アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
合図の鐘がなる。
砂浜に現れた、巨大な魔物、トコナツミ。赤い色をしたゲルミ族で、麦わら帽子にスイカの浮き輪と、可愛らしい格好している。しかし、その見た目とは対照的に、すごく強い。さすがレイドボスだった。
クローバーはフォアフロントを唱えたあと、クロスブレイドでトコナツミを切り裂く。どちらもヘイトがつく、特別なスキルだ。
「火力はタゲが安定するまではクリティカル重視で。にもさんデバフ優先でお願いします。りゅうさんはHP減るまで攻撃してていいですよ。」
エルサイスが滑らかな指示を出す。
にもがスモックボールで敵の攻撃力を低下させている横で、もふが涼しい顔で流水剣を放つ。特攻武器&弱点属性のクリティカルヒットで、かなりのダメージを与えていた。
「もふは強いなぁ!」
にもはそう言いながら「ひゅー」とはやし立てるように口笛を吹いた。
「にも、集中しないと危ないよ。」
「大丈夫、姉御が守ってくれる!」
「そんなんで死んでも知らないからね。」
クローバーがカレッジブレイドで攻撃しながら、にもに言い返す。にもはおかしそうに笑うだけで、全然気にしていない。随分余裕がありそうだ。
一方Ayamiは、初めてのレイドに緊張していた。震えだしたくなる両手を、キツく剣を握り締めて、押さえ込む。足がすくんで、中々攻撃できないでいるAyamiの隣で、Ryuが
「トコナツミ……トコナツミカン。」
と、小声で言いながら、ライトニングアローを放っていた。Ayamiは思わず、脱力して、ため息をつく。
「どうしたの?あやみん?」
Ryuが不思議そうに首を傾げながら聞く。
「別に、何でもない!」
いい感じに力が抜けた。もう震えはこない。
「(りゅうのくだらない親父ギャグも、たまには役に立つ。)」
Ayamiはそう思って、ほんの少しだけ微笑むと、ウォータースラッシュでトコナツミに斬りかかった。
「ナツミ出現。」
クローバーの報告に、セリクは緊張する。
「セリクさん、一撃で倒せる位まで、ナツミのHP減らしといて下さい。」
エルサイスの指示に、セリクは
「は、はい!」
と、緊張で裏返りそうな声をなんとか押さえ込んで返事をする。
「セリク?大丈夫?」
「大丈夫。」
心配そうなユイゼに、セリクは無理やり笑顔を返す。ここで弱みを見せたら、男がすたる。
セリクは自分を奮い立たせるように、力いっぱい剣を振り上げ、氷晶刃でナツミに切りかかった。半分ほどHPを削って、待機する。
「タイミングきたら合図します。」
エルサイスの指示を待ちながら、セリクはタイミングを見計らっていた。
トコナツミが両手を上げ、ウネウネとダンスを踊るような仕草をする。
「津波がくるぞ!」
クローバーがそう叫ぶ。その後ろで、エルサイスがエアシールで風印を付け、回復の準備をしていた。
「くっ……。」
「きゃっ……。」
トコナツミが呼び寄せた津波の威力は中々だった。激しい水流に揉まれ、何人かは怯む。
「セリクさん!」
エルサイスに言われる前に、セリクは波をかき分け、ナツミに流水剣で切りかかっていた。
「あっ……。」
それは思わぬ失敗だった。
「おい、ビビってんじゃねーぞ。」
クローバーが笑いながらセリクを揶揄した。
「ご、ごめんなさい!」
セリクは、涙目になりながら謝罪する。
「大丈夫です。そのまま放置で、次のタイミング待ちましょう。」
「気にしない。気にしない。」
エルサイスと、にもが、励ましの言葉を送る。
セリクが切りかかったタイミングはバッチリだったが、ほんの少しだけ攻撃力が足りなかった。ナツミを一撃できず。倒せなかったのだ。
それでも、休んでいる暇はない。全員津波でびしょ濡れになりながらも、戦闘を続ける。
「にもさん、メンテナンス使えます?」
「おっけー。」
にもが攻撃力低下のデバフを一時的に解除する。
「一気に叩き込め!」
クローバーがクロスブレイドでトコナツミを切り裂きながら叫ぶ。クローバーの言葉に反応して、ユイゼがバフ付きの嵐を食らわせる。防御無視の多段攻撃で、ユイゼはかなりのダメージを叩き出していた。
「ユイゼさんは強いですねぇ。」
もふはそう言いながら「あなたはどうですか?」というように、セリク様子をチラリと伺う。安い挑発だ。でも、セリクはそれに乗った。一瞬ムッとした顔をすると、トコナツミにウォータースラッシュを放つ。
「もふさん、若人をからかってはいけませんよ。」
エルサイスがウォールで、津波のダメージを回復しながら言う。
「エルさんだって、人のこと言えないでしょう?」
「まぁそうですけど。」
「まったく。嫌なやつらだよ。」
クローバーがうんざりしたように漏らす。AyamiとRyuは、困ったような苦笑いを返した。
「ほら、くるぞ。次は仕留めろよ。」
クローバーがそう言った直後、津波が全員を襲う。
激しい水流の中、セリクは目を凝らしてナツミに狙いを定めた。オーシャンリッジの一撃で、ナツミは黒い霧になった。
「クロ!!」
エルサイスの呼びかけに、クローバーはすぐ反応して、ディフェンススタンスで自身の物理防御力を上げる。エルサイスは、すかさず暗い霧を唱えて、トコナツミの攻撃力を下げた。
「Ryuさん多重回復を。」
「はい!」
攻撃力が超絶アップしたトコナツミが、クローバーに次々攻撃を加える。攻撃種類よっては、1000以上のダメージを食らっているが、クローバーはまったく怯まない。減ったHPは早打ちでスキルの回転率をあげたRyuが回復する。
「さすが姉御!!」
にもはなぜか嬉しそうだ。
「相変わらずの鉄壁ですねぇ。」
もふはそう言いながらも、トコナツミへの攻撃の手を緩めない。次々にスキルを使い、ダメージを与えていく。
「ナツミ復活。」
クローバーの報告とほぼ同時に、セリクが動く。
「いい動きだ。」
クローバーが満足気に微笑む。
「津波きます。」
「痛てぇぞ。全員頑張って耐えろ。」
クローバーはそう言いながら、プロテクションで全員の防御力を上げる。超絶アップはしていないが、トコナツミの攻撃力は高いままだ。さっきの津波とは比べ物にならないくらい重い波が、パーティーメンバーを襲う。
「ぐぅ……。」
「いたーい!」
膝を付かなかったのは、クローバーとセリクだけだった。セリクは波に顔を歪ませながらも、一直線にナツミに向かい、黒い霧へと変える。
「やれば出来るじゃねーか。」
「セリク……!!」
ユイゼの尊敬の眼差しを受けて、セリクは嬉しそうに、そして少し恥ずかしそうに頬を高揚させた。
「ゴッホっ……被害報告。最大ダメージでHPの60%喪失。」
エルサイスが、波にむせながら報告する。
「デバフ後回しで、回復優先にしろ。私は自分で何とかする。」
「了解。りゅうさん、僕も補助ヒーラーするので、クロ以外のメンバーのHPを次の津波まで90%回復させましょう。」
「はい!」
Ryuはウォール、エアシール、ペールと順番に唱え、あっという間に全員のHPを回復させていく。
「あやみん大丈夫?」
次の呪文を準備しながら、Ryuは膝をついてヨロヨロしているAyamiに手を貸した。
「わっと!!」
RyuがAyamiの手を力いっぱい引っ張って起こしたため、勢い余ったAyamiはバランスを崩し、Ryuに抱きつくような格好になってしまう。Ryuも思わずAyamiを抱きしめて、その体を支える。
「「あっ……。」」
照れて顔を真っ赤にする2人の間に
「おい、イチャつくのはあとにしてくれ。私が死ぬ。」
と、HPが半分ほどまで減っているクローバーが割り込んでくる。
「あぁ!すみません!」
「い、イチャついてなんかいません!!」
2人は慌てて離れると、それぞれ回復と攻撃を再開した。クローバーは呆れたため息をつく。他のメンバーはニヤニヤしながらその様子を伺っていた。
「にもさんクールタイムが終わり次第スモックボールでデバフをお願いします。火力はDPS優先で回転率上げてください。」
「はーい。」
「ほいっ。」
「はい!」
エルサイスの指示に、それぞれが返事を返す。
「あと少しだ。出し惜しみすんな!ぶっ倒せ!」
クローバーがそう声をかけると、全員が一気にトコナツミにスキルを叩き込む。
そうして8人は、小さな連携を幾重にも積み重ねながら、勝利への道を突き進んでいった。