アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

86 / 145
第61話 地下工場の秘密 その2

「僕たちも行こう。」

「うん。」

私たちは、工場の端を、物陰に隠れながら進んでいく。気づく者は誰もいない。みんな自分のことでいっぱいいっぱいの様子だ。

工場の奥、他の労働者から見えない位置で

「どうやら、あなたはもうダメですね。使いものにならない。」

とロッツが、さっきの優しそうな明るい声色とは違う、冷たい物言いで、エースにそう宣言する。その様子を私とエルサイスは、物陰から伺っていた。

「使いものにならないなんて、そんな……!せっかくお仕事をいただけたのに……。別のお仕事はありませんか?」

エースがそう泣きそうな声を出す。

やはり、そう簡単には抜け出せないらしい。

表向きは、みんな働きたくて、勝手に働いているように装いながら、ここには、人の思考を縛る罠が、幾重にも張り巡らされている。蟻地獄のように、抜け出したくても、抜け出せない。辞めたいのに、辞められないのだ。

「洗脳だな。」

私の呟きに、エルサイスが「うん」とうなずく。見ていて気分のいいものでは無い。

「とりあえず、お休みください。ほら、これを飲んで。」

ロッツはそういうと、グラスに入った水をエースに渡す。エースは少し躊躇ったが、ロッツの有無を言わせぬ雰囲気に押されて、それを一気に飲み干した。

「ゆっくり、お休みください。……永遠に……」

私とエルサイスに、緊張が走る。

「永遠に、ですって……?どういうことですか?」

エースはそう言いながら、フラフラと膝を床につく。立っていられないようだ。

「我々は皆さんの魂を利用し、不死の万能薬を作っているのですよ。」

ロッツの言葉に、私の中の嫌な予感の風船が破裂した。もうそれは予感ではなく、圧倒的な事実として、私の心に刻まれる。

エルサイスの言っていた通りだった。錬金術は、等価交換。永遠の命には、人の命が必要。それが今証明されたのだ。

エースの体が崩れ落ち、床に倒れていく。

私は咄嗟に物陰から飛び出し、その体を支えた。エルサイスも、あとからついてくる。

「おい!!生きてるか!?」

私がそう呼びかけると、エースは「ぐぅぐぅ」と寝息を返してきた。どうやら眠っているだけで、毒を飲まされたわけではないらしい。その様子に、私は少し安堵する。

「……おや……聞き耳をたててた人がいたみたいですねぇ……。」

ロッツが冷たい目で、私とエースを、見下ろす。

「まったく、さすがの僕でも呆れますね。こんなことをしているなんて。」

エルサイスがそう言って、杖を構えながら、ロッツと私たちの間に割り込む。顔はいつもと変わらない、優しげな微笑みを浮かべているが、どこか感情が高ぶっているようにも見える。

「君たちは、先ほど入口で監視している魔物を倒して中に入った冒険者。」

ロッツは諦めたようなため息をつくと、話し出す。

「……そう。バレてしまっては仕方がない。私たちは、魂を浄化して不老不死の万能薬としているのです。」

ロッツはそういうと、ニッコリとした笑みを浮かべた。薄ら寒さを感じる嫌な笑みだ。

「お金に困っている人の魂を浄化し、お金のある人の命と変える。」

まるでそうするのが当たり前で、何が悪いのかまったくわかっていないような口振りだ。

「貧乏は不幸です。生きることさえ否定されるように感じる。だからこそ、私たちは、背中を押してあげてるのです。」

「勝手なこと言うな!!」

私は剣を抜くと、構える。エルサイスが切かからないようにと、手で制してきたが、そんなものお構い無しだ。ここでこいつの意見を否定しなければ、私の中で色々なものが失われる。

「貧乏が不幸も、生きることを否定されるように感じるのも、全部お前らの主観だろう!勝手にかわいそうって哀れんで、挙句の果てに、勝手に命を奪う。そんなことが、許されてたまるか!!」

貧乏だろうと、病気だろうと、ひとりぼっちだろうと、その人の幸せは、その人が決めることだ。それを他人が勝手に不幸と決めつけて、人生を奪うだなんて、許される行為ではない。

「背中を押してあげてるなんて、厚顔無恥も甚だしい。お前がやってることは、ただの人殺しだ!恥を知れ!」

私の言葉にロッツは「やれやれ」とういうように、首を振る。呆れ返ったようなその態度が、私の怒りを逆撫でする。思わずぐっ体に力が入るが、エルサイスが肩に手を置いて、それを抑えてくる。

「てめぇ……。」

そう悪態をつくが、エルサイスはビクともしない。

「もう少し、情報がほしい。」

エルサイスが、私にしか聞こえない小さな声で言う。こんな時でも、彼は冷静だ。私が切りかかってごちゃごちゃにする前に、できるだけ多くの情報をロッツから聞き出しておきたいらしい。

「人類を皆救うの到底無理なこと。少ない犠牲で、最大の幸せを考える。これは、人類のための慈善事業なのです。」

ロッツはそう言うと、優しげに微笑んだ。

「お話はそれくらいですか?」

エルサイスが負けず劣らずの笑顔で返す。

「こんな事業は、早々に潰れた方が、人類のためだと僕は思いますよ。」

私の肩から、エルサイス手が離れる。私はそれをGOの合図として受け取って一直線にロッツに向かい、切りかかる。

「おっと。」

ロッツは涼しい顔で、私のファイアスラッシュを細身の剣で弾き返した。私は1度バックステップして距離を取り、剣を構え直す。一撃目でだいたいわかる。こいつは手強そうだ。

「ここで冒険者であるあなた方を倒しても、生き返ってしまう。ならば……」

ロッツはそういうと、口に手をあて考える。

「面白いことを思いつきました。神の祝福を受けて不死になったという冒険者。あなたがたにこの不死の万能薬を与えるとどうなるか。興味はありませんか?」

ロッツの胸ポケットから出された小さな薬瓶の中には、無色透明の薬が入っていた。人の魂から作られた、不死の万能薬。おぞましい薬だ。

「どちらの神が勝つか。気になります。神を試すなかれといいますが、私たちの信じる神が正しいのか。あなたがたを生かす神の加護が正しいのか。試してみるとしますか。」

そう言って切りかかってきたロッツの剣を、私は盾で受け止めた。

「エル。全力で行くぞ。」

私の言葉に「うん」とエルサイスがうなずく。

この戦いは、絶対に負けるわけにはいかない。

私はロッツの剣を盾で受け流すと、デモンソード=アビスを振り上げた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。