アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第55話 ポーラの旅立ち

教会に着くと、少女は神父のクリフに懺悔する。

「私はポーラ。盗みをしてしまいました。すべて返します。だから、許して下さい。」

ポーラと名乗った少女は、どこかオドオドしていて、私はイライラを抑えるのに苦労していた。こういうはっきりしないで、いつまでもグズグズいうやつは、大嫌いなのだ。

こんなやつ、いつもならさっさとぶん殴って、放っておくところなのに、私は彼女を許し、償いの手伝いまでしていた。自分でも、なぜそこまでするのか不思議だった。

脳裏によぎるのは、怒りに燃えたテイルの姿だ。あの時、胸ぐらを掴まれた私は、何も言い返すことができなかった。

私は確かに、恵まれていた方だったかもしれない。衣食住の保証はされていたし、それなりの贅沢もできた。しっかりとした教育も受けさせてもらい、生きていく上での不自由は、何一つなかった。

「(でも……。)」

そう、『でも』なのだ。

「もうさんざん言われているかもしれぬが……。あなたの年頃なら、皆 、旅に出る頃なのだ。」

クリフがポーラを、諭すように言う。

私が、このポーラという少女を助けることに、さほど意味はない。私はただ、テイルの気持ちも考えず、偉そうな口を叩いてしまったことの償いに、彼女を利用するだけだ。助けたあと、ポーラがどうなろうが、知ったことではないと思っていた。

「嫌……生きているのがつらくなった時、死ねばいいと思うからがんばれるんです。死ねなくなるのは、絶対、嫌……。」

「死は最後の救済ですからねぇ。」

エルサイスが他人事のように呟く。中々深い言葉だと思う。

ポーラの言い分はわかる。どんな悲惨な人生を送っている人も、また、どんな輝かしい人生を送っている人も、最後は死ぬ。死は絶対で平等に訪れる、最終の救済なのだ。

「いくら嫌だと言っても、それが神の運命づけた、人間のとるべき道。」

クリフが強い口調で言う。

私は、この旅に出る風習の意味が、未だによくわからない。神の意思とか、国民の義務とか、色々理由はあるが、結局『昔からそうだから』という説明しか、なされていなかった。

私やエルサイスは、好き好んで冒険者を生業にしているが、ポーラのように、冒険を拒む者もいっぱいいるのだ。そんな人達まで、冒険者にする意味があるのか、私にはさっぱりわからない。

「それに万が一、神が許したとしても、盗みを犯した町で、今後暮らすのは難しかろう。」

クリフはそう言うと、ポーラの肩に手を置き、その目を真っ直ぐ見つめる。

「旅に出なさい。それが神の意思です。」

「それが罪の償いということなのですね……。」

ポーラはそう目に涙をいっぱいにためながら、クリフを見つめ返す。クリフは深く頷いた。

「では、あなたに冒険の洗礼を与えよう。」

クリフがポーラに洗礼を施すのを、私は複雑な気持ちで見ていた。このモヤモヤした気持ちがなんなのか、自分でもわからない。

「神よ、かの生きる希望に満ち、だがしかし、か弱く浅はかな若き者たちに旅の加護を与えよ。」

教会中にクリフ朗々とした声が響く。

「高くそびえる山も、厄災を帯びた敵も、畏れる必要のない、強き力をここへ。」

モヤモヤの答えが出ないまま、洗礼は終わり、ポーラが顔を上げる。

「さぁ、行きなさい。」

「はい。」

ポーラはそう返事をすると、堪えきれないように泣き出した。グズグズ泣くポーラに、私はうんざりする。本当に、一発殴ってやりたい気分だ。

ポーラは泣きながら教会の出口へ向かう。私たちに感謝を述べるどころか、挨拶すらなかった。別にそれを期待していたわけではなかったが、礼儀としてあるべきものがないと、不快にならずにはいられない。

パタンと扉が閉まる音がして、ポーラの背中が見えなくなると、私は大きなため息をついた。

「お疲れ様。」

エルサイスが私の肩に手を置き、労ってくれる。

「疲れたよ……。」

「なんか甘いものでも食べに行こうか?」

私にとって、感情を抑えるという行為は、脳の消耗が最も激しいのだ。腕立てを100回するよりも疲れる。

「チョコレートケーキが食べたい。」

私がそう言うと、エルサイスは

「ブドウ糖がダイレクトに取れるね。」

と言って笑った。

教会を出た私たちは、公国の酒場へ向かう。

途中ポーラの姿は見当たらなかった。もう町を出たのだろう。

彼女を許したところで、私の気持ちはまったく晴れなかった。それどころか、モヤモヤが増えた気さえする。

「浮かない顔してるね。」

ため息をつく私に、エルサイスが言う。

「なんかモヤモヤするんだ。私はテイルや、ポーラに比べれば、確かに恵まれていたかもしれない。でも……でもなんだよ。」

口に出して呟いて見たが、その先の思考は真っ暗になっていて、これ以上言葉を紡ぐのは無理そうだった。

ポーラを許せば『でも』と思ったことの答えが出ると思っていたのに、ますますわからなくなっていた。

「『でも』か……」

エルサイスはそう呟きながら、酒場のドアを開ける。

脳が疲れて死んでいるような状態で考えたって、何も出てこないのは当たり前だ。私はすべての思考を、一度、頭の隅に追いやって、今は甘い物を取ることだけに集中する。

全部はチョコレートケーキを食べたあとに考えればいい事なのだ。

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