アルケミアストーリー~クロとエルの物語~   作:cloverlight

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第65話 嘘つきの末路

疲れていた。

クローバーも、僕も泥だらけだ。

連邦の大農園に、野菜をもらいに顔を出したら

「おお!!これは冒険者殿、これから秋野菜の収穫をするのだ。手伝ってはくれんかの?」

とバスタに捕まってしまい、普段から大量の野菜を無料でもらっている僕らは、その恩から断ることが出来ず、農作業を手伝った。

最初は新鮮な体験を楽しんでいた僕らも、バスタの人使いの荒さに疲れ果て、農園を出た夕方頃には、クタクタになっていた。

広がる平野をとぼとぼ歩きながら、僕らは帰路につく。

「宿、どうしようね……。」

「うん。」

「公国まで行くの面倒だね。」

「うん。」

流石のクローバーも疲れているのか、いつにも増して口数が少なく、うつむきがちだ。

ユーキが僕らを『魔王の手下』と嘘の街宣してから、連邦の城塞都市には、もう長いこと泊まっていなかった。

「お風呂に入りたいなぁ。」

クローバーがため息まじりにもらす。

クローバーは連邦の宿にある小さなバスルームがお気に入りなのだ。

今日は疲れているし、農作業で泥だらけなので、お風呂に入りたくなる気持ちはわかるが…。

「城塞都市かぁ……。」

僕はため息をつく。

人の噂も七十五日というが、ユーキが街で僕らを『魔王の手下』呼ばわりしてから、まだ1ヶ月ほどしか経っていない。

家を持たずに、毎日泊まるところを探さなければならない僕ら冒険者にとっては、泊まれる宿が制限されることは、大きな痛手になっていた。

「もういいんじゃないか?何と言われようと。」

「厄介事は禁物だよ。連邦は特にピリピリしてるからね。」

事はそんな単純な問題ではないのだ。戦争前に、動き回って、その動向を探る僕らは、連邦にとっては目障りな存在だろう。

連邦は、何かしらのきっかけさえあれば、いつでも目障りな僕たちを捕らえて、首を跳ねることだってできる。気をつけなければいけない。

「わかってる。でも、挑戦してるみる価値はあるだろ?城塞都市にいく、宿に止めてもらうよう頼む、無理ならそのまま牛車で公国へ。OKだったらラッキーって感じで。」

「断られても暴れない?」

「暴れる元気もねーよ。今は。」

バスタは本当に人使いが荒い。戦闘以外でこんなに疲れたクローバーの姿を見たのは、初めてだ。

「とりあえず行こうか。城塞都市に。」

僕はそういいながら、励ますようにクローバーの頭をクシャッと撫でた。いつもならすぐ振り払われるのだが、今はその気力さえないらしい。クローバーはうつむき加減で、黙って僕を受け入れていた。

 

 

 

「助けてくれ……魔王が……魔王が町の中に……!」

城塞都市につくなり、町人の男がそう言って、助けを求めてきた。

僕とクローバーは顔を見合わせる。何かよからぬことが起こっているらしい。

僕が「どうする?」と尋ねる前に、クローバーは既に走り出していた。さっきまで疲れた姿はどこに消えたのか、クローバーの体力は底が知れない。僕は疲れて悲鳴をあげる体を必死で動かして、そのあとに続く。

「うわぁああ……。」

叫び声が聞こえる。広場で、人が倒れていた。僕らを陥れたユーキと、そのパートナーのカレンだった。

倒れている2人の前には、魔物が立っていた。

「ふん、お前らでは話にならん!」

そうユーキとカレンを見下ろす魔物を見て

「またお前か!!」

と、クローバーが呆れ返った声をあげる。

ライオンのような鬣、4本の角、鋭い爪。猫のような出で立ちのこの魔物は、すでにクローバーに2回討伐されている、魔王アスタナだ。

「無念……!」

アスタナの足元で、ユーキはそう漏らすと、気を失った。カレンはユーキより先にやられてしまっていたようだ。先程から目を瞑ったまま動かない。

「来たか、勇者よ!忘れはせぬぞ、貴様の刃の痛み!」

アスタナがそうクローバー凄む。

「私は勇者じゃない。ただの冒険者だ。」

クローバーがうんざりしたように返す。

前回あった時からそうだが、この魔王はどこかズレている。クローバーとまったく波長が合わないのだ。

僕はそのズレがおかしくて、思わずクスクス笑いを漏らす。

「今回は前回のように行かぬ!墓標に刻む名を考えておけ!」

「うるせぇなぁ……。性懲りも無く何度も挑んできやがって……。いい加減にしろ。」

クローバーはそう面倒そうにしながらも、デモンソード=アビスを抜くと、構える。

「手伝おうか?」

「必要ない。」

とりあえず聞いてみたが、予想通りの答えが返ってきた。

「あまり無理せず、ゆっくりやって。」

僕がそう声をかけている途中で、クローバーはアスタナに切りかかる。本当にクローバーは僕の言うことを聞きはしない。僕はため息をついた。

 

勝負はあっという間だった。10秒経たずにアスタナは膝をつき

「ぐはぁ……!1度ならず2度までも……!」

と言い残すと、黒い霧になって消えた。

「正確には、3度目ですけどね。」

僕がそう呟いた声が、アスタナに届いたかどうだかはわからないが、それはもうどうでもいいことだった。

「クロ、お疲れ様。」

「まったく疲れてない。」

僕が声をかけると、クローバーが不機嫌そうな返事をする。僕はそれがおかしくて笑ってしまった。

「まぁ前より確かに強くなってたよ。でもまぁ、レベル1が5になった程度、誤差の範囲だ。弱いことに変わりはねーな。」

剣を収めながらクローバーが言う。

魔王は倒す度に強くなって復活するというが、アスタナがクローバーより強くなるには、あと100年くらいの時間が必要かもしれない。その頃には、僕もクローバーもきっとこの世には居ないだろう。

「おい、起きろ。」

「う、うーん……。」

クローバーがユーキを蹴って、乱暴に起こす。

「クーロ、そんなことしちゃダメだよ。」

「クズ相手に丁寧でいられるほど、私はできた人間じゃねーんだよ。」

僕はため息をつくと、ユーキの方は諦めて、カレンに手を貸す。

「大丈夫ですか?」

いつもの笑顔と、声色と、角度だ。我ながら完璧だと思う。カレンは戸惑いながらも僕の手を取り、立ち上がった。

「魔王を倒したのは、やっぱりこの人たちじゃねーか!」

「うそをついたのね!恥ずかしくないの!?」

立ち上がったユーキとカレンに、町人たちの罵倒が飛ぶ。

「出ていって!この町から出ていきなさい!」

僕とクローバーは、口出しせず、その様子を伺っていた。

「……みんな、嘘をついて悪かったよ……。」

彼をもっと生き汚い人だと評価していた僕は、素直に謝るユーキを意外に思った。

引き際は潔く、悪くない。

詰んでからダラダラと言い訳や弁明を繰り返し、嘘を重ねる人が多い世の中で、こうして自分の罪を認めて、謝罪することができるのは、良いことだろう。

「僕たちは町を出ていく。行こう子猫ちゃん。」

ユーキがそう言いって、カレンの肩に手をかけた。しかし、カレンはそれを振り払うと

「何よ!あなたたちだってよく確かめもしないで、この人たちを追い出したくせに!」

と反論する。

それは確かにそうだが、それをカレンが言うのは違う。クローバーが僕の隣で

「お前が言うな……。」

と呆れたように呟いていた。正にそれなのだ。

「ユーキが本物じゃないとわかったら、手のひら返すの?ユーキだって、この町を救いたい、この世界を救いたいって気持ちで旅をしてるの。でも、想いは強くても、なかなか行動や実力がついていかないの。」

カレンは町人に向かいそう演説する。勝手な主張だ。僕には理解できない。

「すべての人間が想いを実現できる勇者になれるわけじゃないのよ!」

「だからって、嘘をついていいわけじゃねぇだろうが!」

カレンの演説に、町人が割り込む。一分の隙もないまったくの正論だった。ユーキに能力がないのと、僕らを貶めて町人を騙すことは、まったくの無関係の話なのだ。

「そう、だからユーキはそのことに関しては謝った。でも……」

カレンは一瞬言い淀むと、そのまま押し黙った。ユーキを庇おうとしているのだろうが、かえって傷口を広げているように思える。

もう話はとっくの昔に詰んでいるのだ。今更何を言ったところで変わらない。

「何を言っても自分たちのやったことを棚上げにもできないし、言い訳にもならないのね……。」

カレンは1人納得したように呟くと、顔を上げ

「もういい……行きましょう。」

と言って、ユーキを連れて、去っていった。

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