アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
「僕たちも行こう。」
「うん。」
私たちは、工場の端を、物陰に隠れながら進んでいく。気づく者は誰もいない。みんな自分のことでいっぱいいっぱいの様子だ。
工場の奥、他の労働者から見えない位置で
「どうやら、あなたはもうダメですね。使いものにならない。」
とロッツが、さっきの優しそうな明るい声色とは違う、冷たい物言いで、エースにそう宣言する。その様子を私とエルサイスは、物陰から伺っていた。
「使いものにならないなんて、そんな……!せっかくお仕事をいただけたのに……。別のお仕事はありませんか?」
エースがそう泣きそうな声を出す。
やはり、そう簡単には抜け出せないらしい。
表向きは、みんな働きたくて、勝手に働いているように装いながら、ここには、人の思考を縛る罠が、幾重にも張り巡らされている。蟻地獄のように、抜け出したくても、抜け出せない。辞めたいのに、辞められないのだ。
「洗脳だな。」
私の呟きに、エルサイスが「うん」とうなずく。見ていて気分のいいものでは無い。
「とりあえず、お休みください。ほら、これを飲んで。」
ロッツはそういうと、グラスに入った水をエースに渡す。エースは少し躊躇ったが、ロッツの有無を言わせぬ雰囲気に押されて、それを一気に飲み干した。
「ゆっくり、お休みください。……永遠に……」
私とエルサイスに、緊張が走る。
「永遠に、ですって……?どういうことですか?」
エースはそう言いながら、フラフラと膝を床につく。立っていられないようだ。
「我々は皆さんの魂を利用し、不死の万能薬を作っているのですよ。」
ロッツの言葉に、私の中の嫌な予感の風船が破裂した。もうそれは予感ではなく、圧倒的な事実として、私の心に刻まれる。
エルサイスの言っていた通りだった。錬金術は、等価交換。永遠の命には、人の命が必要。それが今証明されたのだ。
エースの体が崩れ落ち、床に倒れていく。
私は咄嗟に物陰から飛び出し、その体を支えた。エルサイスも、あとからついてくる。
「おい!!生きてるか!?」
私がそう呼びかけると、エースは「ぐぅぐぅ」と寝息を返してきた。どうやら眠っているだけで、毒を飲まされたわけではないらしい。その様子に、私は少し安堵する。
「……おや……聞き耳をたててた人がいたみたいですねぇ……。」
ロッツが冷たい目で、私とエースを、見下ろす。
「まったく、さすがの僕でも呆れますね。こんなことをしているなんて。」
エルサイスがそう言って、杖を構えながら、ロッツと私たちの間に割り込む。顔はいつもと変わらない、優しげな微笑みを浮かべているが、どこか感情が高ぶっているようにも見える。
「君たちは、先ほど入口で監視している魔物を倒して中に入った冒険者。」
ロッツは諦めたようなため息をつくと、話し出す。
「……そう。バレてしまっては仕方がない。私たちは、魂を浄化して不老不死の万能薬としているのです。」
ロッツはそういうと、ニッコリとした笑みを浮かべた。薄ら寒さを感じる嫌な笑みだ。
「お金に困っている人の魂を浄化し、お金のある人の命と変える。」
まるでそうするのが当たり前で、何が悪いのかまったくわかっていないような口振りだ。
「貧乏は不幸です。生きることさえ否定されるように感じる。だからこそ、私たちは、背中を押してあげてるのです。」
「勝手なこと言うな!!」
私は剣を抜くと、構える。エルサイスが切かからないようにと、手で制してきたが、そんなものお構い無しだ。ここでこいつの意見を否定しなければ、私の中で色々なものが失われる。
「貧乏が不幸も、生きることを否定されるように感じるのも、全部お前らの主観だろう!勝手にかわいそうって哀れんで、挙句の果てに、勝手に命を奪う。そんなことが、許されてたまるか!!」
貧乏だろうと、病気だろうと、ひとりぼっちだろうと、その人の幸せは、その人が決めることだ。それを他人が勝手に不幸と決めつけて、人生を奪うだなんて、許される行為ではない。
「背中を押してあげてるなんて、厚顔無恥も甚だしい。お前がやってることは、ただの人殺しだ!恥を知れ!」
私の言葉にロッツは「やれやれ」とういうように、首を振る。呆れ返ったようなその態度が、私の怒りを逆撫でする。思わずぐっ体に力が入るが、エルサイスが肩に手を置いて、それを抑えてくる。
「てめぇ……。」
そう悪態をつくが、エルサイスはビクともしない。
「もう少し、情報がほしい。」
エルサイスが、私にしか聞こえない小さな声で言う。こんな時でも、彼は冷静だ。私が切りかかってごちゃごちゃにする前に、できるだけ多くの情報をロッツから聞き出しておきたいらしい。
「人類を皆救うの到底無理なこと。少ない犠牲で、最大の幸せを考える。これは、人類のための慈善事業なのです。」
ロッツはそう言うと、優しげに微笑んだ。
「お話はそれくらいですか?」
エルサイスが負けず劣らずの笑顔で返す。
「こんな事業は、早々に潰れた方が、人類のためだと僕は思いますよ。」
私の肩から、エルサイス手が離れる。私はそれをGOの合図として受け取って一直線にロッツに向かい、切りかかる。
「おっと。」
ロッツは涼しい顔で、私のファイアスラッシュを細身の剣で弾き返した。私は1度バックステップして距離を取り、剣を構え直す。一撃目でだいたいわかる。こいつは手強そうだ。
「ここで冒険者であるあなた方を倒しても、生き返ってしまう。ならば……」
ロッツはそういうと、口に手をあて考える。
「面白いことを思いつきました。神の祝福を受けて不死になったという冒険者。あなたがたにこの不死の万能薬を与えるとどうなるか。興味はありませんか?」
ロッツの胸ポケットから出された小さな薬瓶の中には、無色透明の薬が入っていた。人の魂から作られた、不死の万能薬。おぞましい薬だ。
「どちらの神が勝つか。気になります。神を試すなかれといいますが、私たちの信じる神が正しいのか。あなたがたを生かす神の加護が正しいのか。試してみるとしますか。」
そう言って切りかかってきたロッツの剣を、私は盾で受け止めた。
「エル。全力で行くぞ。」
私の言葉に「うん」とエルサイスがうなずく。
この戦いは、絶対に負けるわけにはいかない。
私はロッツの剣を盾で受け流すと、デモンソード=アビスを振り上げた。