冒険者ではない。冒険やり方は、無限にあるのだ。

「でも町には仕事がない。食いあぶれて、日々生活するのもままならない。」

「だから強盗を……?」

僕の問いかけに、少女は頷いた。

「そう……だから、死んで。」

「言ってることの意味がわからん。」

クローバーはうんざりしたようにつぶやくと、少女に背を向けた。もう話したくないらしい。同じ言葉を話しているのに、ここまで話が通じないのは、初めてだ。エナよりも酷いと思う。

「「だから」って……どうしてですか?」

僕は何とか話を整理しようと試みる。

「殺すしかないじゃない……顔を見られたらからには。捕まるかもしれない、仕返しされるかも……。」

そんな話で「はい、わかりました」で死ぬ人が、どこにいるのだろうか。この少女はやはりどこかおかしいらしい。

「そうよ、私が悪いのは理解している。けど、こうしてしか生きることができない……。盗みなんかしたくなかった!悪いことなんかしないで、綺麗な自分でいたかった。でも、生きるためには、しょうがないんだ!」

クローバーの目が、ピクリと反応して、不快感を示していた。言い訳ばかりのこの少女に、イラついているのだろう。僕は先回りして、クローバーの肩に手を置き、落ち着くよう促す。

「時代が時代なら、私はもっと優しく生きれたのに!…もう、戻れないの!」

「くだらねーな。」

クローバーが僕の手を振り払いながら言う。

「いつまでそうやって言い訳して生きる気だ。」

クローバーに睨まれた少女は、短く「ひっ」と悲鳴をあげる。

「お前本当は、自分が悪いなんて、1ミリも考えてないだろ?仕方ない、時代が悪いで、お前自身はなんの努力もしないで他人から奪う。それでいて偉そうにしてる。気に食わねぇなぁ。」

クローバーはそう言うと、腕組をする。手をあげる気はないようなので、僕は少しホッとする。

「もう言い訳はやめろ。考え直せ。お前はまだ戻れる。まだ誰も殺してねーんだろ?」

クローバーの意外な言葉に、僕は目を丸くする。いつものクローバーなら、とっくの昔に剣を抜き、切りかかってそうなのに、今日は率先して、少女を説得している。

「無理……もう無理なのよ。」

「私を殺るって言うなら、お前は私と戦うことになる。お前なんか2秒もあれば殺れる。弱そうだし。」

「このままだと、私を殺す……というの?」

少女は怯えた表情を見せる。

「クロ、どうするの?」

僕には、クローバーの思惑が見えない。いつもならさっさとぶん殴って放っておくような事案なのに、今日のクローバーはやけに少女に肩入れしているように思える。

「エル、私はテイルの借りを、ここで返したい。」

クローバーのその言葉に、僕は「あぁ」と納得した。クローバーは意外に律儀な性格をしているのだ。

クローバーは、幼少期仕方なく野盗をしていたテイルと、この少女を重ねていたようだ。ついこないだ、「あの頃は仕方なかった」と言ったテイルに「同じような境遇でも、真っ当にいきてやつはいる」と説教してしまったことを、クローバーはずっと後悔していて、テイルに謝罪したあとも、まだ気にしていたのだ。

少女の境遇は、テイルよりもずっと程度が軽そうだが、似たようなものであるのは確かだった。クローバーは、ここで少女を許して、テイルへの説教の借りを返したいらしい。

「好きにするといいよ。」

テイルはもうそんなこと気にしてないと、僕は思うが、クローバーが気になるなら仕方ない。これでクローバーの気持ちがスッキリするなら、それもいいだろう。

「もう二度とやらないって、約束しろ。それなら助けてやる。」

クローバーから慈悲を授かった少女は、泣き出した。

「うううっ……ごめんなさい……。見逃してくれなんて言わないわ……お城でもどこへで連れてって……罰は受ける……。」

「私たちのことはもういい。兵士に引き渡す気もねぇよ。その代わり、盗んだものをみんなに返せ。」

「………。」

少女は涙を拭くと、コクンと頷いた。僕は、2人の様子をただ見守っていた。

本当にこれでいいのかわからない。ここで許したところで、少女は変わらないかもしれない。でもそれは、仕方のないことなのだ。そこに期待するのはやめた方がいい。今はとにかく、クローバーが少女を許したという事実が残ればそれでいい。

教会へ向かう少女に付き添うクローバーを、僕はチラリと見る。クローバーは、この旅で確かに変わっている。多分、それはいい事だと僕は思う。僕も少しは変わっているかもしれない。少女は嫌がっているが、冒険者には、冒険者にしかできない体験がある。それが、自分を良い方向に変えてくれる。

だから冒険は楽しいのだ。

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