アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
「はー!疲れたぁー。」
宿の部屋に着くなり、Ayamiはベットにうつぶせに倒れ込んだ。満腹感と、酔いと、心地よい疲労で、幸せな気持ちだ。
「今日は大変だったけど、楽しかったなぁ。」
Ryuはそう言いながら、Ayamiが寝ているベットの端に腰を下ろした。
沈黙。
Ryuは、エルサイスともふから教わったアドバイスのことで、頭がいっぱいだった。
これからすることは、自分でも初めてのことで、上手くいくかまったくわからない。その前に、上手くできるかさえも、わからないのだ。しかし、こうしてぐずぐずしていれば、大事なものを取りこぼしてしまう。
Ryuは息を大きく吸うと、意を決して、Ayamiに声をかけた。
「あやみん。」
「ん?」
突然呼びかけられたAyamiは少しだけベットから顔を上げRyuを見る。
「今日はお疲れ様、ありがとう。」
Ryuはそう言うと、Ayamiの頭をぎこちなく撫でる。その手は、緊張で震えていた。
「べ、別に、お礼を言われるようなことなんてしてない!」
Ayamiは、嬉しいのに、つい、冷たく返してしまう。
「俺と一緒に冒険して、ついてきてくれるだけで、感謝できるものなんだよ。」
Ryuはそう言って不器用に笑った。
Ayamiはベットに座り直すと、戸惑ったように目を泳がせる。こんなRyuは初めてで、どうしたらいいかわからない。でも、嫌ではなかった。むしろ嬉しい。
「あやみん?あの……」
「ん?」
「きっ……キス……してもっ……いい?」
「えっ?」
RyuはAyamiが返事をする前に、その右手を強く握り、ぐいっと引き寄せる。
「えっ!あっ?!ま、待って!」
驚いて体をこわばらせ、目をぎゅと瞑ったAyamiのおでこに、Ryuは優しいキスをする。
一瞬の沈黙。
本当は口にするよう言われていたのだが、さすがにそこまでの勇気は、Ryuにはなかった。これだけでも、十分恥ずかしくて死にそうなのだ。
Ryuはゆっくり唇を離すと、Ayamiを見つめた。
Ryuと目が合った瞬間、Ayamiは、思わず彼を突き飛ばし、すぐそっぽを向いてしまう。
「あ、あやみん……。」
Ryuは驚くと同時に、後悔する。
「い、嫌だった?」
柄にもないことをしてしまったので、本当に嫌われてしまったかもしれない。そう思ってRyuは焦った。
「急にやめてよ!!」
Ayamiがそっぽを向いたまま、語気を強めて言う。
「こんな!こんなの!ずるい!」
「ご、ごめん……。」
Ryuはどうしたらいいかわからず、オロオロしてしまう。まさかこんな反応が返ってくるとは思ってもみなかった。
「本当にごめん……。」
Ryuは気まづくなってしまい、Ayamiに背を向けた。背中は丸まり「しょぼーん」という効果音が出そうなくらい落ち込んで見える。
「りゅう……。」
その背中にAyamiが後ろからそっと抱きつく。
「え?あ、あやみん?」
Ryuは訳が分からず、混乱する。
「ずるいよ……。急に、こんなかっこいいことするなんて……。」
Ayamiはそう呟くように言うと、Ryuの背中に顔を埋める。
「ねぇ……りゅう……。好き、好きなの。大好きなの。」
Ayamiはそう言いながら、Ryuの背中をポコポコ叩く。
「好きなのに、好きだから、怒っちゃうの。」
好きだから、怒るのメカニズムは、Ryuには理解できない。でも、Ayamiが自分を好いてくれているのなら、Ryuはそれで満足だった。
「あやみん……。」
そうホッとしたのも束の間
「ねぇ?」
とAyamiがRyuを引っ張り、無理やり自分の方を向かせる。
「な、何?」
「キスして。」
「へ?」
「キスしてって言ってんの!!」
Ayamiはそう言うと、目を瞑り、Ryuに「んっ」と顔を向ける。
「(えぇぇええ?!今このタイミングで?!)」
急に大胆なAyamiに、Ryuは慌てる。Ayamiの要望とは言え、今キスして、あとで文句を言われないか心配だ。
「早く!んっ!」
Ayami中々強情だ。
「(恥ずかしい思いは、今日で全部終わらせてしまえ。)」
そう思って、Ryuは大きく息を吐くと、意を決して、Ayamiの肩を引き寄せ、その唇に自分の唇を重ねる。
1,2,3秒。
ゆっくり離れる。
Ryuは恥ずかしくて、まっすぐAyamiを見ることができなかった。Ayamiも恥ずかしいのか、顔を赤くして俯いたまま、動かない。
沈黙。
「もう!りゅうのバカ……。」
「えっ!?」
「全部、りゅうのせいなんだから!!」
Ayamiはそう言い捨てると、そそくさとベットに潜り込み、頭まで布団を被って隠れる。
「もう寝る!明かり消して!!」
今日はAyamiに振り回されてばかりだ。Ryuは納得できない思いを抱きながらも、仕方ないと、ため息をつく。
「消すよ。」
明かりを消すと、部屋の中を一気に夜が満たした。
Ryuは、のそのそと自分のベットに潜り込む。
布団のくるまり目を瞑ると、無意識に、Ayamiの唇の感触を思い出してしまう。
「(あぁこれはダメだ……。)」
Ryuはお手上げだというように、息をついた。
一方Ayamiは、布団の中で頭を抱え
「(やっちゃった……どうしよう……。明日からどんな顔すればいいのかわからないよぉ……。)」
と、悩んでいた。
「((今夜は眠れそうにない。))」
2人は、別々のベットの中で、同時にそう思う。
そうして2人は明け方まで悶々と過ごして、次の日の朝、案の定寝坊をし、お互い「そっちが悪い」と言い合うのだった。