アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
時間帯的に違うけど……
まぁ小説なんで許してください
「気持ちいいねぇー。」
ユイゼは、海岸から少し離れた底が深い場所で、浮き輪の上に乗り、波の上をゆらゆらと漂っていた。近くにはセリクがいて、ユイゼの周りをグルグル泳ぎ回っている。
「ユイゼちゃん、暑くない?」
「うん、大丈夫。ありがとう、セリク。」
ユイゼは波に揺られながら、日光浴を楽しんでいた。波の上にただプカプカと浮かんで脱力していると、とても気持ちがいい。
そこへ、少し大きめの波がくる。
「あっ。」
ユイゼがそう声を出した時には、もう遅かった。浮き輪はあっという間にひっくり返り、ユイゼの体は海に投げ出されてしまう。
「きゃっ!」
「ユイゼ!!」
セリクは急いで潜って、水中でもがいているユイゼを抱き寄せ、水面まで引っ張りあげる。
「ぷはぁっ!」
「大丈夫!?」
「う、うん……ゴホッゴホッ……。」
セリクは、むせるユイゼを砂浜まで引っ張って泳いだ。砂浜につくと、ユイゼを座らせ、その顔を、心配そうにのぞき込む。
「セリク、コホ……ご、ごめん……。」
水に濡れ、目を潤ませながら、そう謝るユイゼを、セリクは不可抗力ながら、至近距離で見てまい、その色っぽさに、思わず目を下にそらす。そして今度は、水着姿のユイゼの、胸の膨らみを見てしまう。
「(う、うわぁ……。)」
目のやり場がない。ついさっきまで、まったく意識していなかったのに、一度気になると、そこばかり見てしまう。白い肌、やわらかそうな肉、真ん中にはいる谷間の線。
「セリク……?」
無反応なセリクに、ユイゼが首を傾げる。
「あ、いや!!なんでも……な……い……。」
罪悪感に襲われたセリクは、思わずユイゼから顔を背ける。
「(ダメだダメだダメだ!!)」
理性を総動員して、よからぬことを考えてしまいそうな頭を、なんとか制御する。
「ユイちゃん大丈夫?」
そこに貝拾いをしていた。クローバーとにもが、心配そうに割り込んできた。
「くーちゃん、にもちゃん!大丈夫ですよ!油断してたら、ひっくり返っちゃっいました。」
ユイゼはそう照れたように笑う。
セリクは2人の登場をチャンスと思い
「ぼ、僕、泳いでくるので、ユイゼちゃんのことお願いします!」
と言い残すと、振り返りもせず、海に飛び込んでいった。
「あっ!セリク!」
「なんだあいつ。」
「さぁ?なんかちょっと変だったねー。」
首を傾げる乙女たちを置いて、セリクはがむしゃらに泳ぎ、今は何も考えないようにと、体を動かし続ける。
「(早く忘れないと……。)」
セリクは瞼に焼き付いたユイゼの姿を、何とか振り払おうと、必死になっていた。
「ちょっと……今の見ました?エルさん。」
「ええ、見ましたよ。もふさん。」
エルサイスともふは、デッキチェアに寝そべりながら、セリクとユイゼの間に起こったことの一部始終を見て、ニヤニヤ笑っていた。
「セリクさんは相変わらず若いですねぇー。」
「ユイゼさんは流石ですね。あれは童貞殺しですよ。」
エルサイスの言葉に、もふは思わず吹き出す。
「セリクさん、ガッツリ見てましたからね。ユイゼさんの胸を。」
「うんうん、羨ましいですね。あれ相手がクロだったら、0.5秒で腹パンが飛んできますよ。」
もふはゾッとして自分のお腹を押さえる。クローバーの腹パンは、完全にトラウマになっていた。
「もふー!!」
そんな2人の元に、クローバーとにもが帰ってくる。
「見てー、キレイな貝殻拾ったの。」
にもはそういうと、ピンク色の小さな貝殻を、数枚手のひらに乗せ、もふに見せた。
「あのねー、これとこれを組み合わせると……」
にもは貝殻をパズルように合わせて
「ハートになるんだよ!」
と、手のひらの上で小さなピンクハートを完成させる。
「おおー!すごいね!」
もふはそう褒めながら、にもの頭をよしよしと撫でた。にもは得意そうに「ふふんっ」と笑う。
「もふに1個あげる。半分ずつ持って、お守りにしたい。」
もふは貝殻を大事そうに受け取ると
「ありがとう。後でネックレスか、ピアスに加工してあげるね。」
と言って、ウィンクした。それに気を良くしたにもは
「お礼はキスでいいよ。」
と言って、目を瞑り、唇を「んっ」と突き出す。もふは一瞬困った顔をするが、すぐに取り直し、そっとにもの頭を抱くと、その耳に口を寄せ
「キスは夜、2人っきりの時にね。」
と囁く。その言葉に、にもは溶けるようにその場に崩れ落ちた。
顔を赤く染めて「キャーキャー」言っているにもを、クローバーは呆れたように見ていた。
「クロもやって欲しい?」
「間に合ってる。」
顔を寄せてきたエルサイスの頬を、クローバーは手で突っぱねる。
「つれないなぁ……。」
「うるせぇ。くだらねーこと言ってないで、ランチの準備しろ。」
「はーい。」
エルサイスは不満そうに返事をしながら、もふと一緒にテーブルセッティングを始めた。
レジャー用のダイニングテーブルに、所狭しと並べられた料理。ブロシェット、クロケット、フラウンダームニエル、マーリンソテー、アオバカツオのたたき。
どれも美味しそうだ。
育ち盛りの若者たちと、大食いの成人男性の前では、大量の料理たちは、あまりにも無力だった。あっという間にテーブルの上は空になる。
「はぁーお腹いっぱい!!」
Ayamiがそう息をつくと、Ryuが
「はぁーいっぱい……ハニーパイ!!」
と、親父ギャグを飛ばす。笑ったのは、本人とテイルだけだった。
「ははは」と馬鹿笑いしているテイルの横で、ソラが眠そうに目をこすっている。
「ソラさん疲れちゃっいました?」
エルサイスが声をかけると、ソラは
「うーん……。」
と、ウトウトしながら、あくびをした。
「こんな大勢で出掛けて遊ぶのは初めてだからな。はしゃいで疲れたんだろ。」
テイルはソラを抱き上げると、よしよしと頭を撫でる。ソラはテイルの肩にごしごしと顔を擦り付け
「寝たくないよぉ……。まだ……みんなと遊びたい…。」
と甘えたように呟いた。
「大丈夫。あとでちゃんと起こすから、今は寝な。」
テイルはそう言いながら、ソラをデッキチェアに寝かせると、背中をポンポン叩いて、寝かしつける。スヤスヤ眠るソラの横顔を見て
「さすがテイルさん、もう立派なパパですね。」
と、もふがからかう。
「誰がパパだ。殺すぞ。」
テイルがギロリと音がしそうな目で、もふを睨みつけたが、もふは怯むどころか、ニコニコした笑みを返し、余裕の表情だ。
「まぁまぁ、落ち着いて。」
見かねたRyuが仲裁に入る。
「なんだ?ケンカか?そーいうのは、レイドで発散しろ。」
そう割って入ってきたクローバーは、水着姿に剣と盾を装備していて、なんとも奇妙な格好だ。
「腹ごしらえが終わったら、レイドだろ?」
そうするのが当たり前と言うようなクローバーの口ぶりに、男性陣は一様に首を傾げる。それとは対照的な、女性陣は皆水着姿のまま武器を構え、準備万端の様子だ。
「クロ、本当に行くの?レイドに。」
「当たり前だろ。」
やる気満々なクローバーを前に、エルサイスはため息をついた。
1パーティーは8人。海には10人が遊びにきていたが、ソラがお昼寝をしてしまい、その付き添いで、テイルはレイドの参加を辞退した。
レイドに参加するのは、聖騎士壁のクローバー、短剣援護&回復のエルサイス、機工士援護のにも、両手剣火力のもふ、拳聖火力のユイゼ、両手剣火力のセリク、両手剣火力のAyami、弓回復のRyu、以上の8人だ。
「じゃぁ、軽く打合せしましょう。」
エルサイスはそう言うと、レイド参加メンバーを集めて、ミーティングを始める。
「レイドボスのトコナツミ自体は火属性ですが、攻撃の主な属性は水属性なので、武器、防具、スキルを水属性で固めて下さい。」
エルサイスの指示に、何人かが下を向いてステータスを開き、装備やスキルを変更する。
「ナツミは処理しますか?」
セリクが質問する。
「どうしましょうか?」
エルサイスが全員に聞き返す。
レイドボスのトコナツミが召喚する雑魚のナツミは、物理&魔法攻撃力が大きく低下するデバフをこちらに付与してきて、戦闘を大きく遅滞させる原因になっていた。だからといって、安易にナツミを倒すと、トコナツミの攻撃力が超絶強化されてしまい、全体攻撃で全滅する恐れがある。
「倒すか。ダメージ上がると気持ちがいいし。」
クローバーがあっけらかんと言う。
「え?倒したら死んじゃうんじゃないです?」
「タイミング良く倒せば、全滅はしませんよ。」
心配そうなAyamiに、エルサイスが返す。
「津波攻撃の直後に処理すれば、次の津波攻撃までに攻撃力超絶アップのバフが切れるから、全滅は免れるらしいですね。タゲ取ってる人は痛いですけど。」
もふが壁のクローバーの様子を伺いながら言う。
「クロなら大丈夫ですよ。ちょっとやそっとじゃ死なないので。」
エルサイスはそう言ってニッコリ微笑む。どこか自慢げだ。
「問題は誰がナツミを処理するかだな。タイミングを間違えば全滅必至。責任重大だ。」
クローバーがそう言って、パーティーメンバー1人1人を見回す。誰も目を合わさなかった。
「臆病者め。」
クローバーがそう揶揄すると、おずおずとユイゼが手を上げ
「誰もやらないなら私が……」
と立候補する。
「大ボスの候補に応募する……。」
「りゅうは黙ってて。」
ダジャレを挟むRyuを、Ayamiが注意して黙らせる。
「ユイゼちゃんいいの?」
「うん、誰もやりたがらないし。仕方ないかなって。」
セリクが心配そうにそう聞くと、ユイゼは無理に笑顔を作った。
パーティーメンバーのうちアタッカーは、もふ、ユイゼ、セリク、Ayamiの4人。その中で、ユイゼは拳聖で、トコナツミ特攻武器の脱種チェインソーではなく、拳武器をメインしていて、ナツミ処理に向いているというわけではなかった。
「おい。」
どこかうかない顔のセリクに、クローバーが声をかける。
「はい?」
「ナツミ処理、お前やれ。」
「えっ?!」
突然の命令に、セリクは戸惑った声をあげた。
「男ならデカい責任持つ経験も、たまには必要だろ。」
セリクは困ったように頭をかく。そんな姿を気遣って
「無理しないで、私がやるよ?」
とユイゼが声をかける。ユイゼに心配はかけられない。セリクは覚悟を決めると
「わかりました。僕がやります。」
とクローバーを見つめ返した。
「おっし、決まりだ。」
クローバーはそう言うと、満足気に微笑んだ。