アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
不老不死の村酒場は閑散としていて、僕ら以外に客はいない。いつもたくさんの人で賑わっている公国の酒場とは大違いだ。
この店の主人、ロックは、僕らが入ってくるなり
「冒険者がこんな田舎の酒場に何用だ」
と言って、訝しげな顔をしていた。
フジが元気になった代わりに、フニエが倒れたので、2人の食事を取りに来たことを伝えると
「そうか……ついに、救済者の奇跡を受け入れたんだな」
と感慨深そうに漏らした。
酒場はどこかホコリっぽく、人が毎日行き来するような、空気の流れを感じない。
テーブルも、手前の方はよく使われている形跡があるが、奥の方はもうずっとそのままのようで、物置のようになっていた。
ロックが食事を用意している間、僕とクローバーは酒場手前のカウンターに座って、少し話をした。
「気分はどうだい?」
「最悪だよ。」
クローバーが不機嫌そうなため息をつく。
「あの時、君を止めたこと、怒ってる?」
フジとケイトの間に、立ちはだかろうとしたクローバーを、僕は止めた。
これ以上何をしても、無駄だと判断したからだ。あの時、誰がどう動こうと、フジは不老不死になっていただろう。
蓋を開けてみれば、あの場で、本当に救済者の奇跡を望んでなかったのは、僕とクローバーだけだったのだ。
一番部外者で、なんの関係もない、傍観者の僕らだけが、どうにかしようと、もがいていた。
なんとも滑稽な話だった。
「あの瞬間は殺してやろうと思ったけど」
確かに、あの時のクローバーの、瞳孔が開ききった目は、誰かを殺してもおかしくない目だった。
「でも、まぁ、今は、しょーがないかなって思ってる。」
クローバーはそう言うと、甘えるように僕の肩に寄りかかってきた。
珍しい。
「なんだろう……これでいいはずじゃないのに……。なんで……なんでなんだろうね。」
それがクローバーが今言葉にできる精一杯の気持ちなのだろう。
僕はそんな彼女を慰めようと、肩に手を回して抱き寄せようとしたが、おもいっきり振り払わられてしまったので、断念した。
こんなときでも、ガードがめちゃくちゃ固い。
思わず笑ってしまった。
「できたぞ。このクロケットを届けてやってくれ。これなら歯の弱い年寄りも食べられるし、力もつくぞ!」
ロックはそう言って、食事の入った籠をクローバーに渡した。
「この村は、あの救済者のおかげで、賑わいを取り戻した。本当に彼女が来てくれて、よかったよ」
ロックはそう言いながら嬉しそうに笑った。
確かに、この村は、ゆっくりと衰退を迎えているようだった。
それはこの酒場の様子を見るだけでも、明らかなことだ。
それを救済者たちが食い止めている。
この村で最初に見た光景を思い出す。僕が「狂気って、こういうことを言うんだろうね。」と言ったあの光景だ。
あれが[賑わい]と呼べるものなのだろうか?
本当に、これでいいのか?
何が正しいのか?何か正しいのか?
僕はため息をついた。
いくら考えても、栓のないことのように思える。
クロケットをフジとフニエに届ける。
家に入ると、救済者もエナも帰ったようで、フジとフニエの2人は、また言い合いをしていた。
「またケンカしてるね……。」
そう言ってクローバーを見る。
これだけケンカをしているのに、家の中は綺麗に片付いていて、手入れが行き届いている。ケンカの最中に開けた壁の穴も、壊れた備品も見当たらない。
つまり、そういうことなのだ。
「まったく、うるさいじいさんとばあさんだ。どっちもぽっくり逝っちまえばよかったんだ。」
クローバーが不愉快そうに呟く。
いつもなら注意するところだが、今日は7割くらい同意できたので、好きに言わせておくことにした。
フジとフニエの2人は、散々言い合ったあと、やっと僕らに気づき、食事を受け取った。
「あら、クロケット。ひさしぶりだねぇ。さぁ、じいさん、おなかがすいてるんだろ?どうだい?」
「ふん。………こんなもの。いつものスープのほうがよっぽどうまいわ!」
「ふふふ……」
結局最後はこうやって惚気け話を見せられる。なんという茶番だろう。
この夫婦は、ずっとケンカ漫才をやっているようなもので、それが2人のコミュニケーション手段なのだ。
傍から見れば、馬鹿らしくて、非効率で、疲れそうなものだが、それが2人の[愛]というものなのだろう。[けなし愛]とでも名付けようか。
クローバーは呆れ返って、首を左右に振っている。
理解ができないらしい。
僕も、そういう心理はわかるが、理解はできない。
僕らは、ため息をつきながら家をあとにした。