アルケミアストーリー~クロとエルの物語~ 作:cloverlight
テイルは、デッキチェアの上でぐっすり眠るソラの隣で、1人ハイボールを飲んでいた。
炭酸のピリピリとした感覚と、レモンの爽やかな香りが、喉を突き抜けていくと、うだるような暑さが、あっという間に吹き飛んでいく。
「はーーー。うまい。」
思わずそう呟きながら、ソラの様子を伺う。
ソラはスヤスヤと規則的な寝息を繰り返し、気持ちよさそうに眠っていた。
その姿がなんだかとても愛おしくなって、テイルはソラの柔らかいブロンドの髪を、優しく撫で付けた。
今までずっと家族で旅をしていたが、こうやって大勢で集まって遊ぶというのは、テイルにとっても、ソラにとっても、初めてのことだった。
それはとても刺激的で、同時にとても穏やかで、素敵な経験だ。
「う……うん……。」
ソラがモゾモゾと動き、寝返りを打つ。
「ソラちゃん?そろそろ起きようか?」
ソラが寝てから、30分ほど経っていた。
「う?……うーん……。」
ソラはまだ眠そうな目を擦りながらゆっくり起き上がる。
「大丈夫?」
「あ!!私寝ちゃった!みんなは!?」
はっと目を覚ましたソラが、慌てたように辺りを見回し、テイル以外誰もいないとわかると
「帰っちゃった?」
と、泣きそうな顔をした。そんなソラを見て、テイルは笑った。
「誰も帰ってないよ。みんなレイドに行ったんだ。」
「よかったー。」
ソラは安心したため息をついた。
「ソラちゃん、海は楽しい?」
「楽しい!!みんなとなら、毎日行きたい!!」
「毎日はさすがに無理だなぁ。」
テイルはそう困ったように笑いながらも、心の中では喜んでいた。
ソラに普通の仲間がいて、一緒に楽しい時間を過ごして、幸せな思い出が作れる。それはテイルが子供の頃は、できなかった経験だ。
「私もレイド行きたかったなぁ。」
「また今度、一緒に行こう。みんなで。」
「うん!」
そう笑顔で返事をするソラの頭を、テイルは優しく撫でた。
レイドに行っていた8人が帰ってくると、ソラは大喜びで走っていった。
「くーちゃんおかえりなさい!」
先頭を歩いていたクローバーに、ソラが抱きつく。
「おー、ソラちゃん!ただいま。」
クローバーはソラを優しく抱き上げると、そのままぐるぐる回り、振り回す。ソラはきゃっきゃと声を上げて笑った。
「どうだった?」
テイルが訪ねると
「とても良かったですよ。みなさん総ダメージ上位報酬ももらえたようですし。」
と、エルサイスが答える。
「セリクさんも大活躍でしたし。」
もふがニヤリとしているのを、テイルは呆れた様子で見つめ返す。
「どうせまた、からかってたんだろ?」
「失礼な。ちょっとハッパをかけただけですよ。」
不満そうな顔をするもふに、テイルは嫌そうな顔をした。
「セリクかっこよかった!」
憧れに目を輝かせたユイゼに、そう言われたセリクは、思わず頬を赤く染め、照れたように頭をかく。
「いい経験になっただろ?」
クローバーがソラを地面に下ろしながら言う。
「はい。ありがとうございます!」
セリクはそう返しながら、丁寧なお辞儀をする。騎士らしい、真っ直ぐで整ったお辞儀だ。クローバーはそれを見て満足そうに微笑んだ。
「ねぇ、くーちゃん、私まだ海で遊びたいです。」
ソラが上目遣いで、クローバーの手を引きながら言う。
「うん、遊ぼう!遊ぼう!今日は夜まで遊ぶよ!」
「やったー!」
「姉御行こう!行こう!」
にもがクローバーの手を取り、一直線に海へ走っていく。その後ろから、浮き輪を抱えたソラが続く。
「にもちゃん待って!!私泳げないんだってばっ!!」
「私が教えてあげるよ!」
「わああぁぁ!!キャー!!」
クローバーの叫びを、エルサイスは笑いながら聞いていた。
エルサイスの隣で同じように笑っていたRyuの肩を、Ayamiがトントンと叩く。振り向いたRyuにAyamiは
「りゅう、さっきは起こしてくれて、ありがとう。」
と言いながら、頬染め、すぐに目をそらす。
お互い、さっき抱き合った時の感覚がまだ体に残っていた。なんだか恥ずかしくて、でも嬉しくて、2人は照れたよう笑い合った。
「あやみんさーん!!ここお山作って、水流したいです!」
波打ち際で浮き輪を背もたれにしながら、砂遊びをしているソラが、大きくAyamiに手を振る。
「おっけー。大きいやつ作ろう。ほら!りゅうも手伝って!」
「う、うん。」
いつもより少し素直なAyamiに、Ryuは戸惑いながらも、喜びを感じていた。
「セリク、私たちも行こう!」
ユイゼはそう言いながら、セリクの腕に抱きつく。腕に当たる柔らかい感触に、セリクは思わず『そこ』を見てしまう。柔らかい膨らみが、自分の腕にぎゅっと押し付けられていた。
「(あああああ!!ダメだダメだダメだ!!)」
セリクは叫び出したくなる気持ちを何とか押さえ、腕を振り払い、そっぽを向く。
「セリク?」
振り払われたユイゼは、多少のショックを受けていた。なぜ振り払われたか理解できない。
「どうしたの?遊ぶの嫌だった?」
「あ、いや……。」
顔を真っ赤にしたまま、返答に困るセリクを、ユイゼは不思議そうにのぞき込む。
「(う、上目遣い……!!)」
セリクのライフは既にゼロだ。
「ユイゼさん、セリクさんは少しお疲れのようですから、先にクロたちと遊んでて下さい。」
エルサイスがそう助け舟を出しながら、ユイゼをセリクから離し、海の方に手を振る。
「クロ!!ユイゼさんがそっちに行くよ!」
「ちょっ……今それどころじゃ……ゴホッゴホッ!死ぬ!」
「はーい!」
スパルタ水泳教育を受けているクローバーの代わりに、講師のにもが大きな返事を返す。
「さぁ、ユイゼさんも、クロに泳ぎを教えてください。」
エルサイスはそう言ってユイゼにウィンクした。ユイゼは少し躊躇って、チラリとセリクを1度見たが、最後は
「はい……。」
と返事をして海へとかけて行った。
「まったく……。」
一部始終を見ていたテイルが、呆れたため息をつく。
「ほんとに……勘弁してくれ……。」
そう独り言を言いながら、顔を押さえてうなだれるセリクを、エルサイスともふはニヤニヤして見ていた。
「ソラちゃんの前でそういう破廉恥なことすんなよ。」
「僕は破廉恥なことなんか……!!」
「してるだろ?」
「うっ……。」
テイルに一言も反論できないセリクは、悔しそうに唇を噛んだ。
「まぁそういうお年頃ですから、仕方ないですよ。」
「羨ましいですねぇ。」
エルサイスともふが、涼しい顔でセリクをからかう。セリクの心は今にも折れそうだ。
「まぁ健全な反応なんじゃねーの?この2人よりはマシさ。お前らどーせ、レイドでも、水着姿で戦う女ども見て、心の中でニヤニヤしてたんだろ?」
テイルが、エルサイスともふに軽蔑の眼差しを向けながら言う。
「そりゃあそうですよ。あんな軽装でボスの攻撃に一切怯まないクロ。美しすぎます。」
「波飛沫の中、髪を揺らすにもも、かわいかったですよ。」
ニコニコしながら答える2人に、セリクは戸惑う。どうしたらここまで開き直れるのかさっぱりわからない。
「ソラちゃん行かせなくて良かった。このむっつりスケベめ。」
「ロリコンに言われたくありません。」
そう睨み合う3人を前に、セリクは大きなため息をついた。どうやらまともな大人はここには居ないようだ。
「とにもかくにも、パートナーを悲しませてはいけません。」
「ユイゼさんに、ちゃんと謝ってきた方がいいですよ。」
そう言われたセリクは、海で遊んでいるユイゼを見る。ユイゼは、うかない顔をしていて、笑い方もどこかぎこちない。腕を振り払われたことが、かなりこたえているようだった。セリクの胸が罪悪感で痛む。不可抗力とはいえ、申し訳ないことをしてしまった。
「さぁ!!」
もふにそう背中を叩かれたセリクは、一瞬戸惑って3人を振り返ったが、テイルが
「さっさと行ってこい。」
と言いながら、手をしっしっと振ると「うん」とうなずいて海へと走っていった。
「まったく、世話が焼けるぜ。」
テイルはそうため息をつきながらも、どこか気分が良さそうだ。意外と世話焼きなのかもしれない。
「さぁ、僕らは夕飯の用意をしながら休憩です。」
「暗くなったら花火もやりますから、それまでの体力温存しておきましょう。」
エルサイスともふはそう言うと、順番にあくびをし、デッキチェアに寝そべり合成を始めた。
テイルは2人とは少し離れたシートの上に直接寝転がると、またハイボールに口をつける。
海では、クローバーがにもの地獄の水泳レッスンを受け、セリクとユイゼがそれを笑って見ていて、AyamiとRyuとソラが、その近くで砂のお城を作っていた。
それぞれが、それぞれに海を楽しんでいた。
夜にはバーベキュー、そして最後は盛大な花火で、幕引きだ。
そうして、8人心に、夏の思い出がまた1つと、刻まれていくのだった。