アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第8話 エルの回想2

不老不死の村酒場は閑散としていて、僕ら以外に客はいない。いつもたくさんの人で賑わっている公国の酒場とは大違いだ。

この店の主人、ロックは、僕らが入ってくるなり

「冒険者がこんな田舎の酒場に何用だ」

と言って、訝しげな顔をしていた。

フジが元気になった代わりに、フニエが倒れたので、2人の食事を取りに来たことを伝えると

「そうか……ついに、救済者の奇跡を受け入れたんだな」

と感慨深そうに漏らした。

酒場はどこかホコリっぽく、人が毎日行き来するような、空気の流れを感じない。

テーブルも、手前の方はよく使われている形跡があるが、奥の方はもうずっとそのままのようで、物置のようになっていた。

ロックが食事を用意している間、僕とクローバーは酒場手前のカウンターに座って、少し話をした。

「気分はどうだい?」

「最悪だよ。」

クローバーが不機嫌そうなため息をつく。

「あの時、君を止めたこと、怒ってる?」

フジとケイトの間に、立ちはだかろうとしたクローバーを、僕は止めた。

これ以上何をしても、無駄だと判断したからだ。あの時、誰がどう動こうと、フジは不老不死になっていただろう。

蓋を開けてみれば、あの場で、本当に救済者の奇跡を望んでなかったのは、僕とクローバーだけだったのだ。

一番部外者で、なんの関係もない、傍観者の僕らだけが、どうにかしようと、もがいていた。

なんとも滑稽な話だった。

「あの瞬間は殺してやろうと思ったけど」

確かに、あの時のクローバーの、瞳孔が開ききった目は、誰かを殺してもおかしくない目だった。

「でも、まぁ、今は、しょーがないかなって思ってる。」

クローバーはそう言うと、甘えるように僕の肩に寄りかかってきた。

珍しい。

「なんだろう……これでいいはずじゃないのに……。なんで……なんでなんだろうね。」

それがクローバーが今言葉にできる精一杯の気持ちなのだろう。

僕はそんな彼女を慰めようと、肩に手を回して抱き寄せようとしたが、おもいっきり振り払わられてしまったので、断念した。

こんなときでも、ガードがめちゃくちゃ固い。

思わず笑ってしまった。

「できたぞ。このクロケットを届けてやってくれ。これなら歯の弱い年寄りも食べられるし、力もつくぞ!」

ロックはそう言って、食事の入った籠をクローバーに渡した。

「この村は、あの救済者のおかげで、賑わいを取り戻した。本当に彼女が来てくれて、よかったよ」

ロックはそう言いながら嬉しそうに笑った。

確かに、この村は、ゆっくりと衰退を迎えているようだった。

それはこの酒場の様子を見るだけでも、明らかなことだ。

それを救済者たちが食い止めている。

この村で最初に見た光景を思い出す。僕が「狂気って、こういうことを言うんだろうね。」と言ったあの光景だ。

あれが[賑わい]と呼べるものなのだろうか?

本当に、これでいいのか?

何が正しいのか?何か正しいのか?

僕はため息をついた。

いくら考えても、栓のないことのように思える。

 

クロケットをフジとフニエに届ける。

家に入ると、救済者もエナも帰ったようで、フジとフニエの2人は、また言い合いをしていた。

「またケンカしてるね……。」

そう言ってクローバーを見る。

これだけケンカをしているのに、家の中は綺麗に片付いていて、手入れが行き届いている。ケンカの最中に開けた壁の穴も、壊れた備品も見当たらない。

つまり、そういうことなのだ。

「まったく、うるさいじいさんとばあさんだ。どっちもぽっくり逝っちまえばよかったんだ。」

クローバーが不愉快そうに呟く。

いつもなら注意するところだが、今日は7割くらい同意できたので、好きに言わせておくことにした。

フジとフニエの2人は、散々言い合ったあと、やっと僕らに気づき、食事を受け取った。

「あら、クロケット。ひさしぶりだねぇ。さぁ、じいさん、おなかがすいてるんだろ?どうだい?」

「ふん。………こんなもの。いつものスープのほうがよっぽどうまいわ!」

「ふふふ……」

結局最後はこうやって惚気け話を見せられる。なんという茶番だろう。

この夫婦は、ずっとケンカ漫才をやっているようなもので、それが2人のコミュニケーション手段なのだ。

傍から見れば、馬鹿らしくて、非効率で、疲れそうなものだが、それが2人の[愛]というものなのだろう。[けなし愛]とでも名付けようか。

クローバーは呆れ返って、首を左右に振っている。

理解ができないらしい。

僕も、そういう心理はわかるが、理解はできない。

僕らは、ため息をつきながら家をあとにした。

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