アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第60話 地下工場の秘密 その1

「ここが工場かな?」

エルサイスが、声を潜めて言う。私は見つからないよう壁ぴったり張り付き、そっと中を伺う。

工場の中は、意外に静かで、人の話し声はあまり聞こえない。代わりに、1番奥にある、巨大な装置の歯車のガタガタという大きな音が、工場全体を満たしていた。あまり活気があるようには見えない。動いている人は皆一様に、どこか疲れた様子で、一心不乱に何かを潰して、こねて、運んでいた。

一体何をしているのか、皆目見当がつかない。

「あれ、マナじゃないか?」

私がそう言うと、エルサイスが私のすぐそばまできて、体をくっつけるようにしてくる。

「近い。離れろ。」

「しー。見つかっちゃうじゃないか。」

そう話している私たちのすぐ前を、人が通っていく。私とエルサイスは、見つからないよう息を殺し、ぎゅっと壁に張り付いた。

嫌な汗が頬を伝い落ちていく。

私はこういう隠密行動は苦手なのだ。スリルがあるのは嫌いではないが、どちらかといえば目立つ方の性格の私は、『見つかってはいけない』というプレッシャーに耐えられない。

カツカツという靴音が、少しずつ遠ざかっていく。幸い、気づかれなかったようだ。

私はホッとため息をつく。

「危ない、危ない。」

エルサイスはそういいながら、いつもの涼しい顔で笑う。

「(こいつ……後で絶対ぶん殴る。)」

私はそう心に決めると、気を取り直して、マナの様子を伺った。

「なぁ、マナさん……。俺たちは何をやってるんだろうな。」

大柄青年が、マナに話しかける。青年の顔色はあまり良くなく、どこか具合が悪そうに見えた。

「疲れてるんですよ。」

マナは、青年を心配そうに見つめ、気遣う。

「ここへ来てから、ずっと寝ないで働き詰めじゃないですか。少し休んでくださいよ。」

「ありがとう……マナさんもずいぶんと長い間、働いてるな。あんたも休んだ方がいい。」

この工場の労働環境は、どうも悪いらしい。長時間休みなく、人を働かせ、具合が悪くても放っておいているようだ。

「僕これ知ってるよ。こういう異常な労働をさせる会社のことを、ある国では、ブラック企業っていうんだ。」

「ブラック企業ねぇ……。」

私は得意気なエルサイスに、気のない返事を返す。

こんな酷い労働環境の工場なんて、さっさと辞めてしまった方がいい。私ならそう思うが、みんなそれぞれ辞められない理由があるのかもしれない。

「テイルさんが言ってた。公国は社会的に弱い立場の人を集めてるって。酷くても逃げられないようにしてるんだろうね。」

エルサイスは、いつもと変わらない飄々とした様子でそう言うが、どこか悲しげでもある。あまりいい気はしていないようだ。

無職で次の仕事のあてがない、孤児で身寄りがない、病気で普通に働けない。そういう社会的に弱く、金を持っていない人が、こういう仕事にしがみついてしまうのだろう。辛くても、働けるだけ、金を稼げるだけマシだと考えて。

そうやって弱い者から搾取をするシステムに、私は嫌悪を覚える。

「さぁ、がんばってみんなで働きましょう。私たちの働きで未来に輝きが灯ります。」

突然朗々とした声が工場内に響き渡り、私は驚いてビクッと体を震わせる。この暗い工場の雰囲気には、似つかわしくない、明るい爽やかな声だ。

「人間の繁栄と発展のために、みんな一緒に懸命に額に汗して働きましょう!」

そう労働者に声をかけているのは、金色の髪と青い目の、爽やかな好青年だ。

私はこの青年を知っている。

「塔の門番じゃんか。」

いくら人の顔や名前が覚えられない私でも、この顔を忘れはしない。私たちは、つい先日、時渉りの塔の門番だった、この好青年の姿をした魔王、ロッツに、敗北したのだ。

「エナさんがいってたことは本当だったね。彼がいるってことは、ここは、いのりの教団が仕切ってる。」

エルサイスが厳しい表情でそう言う。

どうにもできないまま、嫌な予感だけが、ガスボンベに繋いだ風船のように膨らんでいく。いつ破裂してもおかしくないような緊張感に、私は吐き気を覚える。

「すみません。エースさんが、少し気分が悪いみたいで……。」

エースと呼ばれた青年は、バツが悪そうに、ロッツの前に進み出た。どこか怯えているようにも見える。

「あ、あの人がエースさんだったんだ……。ケイプさんのお兄さんの……。」

エルサイスの呟きに、私は目を凝らしてエースを観察する。エースは背が高く大柄だが、どこか気弱そうな雰囲気がある。眉は下がり、目は虚ろで、すごく疲れているようだ。足元もおぼつかない。

「生きてるだけマシって感じだな。これだと。」

こんな環境で働き続ければ、いずれ死んでしまう。早くこんな工場辞めさせて、ケイプの元に帰さなければ。

「気分が?そうですか、それはいけませんね。どうぞこちらへいらしてください。」

ロッツは優しくそう声をけると、エースを工場の奥へと連れていった。

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